世界中の渇望を満たした『エルデンリング』と、“ソウル系”を巡る現状について

 『ELDEN RING』は2009年に発売された『Demon's Souls』によって幕を開けた、全3作の『DARK SOULS』シリーズ、『Bloodborne』、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(以下、『SEKIRO』)のいわゆる“ソウル系”と位置づけられるフロム・ソフトウェアの作品群の系譜における最新作である。

 すでにご存知の方も多いとは思うが、“ソウル系”の特徴を一言で言えば“何度も死んで覚えるアクションRPG”である。ステージはプレイヤーの死角をことごとく突いてくる嫌らしい敵配置や理不尽なトラップの数々で満ちており、ボス戦では適当に操作していれば数秒程度で死に至るであろう猛烈な攻撃と壮絶な火力に圧倒される。目の前に立ちはだかる様々な脅威に対して、プレイヤーはどうしようもないほど無力であり、特に序盤はその辺にいる雑魚敵に幾度となくボコボコにされ、プレイを初めてすぐにその世界の非情さを思い知ることになる。ゲーマーのなかにはこのシリーズに対して強い嫌悪感を抱く人もいるだろう。

ELDEN RING ゲーム紹介トレーラー【2022.2】

 だが、一方でここまで熱狂的に愛されるシリーズもないだろう。その要因は、探索すれば探索するほどに新たな発見と便利な道具を手に入れることができるステージの作り込みの妙と、最初こそ理不尽に感じられるボス戦における、相手の行動パターンを覚えてその動きを見切ることで勝機を見出すことができる絶妙にも程がある戦闘バランスという、あまりにも見事なアメとムチの構造にある。また、手元に直接鉄の重みや血飛沫の飛び散る感覚が伝わってくるかのような重みと鮮やかさを兼ね備えたアクションの手触りは絶品だ。その快楽に惹きつけられながら、やがてプレイヤー自らの成長が、主人公の強さへと繋がっていく。そうして困難を乗り越えた時の達成感と喜びは、ほかの作品では得られないほどの麻薬的な魅力を持っており、数多くのゲーマーに中毒症状を引き起こしてきた。

 それは当然のようにゲーム業界に絶大な影響を与え、やがて「ソウルライク」という言葉が生まれ、メジャー・インディー問わず様々な作品群が独自の要素を取り入れながらその高みへと挑んできた(この10年ほどのゲームレビューにおいて、一体どれほど「『ダークソウル』の影響を感じさせる」という言葉が書かれてきただろうか)。しかし、結局のところ本家であるフロム・ソフトウェアを上回るような作品は未だに登場していない。だからこそ、世界中のゲーマーが『ELDEN RING』の発売を切望していた。

 そうして迎えた2月25日の発売日。近年では稀に見るほどに高いハードルが用意されていた同作だが、少なく見積もっても、フロム・ソフトウェアはその期待に見事に応えて見せたと考えて良いだろう。世界中のレビュースコアをまとめたメタスコアは今年どころか2017年の『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』に匹敵する97点を叩き出し、すでに「歴史的傑作」の扱いを受けている状態だ。プレイヤー側の反応も極めて熱狂的で、大勢の国内外のストリーマーが本作の実況動画を配信し、Twitchでは一気にトップクラスの人気コンテンツに君臨。Steamの同時接続者数は発売以降も伸び続け、発売から約2週間後という本稿執筆時点で歴代同時接続数6位という記録を樹立している。これまで“ソウル系”に馴染みの薄かったプレイヤーであっても、その熱狂ぶりを目の当たりにして、興味を持った人も少なくないだろう。

 とはいえ、『ELDEN RING』に対する感想やレビューを書くというのは(特にこれまで“ソウル系”に親しみの無かったプレイヤーにとっては)、実のところ複数の問題を抱えている。まずは、いくら定着したとはいえ、その作風はいまなお決して大衆的なものではなく、熱狂的に支持する人々がいる一方で、前述の通り全く理解できないという人々も非常に多く存在するということ。そして、これは既存のプレイヤー側の問題なのだが、同シリーズはクリアした、あるいはやりこみを重ねる人物に対してある種のバイアスを与え、それが結果として本作に関心を抱く人々に対する間口を狭めている可能性があるということだ。要は、いくら本作を絶賛したところで、それを書いた人物が“ソウル系”を長年に渡ってやり込んでいる場合、未経験者にとっては何の助けにもならない可能性があるということである。

 というわけで前置きが長くなったが、これから『ELDEN RING』の内容に言及していくにあたって筆者の“ソウル歴”を書いておく。『SEKIRO』、『DARK SOULS 3』はこの手のゲームが得意な友人とともに遊び、ラスボスを含む半分程度のパートを自らの力では進めていない。一方で、『Bloodborne』と『DARK SOULS Remastered』、『Demon's Souls』(PS5版)についてはDLCを含めて最初から最後まで自分の力でクリアしている。『DARK SOULS 2』は中盤まで進めたものの肌に合わなかったため、途中でプレイを終了した。『SEKIRO』は諦めたが、『Bloodborne』はあのゴシック・ホラー×クトゥルフの世界観とアグレッシブな戦闘システムに魅了され何周か遊んでいる、という具合である。つまるところ、筆者もバイアスを受けているのは否めない。

 肝心の『ELDEN RING』についてはすでにプレイ時間が50時間を超えているが、物語の進行よりも探索をメインに進めているためにクリアには程遠く、マップの半分程度は隠れたままで、(進行の目安の一つである)手に入れた大ルーンの数は未だに1つだけである。というわけで本稿はあくまでプレイ中の状況で書いたテキストであり、もし機会を頂けるのであれば、改めてクリア後に何かしらの形で書くことができればと思う。

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