意外とわかっていないテクノロジー用語解説
ビジネスの世界で頻出しはじめた『DAO』とは? インターネットネイティブな組織を作る仕組みへの期待と課題
テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。
本連載はこうした用語の解説記事だ。第7回は「DAO」について。まだ世に出て間もない、新しい概念を表す単語だが、多くの可能性を秘めたDAOについて紹介しよう。
・ブロックチェーンを使った意思決定手法=DAO
DAO(Decentralized Autonomous Organization)とは、日本語では「自律分散型組織」と訳される組織形態の一つだ。何やら難しそうだが、少し整理してみよう。
何らかのプロジェクトを動かす組織を考えると、基本的にはリーダーとなる存在がおり、リーダーの下には階層的な構造がある。そして組織の意思決定はリーダーが行う(階層ごとにリーダーがいる場合もある)。リーダーを選ぶのに民主的な選挙などが行われることはあるが、基本的には中央集権的な構造になっている。
これに対してDAOでは、組織内に階層がない、フラットな組織構成となっている。構成員には全員に投票・意思決定の権限が割り当てられており、意思決定は定められたルールに基づいた投票・合意によって行われる。さらに、運営資金なども構成員の承認がなければ利用できないようになっている。厳密に民主的だと言えるだろう。
このDAOを支えている技術が「ブロックチェーン」および「スマートコントラクト」だ。「ブロックチェーン」については「NFT」で紹介したように分散記録台帳のシステムだが、スマートコントラクトとは「契約の自動化」を目的としたプロトコル(仕組み)で、ブロックチェーン上では主に自動取引プログラムとして機能している。スマートコントラクトのおかげで、暗号資産などは管理者がいなくても取引を自動的に成立させることができる。取引履歴はブロックチェーン上に記録されるため、誰もがそれを確認することができ、契約の透明性が保たれ、不正が起きにくい。
DAOにおいては、ある組織の立ち上げ時にルールを策定し、ルールをもとにスマートコントラクトを構築し、デプロイ(展開・配備)する。参加者は参加権として「ガバナンス・トークン」を取得する必要がある。なんらかの取引や意思決定の投票は、ガバナンス・トークンを使用して行われ、スマートコントラクトが規定する人数の承認があって初めて成立する。ルールの変更条件もしっかり設定しておけば、誰かが専横的に変更することもできない。
DAOはブロックチェーンプラットフォームであるイーサリアムの運営で最初に運用され、その他のDAOもイーサリアム上で動いているものが多い。イーサリアムには暗号資産「Ether」があるが、各DAOプロジェクトは独自のガバナンス・トークンを発行し、投資家はEtherとガバナンス・トークンを交換することで経営権を得る。あとはガバナンス・トークンを売って差益を得ることも、DAOプロジェクトが得た利益の一部を報酬として受け取ることもできる。Etherとガバナンス・トークンが個別に設定されていることで、独自に価値を高めることができ、お互いの価格変動の影響を受けにくくしているわけだ。
スタートアップなどがプロジェクトを立ち上げる際に、誰でもブロックチェーン上に設立することができ、資金調達もスピーディに行えることもあり、DAOは急速に数を増やしている。DAOでは通常の会社のように設立手続きを行なったり、銀行から資金調達したりする必要がなく、ネット上ですぐに立ち上げて、世界中から資金調達が行える。運営においても、取引はすべてスマートコントラクト上で行われるため、ハンコやサインの必要もない。
また、ガバナンス・トークンは上限数が決まっている独自の暗号資産として機能するため、プロジェクトが軌道に乗ればガバナンス・トークンの価値が暗号通貨市場で値上がりし、資産の増額も行える。さらに、DAOはブロックチェーン上に構築されており、ガバナンス・トークンを暗号資産と考えれば、メタバースやNFTとの融合も容易だ。実際に「DecentraLand」のようなメタバース・NFT融合型のDAOも存在している。
一方、DAOには短所もある。全員参加型のシステムなので、意思決定までに時間がかかり、誰もが参加できてしまうが故に、決定が組織にとって必ずしもメリットのある方向へ行くとは限らない。また、スマートコントラクトにバグやセキュリティ上の問題があったとしても、同意決議がなければ修正もできない。実際、イーサリアムでは「The Dao事件」として知られる、スマートコントラクトの脆弱性を突いて資金が盗まれ、解決策を巡ってイーサリアム自体が分裂するに至った騒動も起きている。
また、まったく新しい仕組みのため、まだ法整備等が追いついていないというのが現状だ。関係者が世界中に分散している可能性もあるため、もし法廷闘争になれば、極めて複雑な状況になるだろう。
まだまだ未完成な部分もあるDAOだが、インターネットネイティブな時代を象徴する組織でもある。今は暗号資産コミュニティでの利用が中心的だが、今後も普及が続けば、近い将来、たとえばクラブ活動やPTAなどがDAOとして運営される時代がやってくるのかもしれない。