意外とわかっていないテクノロジー用語解説
『8K』はいつ普及する? フルHDの16倍高精細な次期規格の魅力と課題
8Kの普及を阻む&推進する要素は?
現在は2018年に「新衛星4K8K放送」がスタートしたこともあって、4Kが急速に普及中だ。2019年には販売台数の50%以上を4Kが占めるようになっており、液晶パネルであれば10万円を大きく切る価格で入手できるようになった。PC向けのディスプレイも3万円前後から入手できる。スマートフォンなどで4K解像度の動画撮影できるものも増えており、まさに4K時代に突入したと言っていいだろう。
プロ用の4K映像機材は2000年代前半から登場しているが、スマートフォンでは2015年頃から4K撮影できる端末が増え始めた。これはスマートフォン向けの4K対応撮像素子の登場に加え、スマートフォンの処理能力の向上や、記録するフラッシュメモリのスペックが大容量・高速になってきたことも挙げられる。また映像機器を接続するコネクターの規格であるHDMIも、バージョン1.4で4K(30fps)に対応し、バージョン2.0で60fpsまで拡張された。4K放送も、新4K8K衛星放送に加え、CATVやインターネット配信などが対応済みだ。肝心のコンテンツについても、映画なども4K撮影されたものが増えており、過去の作品のリマスター版も増えているため、徐々に不足感は解消されていくだろう。
このように、高解像度動画の普及には表示する機器だけでなく「カメラなどの撮影機材」「ディスプレイなどの表示機器」「大容量データの保存・転送手段」「専用の編集機材」「視聴手段」「コンテンツ」のそれぞれの対応が必須となる。
それを踏まえた上で、8K普及の課題はどこにあるのかを見ていこう。8Kは静止画としても約3200万画素と、非常に大きなデータとなる。表示機器は2016年頃から徐々に登場しており、現在でも高価ではあるが、8K TVもなんとか一般ユーザーの手に届く価格帯に降りてきており、今後も値下げは続くだろう。
編集機材についてはプロの環境は概ね整ってきており、ハイアマチュアでも対応する環境を整えることは可能だ。データ転送についてはHDMI 2.1で最大10k(10240x4320)に対応している。肝心の撮影機材については、プロ向けとしては2010年代にはすでに登場しているが、身近な撮影機材であるスマートフォンが対応したのは2020年代に入ってから。個人的には、アマチュア作成の8Kコンテンツが増えてくるのは、iPhoneのカメラが3200万画素以上になって8K対応してからが本番だろうと読んでいる。
問題は視聴手段についてだ。現時点では前述した「新4K8K衛星放送」による8K放送と、YouTubeの8K配信くらいしか選択肢がない。衛星放送についてはNHKの「BS8K」チャンネルしかなく、それも放送時間が限られており、番組もほとんど再放送という状況。かといって民放にチャンネルを解放するにも、8K放送にはFHDの16倍、4Kの4倍という電波帯域が必要になる。これを仮に現在の地上デジタル放送や新衛星4K8K放送に持ち込むと、チャンネル数が16分の1または4分の1になってしまうため、現実的ではない。
となると、8Kの配信には現在のような電波による「放送」を半ば諦め、別の手段を考えねばならない。結論としては、帯域等のことを考えても、インターネット配信が主体になるだろう。特に無線接続では、超高速通信と多数接続をカバーできる5G通信がその一端を担うことになるはずだ。
また、TVの設計も見直されていく可能性がある。現在の8K放送では4Kと同じ「H.265」(HEVC)コーデックによる圧縮が行われているが、この規格自体は2013年に策定されたもので、すでに約10年前の技術だ。次世代圧縮技術として「H.266」も策定中だが、現在のTVのデコーダーは基本的にハードウェアとして実装されており、新規格が出ても買い替え以外にアップデートすることはできない。
ところが、インターネット配信に対応するTVは基本的にスマートフォンやタブレットのようなソフトウェアによるアップグレードが可能な設計になっている(もちろんハードウェアデコード機能も備えているのだが)。実際、シャープの8KTVではYouTube の8K再生に「VP9」というGoogleのコーデックを採用しており、YouTube側が別の規格を採用したり、別な形式をサポートするサービスが追加されたりしても、ソフトウェアをアップグレードすることで、より効率のいい圧縮形式をすぐに導入できる。今後はこのようにアップグレーダブルな設計のTVが増えていくと考えられる。
いずれにしても、8Kが本格的に普及するとして、5Gの展開が欠かせないとなると、あと少なくとも数年はかかるだろう。4Kの普及開始が2018年だということを踏まえると、2026〜28年頃にようやく現在の4Kのポジションに8Kが来るというのが自然だろう。もしかすると、その頃にはTVで映像を見るのではなく、8K対応のヘッドマウントディスプレイで、メタバースの中で現実と見分けのつかないレベルの映像を楽しむことになるかもしれない。
なお、ソニーはすでに8kの4倍となる「16k」の開発に着手している。もはやこのレベルになると家庭でどうこうするものではなく、映画館など向けだとは思われるのだが、人間の視認能力を超えた視覚的シンギュラリティが起きた時にどのような体験がもたらされるのか、大変興味深いところだ。