銀杏BOYZやビリー・アイリッシュともコラボするJUN INAGAWA 多様な活動を裏付ける“自然体な仕事論”

 ーー絵を描き始めたのはいつ頃ですか?

JUN:3〜4歳のときですね。車のデザイナーである父親が絵を描いているのを横で見ていて、それで描き始めたんだと思います。最初は『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』のキャラクターを真似して描きまくっていましたね。小学校6年生ぐらいになると、自分でストーリーを考えたり、オリジナルキャラクターを作るようになりました。

ーーオリジナルのキャラクターで、マンガを描き始めたんですか?

JUN:いえ、オリジナルキャラクターを作って、そこに付帯するストーリーを考えていく、ということをずっとしていました。ストーリー作ってからキャラクターを作るんじゃなくて、キャラクターを描いた上で物語を膨らませていくっていうのをずっとやっていて、そこで偶然生まれたのが、今回のアニメのもとになるストーリーだったりします。

ーー絵を描くだけではなく、ストーリーテリングも並行して行っていたんですね。

JUN:キャラクターを描くだけで終わったらもったいないと思ったんです。こいつは親とかいるし、好きな人もいるんだろうな、とか、自分に問いかけていったときに、ストーリーを用意してあげた方がキャラクターも喜ぶだろうと。

 僕が描いた”オタクヒーロー”というキャラがいるのですが、これも1枚の絵から生まれました。高校1年生のとき、荒廃した秋葉原の街をバックにオタクヒーローがたたずんでいるイラストを描いて、そこから「なんで秋葉原がぐちゃぐちゃになってるんだろう」「なんで彼はマントとゴーグルをしているんだろう」と想像を広げていきました。僕の作るストーリーのほとんどは、1枚の絵から始まって、そこに情報を付け足していく作り方でできています。

なので一枚絵でも、動きのある絵が好きですね。静的なものよりも、走っていたり叫んでいたりする方が、ストーリーが見えやすいですから。音楽や効果音が聞こえてくるような、動きのある絵を描くよう意識しています。

ーーJUNさんは以前よりマンガ家・村田雄介さんから影響を受けたことを語っていますが、当時からお好きだったんですか。

JUN:当時からめちゃくちゃ好きで、とても衝撃を受けました、「アニメのような激しい動きを、マンガでも十分に表現できるんだ!」と思えたのは村田先生がきっかけです。絵が上手いのはもちろんですが、構図もコマ割りも良くて、映画を見ているような動きを感じられるんです。変な話、アニメより動いているように見えます。

ーーそういった影響を受けながら、JUNさんも「動きのある一枚絵」を磨いていったと。学生時代にはどんな環境で制作していましたか?

JUN:学生時代からつい最近まで、アナログ画材しか使っていませんでした。というのも、絵やマンガの描き方は村田先生のライブ配信をずっと見て覚えたんです。彼がGペンや丸ペンを使っていたので僕も真似してGペンを使っていました。一時期先生がGペンの先端を割り箸にセロハンテープで固定して描いていたのを見て、それを真似したこともあります。

ーーそこからデジタルツールを導入したきっかけは?

JUN:2018年に個展を開く事になり、作品の出力を考えたときにデジタルの方が効率が良いと思ったんです。経験はなかったんですが、デジタルでの自分の絵の可能性も見てみたかったので試しに導入しました。その時導入したのが「Cintiq 22HD」です。当時すでに古い機種だったのですが、新品で購入し、いまも現役で使っています。

ーー初めてデジタルツールを使用したときの印象はいかがでしたか?

JUN:大変な衝撃を受けました。初めて絵を描いたときぐらいの衝撃。まず音ですよね。アナログの画材って描くときに「キュッキュ」とか「シュッシュ」と音がするのに、デジタルだとそういう音がしない。だけどちゃんと指定した画材のタッチで絵が描けるから本当に不思議でした。

あと、パキッとした色を簡単に表現できるのはデジタルならではの魅力ですね。アナログでパキッとした鮮やかな色を作るのは意外と難しくて。ほかにもデジタルしか出せない線の綺麗さや細かさも魅力的でした。

ーー現在はどのようなスタイルで制作していますか?

JUN:最初は楽しくて全部デジタルで制作してたんですが、もともとアナログで描いていたこともあり、最近はアナログで線画を描いて、デジタルで着色をしています。この方法だと、アナログで失敗したところをデジタルで修正できるのが良いですね。今後、デジタルでマンガを描こうと思っています。トーン切り貼りの必要がなく、効率が良さそうなので。

ーー今回のインタビューに先立ち、昨年リリースされたプロ向けの液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 16」をお試しいただきました。いかがでしたか?

JUN:普段使っているのが22インチなので、16インチの小ささに驚きました。とても軽くて持ち運びやすいですね。

ーー大きなモデルから小さなモデルへ変更することへの抵抗はありませんでしたか?

JUN:普段から描き慣れている紙のサイズに近いからか、意外と苦労はないですね。A3〜A4の紙に近いサイズ感で使えますし、画面が大きいことよりも手頃な重量とサイズ感が嬉しかったです。海外に行くときなんかは特に、小さい方が便利ですしね。このサイズなら楽に持ち運びができて良さそうです。

ーー「Cintiq 22HD」と比較して、「Wacom Cintiq Pro 16」はいかがでしたか?

JUN:一番いいなと思ったのは、スクリーンの色が鮮やかできれいなところです。いま使っている「Cintiq 22HD」と比べても、現物に近い色が出ています。

ーーアニメ制作のお仕事などでも、「正しい色」の再現性は求められそうですね。

JUN:めっちゃ大事ですね。「このキャラクターは絶対にこの赤じゃないといけない」というような場面がありますから。自分が理想とする色が再現されているのかどうか、正しい画面で確認できないといけません。あと、感覚的な言葉になりますが、「Wacom Cintiq Pro 16」は筆の運びがスムースですね。

ーー「Wacom Cintiq Pro 16」には現在お使いの「Cintiq 22HD」よりも新しいテクノロジーが採用されており、筆圧レベルも細かくなっています。また、4Kに対応した高解像度な液晶であることも、スムースな描き口に貢献しているかもしれません。また大きな違いとして、ペン先と液晶ペンタブレットの視差が小さくなっています。

JUN:それは感じました!「Wacom Cintiq Pro 16」は視差が小さくて、紙にペンで描く感じにとても近いです。今は画面の大きな「Cintiq 22HD」で絵の全体を俯瞰しながら色を塗って、「Wacom Cintiq Pro 16」で細かいディティールや厳密な色を確認する、というような使い分けをしていますね。大きな画面のほうが絵全体を見て色を決めやすいので、2台を使い分ける制作スタイルはとても便利です。

ーー他に気になった部分はございますか?

JUN:「Wacom Cintiq Pro 16」はよりシンプルにコンパクトになってて好きですね。デザインかわいいし。USB-C対応なのもケーブルが減ってありがたいです。あとは色に関しても、描くことだけじゃなくて、見るためのデバイスとしてもタブレットを使うので、過去に自分の描いたものとか、あるいは掲載見本のようなものもこの画面で確認できるのは嬉しいです。

ーー今後新しい製品に買い換えるとしたら、ワコム製品を選びますか?

JUN:そうですね。ワコムの液タブでデジタル作画デビューをしたので、今後も使い続けたいです。テクノロジー製品って、代替わりすると全然使い勝手が変わってしまったりすることが結構あると思うんですが、絵を描くのってその逆で、同じ方法で続けたいフローが結構あるんですよね。ワコムはそういうユーザも置いていかないでくれるっていう印象があります。僕はいまでもアナログ画材を使うけど、そういうユーザも置いていかないでくれる(笑)。

ーーこれからデジタルでイラスト制作を始める人へ向けて、なにか言えることってありますか?

JUN:いまアナログで描いている人には「デジタルが使えると本当にプラスしかないから、一回試してみるといいよ!」と伝えたいです。デジタル環境を試してみて、もしやっぱりアナログがいいと思ったら、いつでも戻れますから。もちろんすべてアナログじゃないとできない表現もありますが、同じようにデジタルでしか出来ない表現もあるし、僕のように仕事でイラストレーションを扱う現場ではデジタル納品が当たり前、みたいなことも多いです。アナログとデジタル、どちらにもそれぞれ良さがありますし、やって損になることはないですよ。

・製品情報
液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 16」
外形寸法:410 x 266 x 22 mm
表示サイズ(対角線):15.6型
読取可能範囲:344 x 194 mm
カラー:ブラック
液晶方式:IPS方式
最大表示解像度:3840 x 2160 ドット
マルチタッチ機能:◯(10本指対応)
WEBサイト:https://www.wacom.com/ja-jp/products/pen-displays/wacom-cintiq-pro-16

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