『ポケモン』『ドラクエ』などから考える、ゲームにおける虫の“役割”とは
アバターとしての虫
ではこれらの虫は、実際にゲームのなかでどのように描かれているのだろうか? さきほどの映画の例を参考に、虫がゲームに登場するための条件とそのパターンを、「アバター」「敵」「それ以外」という3つの側面からみていこう。
前述のウィザードリィとドラクエの比較において、もうひとつ興味深い点が示されていた。端的に言えば、虫は雑魚あつかいされている。HPが4桁ある敵も登場する『ウィザードリィ』で2-3桁、『ドラクエ』でも5(『2』に登場するアイアンアント)~310(『6』のデビルパピヨン)程度とぞんざいなあつかいをされているのにくわえ、モンスターを仲間にできる『5』や『6』でも昆虫はほとんど仲間にならないことが指摘されており(※19)、敵にしても味方にしても存在感がない。外伝も含めたシリーズに登場するモンスターたちを解説する『ドラゴンクエスト15thアニバーサリー モンスター大図鑑』(※20)でも、HPのみならず攻撃力、守備力、すばやさ、取得経験値、落とすゴールドのいずれにおいても虫は上位に入っていない(※21)。
では虫が存在感を得るにはどうすればよいのだろうか。ポイントは、「デフォルメ」「サイズ」「数」にある。
虫がアバター、つまりプレイヤーが操作可能だったり、プレイヤーとの意思の疎通が可能なキャラクターとして登場する場合には基本的に単体で、人間あるいはほかのキャラと同程度のサイズかつある程度デフォルメされていることが多い。『ポケットモンスター』シリーズ(任天堂/1996年〜)の場合、「ポケモン図鑑」(※22)に記載されている890種中(※23)、むしタイプは95種と1割を超えている。たとえば芋虫型のモンスターであるキャタピーは、タッグバトルなど特殊な条件を除けばかならず1匹で出現し、少なくともゲーム内で視認できるかぎりではほかのモンスターに近い大きさで描かれている。また全体的にかなりデフォルメされており、のちの作品では同じ虫ポケモンのビビヨン(蝶型モンスター)などのように表情まで表現されているものも登場する。このようにプレイヤーがアバターあるいは仲間として感情移入しやすくするために、感情が確認できるサイズでありかつその見た目が無機質ではない、特定の個体に注目させる工夫がされている。
逆に言えば、たとえ大型の個体であっても感情が読みとれない場合はアバターにはなりにくい。『モンスターハンター』シリーズ(カプコン/2004年〜)にはラスボスクラスも含め敵として10種類ほどの甲虫類が登場するほか(※24)、「操虫棍」という武器を装備することで「猟虫」をつかった攻撃ができるが、これらの虫は装備品あつかいでありプレイヤーと相互にコミュニケーションすることはできない。また採集ポイントで虫網を使用すると捕まえられる各種アイテムの素材となる虫にいたっては、ムービーシーンに一部が映る以外は個々のグラフィックもない。
作品の世界観の形成に虫が関与する割合が大きい『ぼくのなつやすみ』(ソニー・コンピュータエンタテインメント/2000年発売)などの昆虫採集系や、『甲虫王者ムシキング』(セガ/2003年〜)などのバトル系においても、基本的に虫は捕まえたり戦わせたりする“対象”の位置にある。
虫が物語を駆動する役割を果たすにはコミュニケーションの可否が重要であり、『ムシキング』に登場するカブトムシの王・ムシキングのセリフは音声と字幕によって、それ以外の虫たちの言葉は字幕のみで語ることが試みられていたが、リアル志向の本作には虫の見た目による感情表現は認めにくい。その結果、プレイヤーをナビゲートする役は感情の起伏を声と表情で表現する主人公ポポがつとめることとなった。個体を認識できること、適度なサイズ、そしてデフォルメは部分的であっても機能はするが、やはりすべてそろうことでアバターの存在感を増強する大きな効果をもつのである。その意味で、『ポケモン』シリーズは虫が活躍する環境がもっとも整っている作品の一つと言えるだろう。
敵としての虫
他方、『ウィザードリィ』や『ドラクエ』の例が敵キャラとしての虫についてだったように、虫はしばしば敵、それも恐怖の対象としてあらわれる。それはその強さによるものというよりは、見た目のグロテスクさや存在の不気味さによるものだ。
とはいえ明らかにフィクションの世界の存在であるゲーム内の虫に対して、具体的にどういう状況で遭遇すると恐怖を感じるのだろうか。そのアプローチとして少なくとも次の2つが考えられる。
まず異常な“巨大化”だ。さきほど虫がアバターとして存在感を持つには一定の大きさが必要と述べたが、もちろんそれにも限度はある。とくに、もしそれが我々が日常生活で避けたいタイプの存在だった場合、その嫌悪感はサイズに比例して増幅される。サバイバルホラーをプレイしたことがあれば、すぐにいくつかのイメージが浮かぶだろう。たとえば『バイオハザード』シリーズ(カプコン/1996年〜)では、地下道をふさぐ巨大なクモやガなど、現実ではありえない、自分が捕食されるぐらいのサイズの虫がしばしば登場する(図3)。
もう一つが大量発生だ。画面を圧迫してしまうという物理的な制約もあり、3Dゲームの登場初期にはそのままのサイズで大量発生することが多かったが、PlayStation 2(2000年)の登場以降になると巨大化しつつ大量発生するパターンも多くみられるようになる。前者は『クロックタワー』(1995年)や『サイレントヒル2』(2001年)のゴキブリ、後者は『バイオハザードアウトブレイク』(2003年)のノミや『THE 大量地獄』(2007年)の毒々しい虫たちが典型的だ。2つのパターンはそれらの出現場所とも関係があり、『サイレントヒル2』はエレベーター内、『大量地獄』では屋外と対照的だ。PlayStation 3(2006年)の発売以降はオープンワールドを舞台としたゲームが普及し、『Fallout3』(2008年)のように巨大化したアリにひたすら追いかけられることも珍しくなくなった。このようにもともとあった嫌悪感がイレギュラーな状況によって増幅されたパニックと合わさり、虫特有の恐怖を与えることにつながっている。