「SNSにはきっかけを置いておきたい」東京・渋谷の古着店「BOY」がインターネットに思うこと(前編)

渋谷の古着店「BOY」がインターネットに思うこと(前編)

 アドビの提供するサブスクリプション型クリエイティブツール「Adobe Express」は、iOS・iPadOS/Android/WEBに対応しており、簡単な操作で誰でも手軽に高品質なコンテンツを作成できる。本連載ではこのツールで、各業界のクリエイティブにおける「課題」を解決していく。

 今回インタビューを行ったのは東京・渋谷の古着屋「BOY」オーナーの奥冨直人氏。宇田川町に店を構える奥冨氏は古着屋を運営するかたわら、音楽イベントの主催や雑誌での執筆も手掛けるマルチなプレイヤー。お店の内装や扱う商品にも彼の多様な興味が見て取れた。多岐にわたる活動に共通するのは、体験を共有する“場”を提供することだという。前後編のインタビューで彼の活動と、クリエイティブへの視座に迫る。(編集部)

ーー奥冨さんがオーナーを務める「BOY」は、どんなお店ですか。

奥冨:僕は昔からファッションと音楽が好きで、その2つの自分にとって欠かせないものに素直に向き合ったお店です。10代のころからDJをしていたり、音楽イベントを開いたりしていたので、店をやるなら服と音楽、そのいずれもを取り扱うお店をやりたかった。

19歳のころ、ある会社のプロジェクトで店を作ることになり、立ち上げの店長に抜擢されたんです。それが前身の「BOY」でした。その後、自身が独立し場所も移転して、この場所に店を構えてから8年、合わせて13年になります。

音楽も服も、僕にとっては常に中心にあるものだけど、他者にとってその存在のバランスは様々で、興味の深さも違うものなので、BOYでは僕自身の「好き」を拡張して、それに興味を持ってもらえるような、お客さんにとっての"きっかけ"になれるようなお店を作りたくなったんです。みんなとポジティブに楽しく、遊べるようなお店ができるんじゃないかなと思って。

僕は子どものころから大事にしているかけがえのないもの、影響を受け続けているものを、ずっと引きずっていて、いまも実は子どものような感覚(笑)。実年齢はもう大人だけど、「BOY」という名前がその精神性を表しているというか。

Boy

ーー20代の前半からお店を運営しているというのに驚きました。

奥冨:実家が自営業だったので、お店を営む環境が小さいころから近くにあったんです。それに加えて、何か空間を作る、遊び場を作るということに対して、子どものころからものすごく関心が高かった。よくある、空き地を勝手に自分たちの村にして遊んだり、秘密基地を作ったり。そういうことを楽しむ気持ちがいまも変わらずあって、むしろ「こんなとこも遊び場にできるんだ」みたいな挑戦もしている。そういう、「場所作り」への意識はずっとありますね。

ーー渋谷の宇田川町にお店を開いて8年になるとのことですが、その間、お店のオーナーだけにとどまらず、たとえば「BOY」という屋号で音楽のイベントを開催なさっていたり、雑誌への寄稿をされていたりします。こういったタレンティブな活動も同時に続けているのはなぜですか?

奥冨:高校生のころバンドをやっていたんですが、初めてライブをやることになって、「自分でライブをやるには自分で企画するしかねえ」と思いイベントを開いたんです。そのころの行動力を大事に、いまも同じような気持ちで取り組んでいますね。その後、DJを始めたときにも、「自分でイベントを企画すればいっぱいDJができるぞ」と思って。好きな人たちを呼んで、集まることで生まれる普段意識していないような出会いや、そのきっかけを作ってくれる。そういう環境が好きなんですよね。

ーーお話を伺っていると、「音楽」と「ファッション」という2つの軸を中心として、子どものころ好きだったものの延長線上に、ストレートにいまの奥冨さんがいるように感じます。

奥冨:恐ろしいぐらい、そうですね。だけど、結局好きなものが増え続けてるだけというか。たとえば街を歩いたり、お店に立っていたりするだけでもいろんな出会いがあって、どんどん好きなものも増えていったんです。好き嫌いがいきなりパタッと切り替わったり、好みが変わったりとかって、いままでないかも。「その時好きなもの」とか、そういう時流のトーンみたいなものはあるけど、「もう好きじゃない」ってことにはなかなかならないんですよね。好きなものが増えて、それを軸に場所を作っていく活動がいまに至るまで続いています。

そういうことを続けていると……たとえば今スタイリングの仕事もしているんですが、これも友達の誘いから始まったので、僕にはいわゆる「スタイリストの師匠」的な人もいないし、記事の執筆にしても、突然「奥冨くんできる?」って声をかけてもらったり。イベントに行ったり、イベントを開いたりすると、色んな場所で僕に関心を持ってくれた人が、「なんか奥冨くんとやったら面白いんじゃないかな」と誘ってくれることが増えていきました。

ーー古着屋さんを運営することと、音楽イベントを開いたり、参加したりすることが活動の軸として2つあるなかで、どちにも共通するのは「コミュニティを作ること」=人が集まって体験を共有できる場所を作ることが、2軸を渡すライフワークになっているように思いました。

奥冨:ライフワーク、と表現していいと思います。ファッションや音楽の世界においては、好みによって人がカテゴライズされたり、あるいは着る服で自身のカテゴリを表現したりすることがあって、僕はもちろんそれはそれでいいと思うし普通のことだと思うんですけど、自分自身はいろんなことに関心があるし、いろんな人が好きだから、ごちゃごちゃしててもいいっていうか。普段会わないような人たちがみんなで楽しめる、そういう空気が充満したら結構いろんなことが起きるんじゃないかって思うんです。

特に若いころって、熱中すると「これが俺にとっての全てだ!」みたいな、没頭から視野を狭めてしまうこともあるじゃないですか。そういう若い人たちに可能性を狭めるだけじゃなくて、もうちょっといろんな選択肢が広があればなと。妙な違和感を与えることで、さらに好きになる可能性だってあるから、そういうところまで探って、掘っていく楽しさを伝えていきたい。「BOY」も、そういう可能性の広がる、違和感を与えるお店でありたい。

ーー「BOY」ではどんな服を扱ってますか?

奥冨:めちゃめちゃざっくり言うと、「"グッ"ときたもの」っていうことだけは、もう10年以上ずっと思っています。セレクトに関しての質問は昔からあって、でもそれは「"グッ"ときたもの」でしかないし、そのときの自分の周りの気配だったり自分が感じている街の空気、自分がそれまで生きてきた中で、いま改めていいと思ってるものだったり、新しく刺激を受けるものだったり、その全ての、「"グッ"ときたもの」。その感覚自体もその都度変化していると思う。それこそコロナ禍の影響もきっとあるし。いわゆる「攻めたファッション」とかでもなくて、流行も見ているし。でもちょっとやっぱひねくれているかもしれないな。いまこういうのが流行ってるんだったら、自分はこっち側にいくのが楽しいかな、と思って置いているものもあります。

ーーどんな人が来ますか?

奥冨:主に20〜30代の方です。僕は32歳なんですが、その前後ぐらいが一番多いですね。昔はファッション誌、スナップ誌を見てお店の存在を知ってくれた人が多かったんですが、いまはSNSで知る方がとても多い。というより、ファッション業界全体にSNS、特にInstagramの登場がものすごい影響を与えたんですよね。僕も2013年からInstagramを始めたけど、最初は友人通しでの情報共有に使われていたのが、どんどんお店や商品を紹介するアカウントも増えていきました。あとはこういったインタビューを読んでいただいて興味を持ってもらうことも多くて。イベントで出会った人が来てくれることも多々あります。

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