銀杏BOYZやビリー・アイリッシュともコラボするJUN INAGAWA 多様な活動を裏付ける“自然体な仕事論”

JUN INAGAWAの“自然体な仕事論”

 国内外、様々なアーティストと交わりながらイラストレーションを制作しているJUN INAGAWA氏。LAにルーツを持つ22歳の若手アーティストであり、今年は同氏が原案を務めるTVアニメーション作品『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』の公開も予定されている。

 彼の活動を一言で説明するのは難しいが、彼の名前の横には常に、彼の描いた勢いあるイラストが並んでいる。今回はそんな彼の活動について掘り下げながら、クリエイションに迫るインタビューを企画。後半ではワコムのプロ向け液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 16」を試用いただき、その活用についても伺った。

ーー近年のお仕事の中で、特に印象的だったものなどがあったらお教えください。

JUN INAGAWA(以下・JUN):今年公開予定のテレビアニメの原案を担当しているんですが、この周辺の作業がいま、いちばん大変な仕事です。ストーリーやキャラクターの設定を作ったり監修したりといった作業ですね。

ーーアーティストとのコラボレーションも積極的に行っている印象です。

JUN:WACK所属のアイドルグループとコラボレーションしたり、あとは昨年の夏にお声がけいただいて銀杏BOYZのツアーグッズにイラストを提供したり。直近で非常に反響があったのはビリー・アイリッシュの衣装にグラフィックを提供した件ですね。過去2年の中でトップレベルの大きな仕事でした。

 
 
 
 
 
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ーーイラストレーションに限らず、さまざまな活動をなさっていますが、多様な活動をしている理由はありますか?

JUN:もともと好きなものとかやりたいことがたくさんあって、でも昔はそれに首を突っ込まないように制限していたんです。中途半端になるのは良くないな、と思って。でもここ2、3年はやりたいことを制限しないで、とにかく手を出してみるようにしています。

ーーなぜ心境に変化があったのでしょうか。

JUN:いままでは、仕事をするには「型」を持つべきなのかな、と思っていたんですよね。たとえばイラストレーターを名乗るんだったらTwitterとかSNSに積極的にイラストをアップして、イラスト以外の投稿は控えめにしなければいけない、とか。そうやって活動する硬派な姿への憧れもあったし、そういう型が大事だと思っていました。実際にそういうスタイルで活動した時期もあるんですけど、でもそれがあんまり向いていなかったんです。

僕はただ生きたいように生きているだけというか、ライフスタイルっていう「型」の中にイラストを描く僕だったり、DJをする僕だったりといろんな姿がある、というか。そう思う前は「イラスト描くのが本業なのにDJをやっていいのかな」とか、気を使っていたんですよね。でもなんか、どっかのタイミングで吹っ切れて。

僕、すごい電子音楽が好きなんですけど、「トラック」ってあるじゃないすか。たとえばドラムキットにしてもキックがあって、スネアがあって、ハイハットがあって、そこにベースが鳴ってメロが鳴って……あれって一つひとつのトラックが全部重なって、1曲になるわけですよね。僕は自分の活動も一つひとつを「トラック」に見立てているんです。たとえばイラストの活動がベースだったらギターが音楽で……みたいに、いろんなトラックを増やしていきたいんです。すると1曲できるじゃないですか。ライフスタイルを1曲と見立てて、どんどんトラック数を増やした感じですかね。

ーー「いろんな音が鳴っている人生を作ってみたい」と。

JUN:めちゃくちゃおしゃれに言ったら、そうですね(笑)。そんな感じです。

ーーアーティストとのコラボレーションが多いのも、音楽がお好きだからでしょうか。

JUN:そうですね。銀杏BOYZの件とかだと、僕はこういうインタビューで毎回「銀杏BOYZさんがすごく好きです」と言い続けていたんですが、そしたらある日、あちらからコラボのオファーをいただいたんです。昨年の夏に峯田さんと一度お会いする機会があり、そのときに「一緒に何かやろうよ」と言ってくださって。それがいまやっているツアーのグッズとして形になりました。

ーービリー・アイリッシュの衣装デザインはどのようなきっかけで実現したのですか?

JUN:実は以前、彼女がツアーで来日する際にグッズを作る話があって、そのときのイラストを僕が手掛けたという経緯がありました。ただ、そのツアーは結局コロナで中止になってしまい、グッズの件も大規模な宣伝などは出来なかったんです。その後改めて、「ビリーがアメリカでやるライブの衣装デザインをやらないか」というオファーを友達づてに頂いて。すぐに「やります」と返事をして、グラフィックを送り、向こうでパターンを引いていただきました。ライブをこの目で見たわけではないのでまだ実感はないですが、かなり大きな反響がありました。海外のファンからグラフィックがほしいという声もいただいて。

実は一時期、アパレルの仕事を避けていたんです。服ばかり作っているとどうしても「アパレルの人」と認識されてしまうし、自身あまりジャンル化されるのが好きではないので、しばらく控えていたんです。でもビリーとの仕事をきっかけに、コラボレーションではない、自分でいちから作るアパレルに挑戦したくなりました。今年の夏に、アメリカでポップアップストアを開催する予定です。現状だと僕のアパレルは日本でしか入手できないので、海外の方で「買わせてくれ!」という声がたくさんあり、その声に答える形ですね。喜んでもらえるんじゃないかと思っています。

ーー楽しみですね。それと並行して、10月にはご自身原案のアニメが公開される予定です。

JUN:そうですね。僕が中高生の頃から温めていたストーリーとキャラクターを元にアニメーターさんが絵を描いて、僕が書いたプロットを脚本家さんに渡して、目を通してもらいながら一緒に脚本を作っています。アニメの世界では普通だったら監督が手がける部分だったりもするので、僕は少し特殊な立場にいます。

ーーDJやイラストなどの個人の裁量で進行する仕事に対して、アニメーション制作は集団での作業となりますが違いはありますか?

JUN:集団で仕事をするのは初めての経験でした。第三者の意見をもらえるのは助かることもあるし、難しいこともある。一つ一つに驚きがあり、最初は抵抗もありました。それこそ「自分のストーリーなのに、なんで口を出されなきゃいけないの」と思うことも、ちょっとだけあったり。でも、テレビというオーバーグラウンドの世界で勝負するときには、当然ですけどテレビのフォーマットで戦わなければいけないので、口を出されるのは当然なんですよね。そのフォーマットの中でみんなでモノを作ることがだんだん面白くなってきて、脚本家さんや監督さんからの意見も受け止められるようになりました。

ーー作品の内容が他人の手によって変化する体験に驚きながらも、それをポジティブに受け止められるようになったと。

JUN:より良い作品を作るために集団で取り組む、ってめっちゃいいじゃん、みたいな。それに皆さんクリエイターなので、僕の考えたキャラやストーリーを面白がって、どんどん新しいアイデアを出してくれるんですよ。僕が一人で考えていた物語のことを第三者の人たちが話しているなんて不思議ですし、同時にすごく嬉しいです。全話が放送されたら達成感もあるでしょうし、どんな結果でも制作した事実は残るので、それを誇りに思いたいですね。1人で達成感を味わうより、チームで味わった方が喜びも増すでしょうし、僕が1人でハンドリングしていたら多分パンクして、成り立っていなかったんじゃないかな。「JUN INAGAWA原案」と謳っていますが、個人的には監督さんや脚本家さん、演出さんとかそれぞれのプレイヤーがいて初めて成り立つ作品なので、チームで作ったことをもっと主張していきたいです。

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