CD以上に高音質な『ハイレゾ』の世界 複雑な定義をもう一度確認しよう

CD以上に高音質な『ハイレゾ』の世界

 テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。本連載はこうした用語の解説記事だ。第9回は「ハイレゾ」について。音楽配信サービスでもハイレゾ音源を扱うところは増えてきたが、一体何が「ハイレゾ」なのかはあまり理解されていない。「ハイレゾ」が示すクオリティについて紹介しよう。

そもそも、"音"とはなんぞや

 世の中の「音」はすべて、物の動きによって発生する振動(波形)が耳に届いて聞こえる現象だ。音を波形として表したとき、高い音は周波数が高く、低い音は周波数が低い波として表されるが、人間の場合、音として認識できるのは、下限が20Hz、上限が20,000Hz程度と言われている(もっとも可聴域の上限は年齢とともに下がり、10代にはすでにかなり聴こえなくなっているという)。

 さて、音という波形をコンピュータが扱うためには、一般に「パルス符号変調」(PCM)と言う手法でデジタルデータ化する。これは波形を一定の間隔ごとの数値(離散信号)として取り込む「標本化」(サンプリング)と、元の波に近いデータとして表す「量子化」(アナログ→デジタルの変換=A/D変換)を組み合わせたものだ。この、離散信号を受け取る頻度を「サンプリング周波数」と言い、量子化したサンプリングデータに割り当てるデータの精度は「ビット数」で表すことができる。

 標本化と量子化の精度を高めていけば原音に近くなるが、データも大きくなっていくし、仕組み上、量子化の際には必ず若干の欠損(量子化誤差)やノイズが生まれてしまう。つまりコンピュータに取り込んだ原音の再現度は、サンプリング周波数と量子化ビット数に依存しているわけだ。

デジタルにおける「音」の基準値は?

 アナログな音をデジタルに取り込む際の仕組みについて理解したところで、実際にコンピュータで主に取り扱われる音源のクオリティについて確認していこう。基本となるのは「音楽CD(CD-DA)」だ。音楽CDはリニア(非圧縮)PCM形式のデジタルデータとして音を記録しており、その精度は44.1kHz/16bit。つまり「1秒間に44100回のサンプリング周波数で標本化し、量子化ビット数は16ビット(=65536段階)」ということになる。現在、デジタル音源はこれを基準にしている。

 ここで「あれ、MP3やAACのビットレートとは違うの?」と思った方はなかなか鋭い。MP3やAACといった非可逆圧縮音源では、サンプリング周波数や量子化ビットは元のデータのものが使われ、元のデータに対して圧縮をかけてビットレート(=1秒あたりのデータサイズ)を下げていく。例えばCD音源の場合、44.1kHz・16bitなので、「44.1x16=705.6kbps」が非圧縮のビットレートになる(モノラル音源の場合。ステレオでは2倍になる)。64kbpsのMP3なら、705.6/64=11.025分の1に圧縮されたというわけだ。

 ここで非可逆圧縮についても触れておこう。非可逆圧縮とは、データを圧縮して元に戻したときに元のデータに戻せない方式のことを言う。いろいろなやり方があるが、音声ファイルの場合は人間が聴こえない(聴きにくい)周波数帯をカットしてデータサイズを小さくするというのが一般的だ。

 実は音楽CDでも、アナログからデジタル化する際に、可聴域以外の音やノイズをフィルタリングする処理が行われている。しかし、聞き取れないとされる周波数域であっても、音の響きなどに関わってくるため、臨場感(空気感)が違ってきてしまう。アナログレコードとCD、あるいはCDとMP3/AACを聴き比べた時に「音が違う」と感じられるのはこのためだ。人間の耳はなかなかスゴいのだと言えるだろう。

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