意外とわかっていないテクノロジー用語解説
『Wi-Fi 6』って何? 無線LANの歴史と最新事情を解説
テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。
本連載はこうした用語の解説記事だ。第4回は「Wi-Fi」について。今やどこでも名前を聞くWi-Fiだが、これは一体何なのだろうか?
「Wi-FI」は無線LANの互換性を示すブランド名
駅や飲食店、ホテルに空港など、人の集まる場所であれば大抵用意されるようになった「Wi-Fi」。携帯回線を使わずにインターネットに接続できるものとして愛用している人も多いだろう。大変身近な技術だが、具体的にどんなものかをしっかり把握している人は案外少ないかもしれない。
Wi-Fiとは本来、「無線LAN」と呼ばれる技術の一部を指す言葉だ。オーディオ機器の「Hi-Fi」(High Fidelity:高忠実度の略)という言葉をもじって「Wireless Fidelity」(忠実な無線通信環境)の略として作られた造語で、業界団体「Wi-Fiアライアンス」が管理している。
LANは「Local Area Network」の略称で、部屋や家、組織や学校など、「限られた範囲のネットワーク」を示す言葉だ。コンピュータ同士の接続やプリンタ・メディアサーバなど、家の中にある様々な機器をつないで、ネットワークを作るための技術で、これを無線で行うのが「無線LAN」である。ちなみにLANという単語が「Local」を示しているが、より広いネットワークは「WAN」(Wide Area Network)と呼び、インターネットがWANに当たる。
LANの構築においては有線接続、つまりケーブルで様々な機器を接続する方式が古くからあり、こちらは「有線LAN」とも呼ばれる。こちらではルーターを光回線のモデムなどと繋ぐための「イーサネット」という規格が有名だ。
さて、もともと有線接続で構築されていたネットワークであるLANを無線化することは90年代前半から試みられていたが、そのうち2.4GHz帯の電波(この帯域はほとんどの国で免許なしで利用できる)を使う技術が1997年に米国電気電子学会「IEEE」によって標準化技術として策定され、「IEEE 802.11」という番号が割り当てられた。これが世界初の無線LANとなるのだが、この時点では通信速度が2Mbpsと遅く、機器も高価だったため、さほど注目もされず、採用するメーカーもほとんどなかった。
また、IEEE 802.11では使用する周波数帯や変調方式などの規格は決まっていたが、それをどう実装するかはメーカーの裁量によるところが大きく、メーカーが異なると互換性がない製品が多かったのだ。
その状況を覆したのが、無線LANの互換性を認定する業界団体「WECA」の誕生(2000年)だ。大手ネットワーク製品メーカーが共同で設立したWECAは、相互接続性試験を実施して製品間の互換性を認定し、認定取得製品(Wi-Fi CERTIFIED)の共通ブランドとして「Wi-Fi」を大々的にアピール。2003年には団体名を「Wi-Fiアライアンス」に変更して、Wi-Fiという名称を定着させた。
これと前後する形で、1999年に米アップルが発売したノートパソコン「iBook」に、IEEE 802.11の高速化規格である「IEEE 802.11b」を採用した。通信速度が11Mbpsと、当時の有線LANのイーサネット(10Mbps)と同等の速度が出せたのに加えて、数万円はしていた無線LANカードが1万円台という低価格で提供されたことで注目を集めた。これに息を合わせるように各社からWi-Fi認定を取得した無線LANルーターが登場する。
日本ではもともとノートPCユーザーが多いところに、メルコ(現バッファロー)がWi-Fi対応のルーターを比較的低価格で投入したことで、「家中どこでもインターネット」ができるということで、モバイルPCマニアを中心に人気に火がついた。当初はPCカードによってWi−Fiアンテナを搭載する方式が多かったが、やがてアンテナがPCに内蔵されるようになり、今やほとんどのノートPCにはWi-Fiアンテナが標準搭載されている。
さらに2004年、携帯ゲーム機であるニンテンドーDSやソニーのPlayStation Portable(PSP)がWi-Fi機能を搭載する(厳密にはニンテンドーDSの通信規格は「IEEE 802.11」であり、PSPのようなIEEE 802.11bではない)など、パソコン以外の分野にもWi-Fiが浸透する。これを受けてファストフード店などが無線LANアクセスポイントを導入することで、公衆無線LANサービスも急速に認知度を高めることになった。
ところで、Wi-Fiと同様に2.4GHz帯を使い、主にコンピュータやスマートフォンと周辺機器との接続に使う「Bluetooth」や、低速な機器向けの接続技術「ZigBee」、米インテルが推進していたがWi-FiやBluetoothとの競争に敗れた「HomeRF」のような、「Wi-Fiではない無線LAN技術」というものも存在する。。
とはいえ、Wi-Fi製品はイーサネットとの親和性が高く、普及率も相まって基本的に今では無線LAN=Wi-Fiと呼んでもいいほど、Wi-Fi認定製品が普及したと言っていいだろう。