にじさんじ・叶が大切にするのは「リスナーとの出会いの場所」 途切れることのないゲーム配信への熱意

にじさんじ・叶が大切にする出会い

 彼の配信にもう一つ付言すべきなのは、その高いゲームスキルだ。社築や葛葉らとともににじさんじでも指折りのゲームスキルと理解力を併せ持ち、リリースして間もないゲームもすぐにプレイし、わずかな時間でゲーム性・ルールを理解、瞬時に勘所を抑えて着々と進めていく。

 気になるところがあればすぐリスナーに聞く癖があり、それゆえコメント欄にはゲームプレイヤーが集まりやすい状況になっている。後日プレイする際には、裏作業で収集したゲーム情報や攻略方法を配信中に再現しようと試みたりするなど、「ガチのゲーマー」そのものといっても過言ではない。

 VTuberとしてデビューする以前からの根っからのゲーマーであり、様々な作品に触れてきたことから、ゲームの良し悪しを見る審美眼はしっかりと持っている。その鋭い眼差しと知識は配信にも滲み出ており、「このゲームはあのゲームに似ていて、こういう所は違うゲームに似ていて…」と語る場面が多い。

 この数年のなかで大きなヒットを飛ばし、彼自身がブレイクするにきっかけともなった『Apex Legends』『VALORANT』の2作も、日本でのサービス開始から1日と経たずにインストール、自分の配信でプレイするのみならず、にじさんじのメンバーらと共にコラボ配信までしていることを考えると、彼の審美眼や勘の良さがいかなるものかが分かると思う。

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VALORANT|にじさんじのみんなでしてる~!【にじさんじ/叶】

 その影響力もあってか、最新ゲームのPR案件を務めることが多く、2020年10月からは「Logicool G 公認サポーター」に就任し、新作キーボードやマウスのPR配信を担当することもある。配信では「僕の名前『叶』は『叶わない』というのが由来だった。でも叶っちゃったね。嬉しい」とハッキリと喜びを口にするシーンも見られた。

 「VTuberがゲームを生配信をする」そんな風景は2022年のYouTubeやTwitchでは当たり前の風景ではあるが、彼がデビューした当時はそういった風潮はほとんどなかった。事前に収録して編集した動画をアップする、いわゆる「YouTuber」らしい活動をする者が多かったなかで、「ゲームプレイしている姿を生中継する」という、いわゆる「実況者・ストリーマー」らしい活動をするVTuberは少数派だった。

 にじさんじにおいては、元一期生の渋谷ハジメが初めてYouTubeを使って生配信をし始め、ゲーム好きとして同じようにYouTubeでの生配信をしはじめたのが静凛、その後も徐々にその流れは広がっていったのだが、あくまでこれは一部分。

 最初期のアーカイブをみれば分かるように、「動画勢(収録・編集した動画)」「配信勢(生配信)」の2パターンがあり、当時のVTuberらの間でも、リスナーにどちらが好まれやすいかは測りかねていたのだろう。

 にじさんじゲーマーズとしてデビューを果たした叶は、先にも挙げた初配信をきっかけにし、積極的に生放送をつづけていくことになる。以前に執筆した静凛・渋谷ハジメの記事でも指摘したように、彼ら「深夜三傑RKS」の3人が深夜帯に長時間配信を積極的に行なっていき、徐々にリスナーにも理解されていく。多くのにじさんじメンバーやリスナーが思うように、彼ら3人の配信スタイル、特に叶のデビューによって現在のにじさんじの形が象られた部分は間違いなくある。

 リスナーが参加するのではなく一方的に視聴するという「ゲーム配信」という形はニコニコ生放送の頃からすでにあったわけだが、彼らがあらたに広め、いまではVTuber、ひいてはバーチャルタレントのスタンダードな配信スタイルになった。

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 それから4年を迎える現在、叶はにじさんじきってのバーチャルタレントへと成長を遂げた。その要因は先に述べた様々な能力によるものが大きいだろうが、とくに大きな要因として挙げられるのは、その精神力・忍耐力であろう。

 もともと身体の調子を悪くしやすい体質であること、様々なライブ公演や番組出演による移動や個人レッスンを重ねる多忙な生活をしていること、2021年12月には眼科でICL手術をうけたことも明らかにしている。いくつかの難しさを抱えてもなお、彼の「配信をするのが好き」「ゲームが好き」というマインドは途切れることはなく、配信も継続していた。

 その継続を明確に断ち切ったのが、先日報道された新型コロナウィルスへの感染だった。2022年1月20日に叶は新型コロナウイルスに感染、陽性反応を示したことが公式から発表され、出演予定だった『にじさんじ 4th Anniversary LIVE FANTASIA』は中止。彼は休養を余儀なくされ、数日ほど配信をしない時間を設けた。

 一日に複数回以上の配信をすることも多い彼が、3日以上に渡って配信をしないのは、デビューして以来初めてのことだった。その期間はデビューから約3年以上にわたる。バーチャルタレントという枠はおろか様々なストリーマーらと比較しても驚異的といってもいいだろう。

 2022年1月22日には復帰配信として30分ほどの雑談を配信。ライブの中止を謝罪しつつも、回復が速かったこと、食欲もしっかりとあることなどを報告し、「安静にするって難しいよね?」などとトークした。

 彼は自分がどのような状況にあっても「リスナーとの出会いの場所」として配信を続けてきた。SNSやコメントなどを通してファンのメッセージや動きをみて、時には優しく、時には厳しく接することもあった。配信上のマナーやルールをしっかりと説くような姿を見せることもあり、リスナーとともに考え、自分からメッセージを発しようと試み続けている。

 長時間に及ぶ配信をするだけに留まらず、イメージに合いそうな楽曲を選んでカバーソングを歌い、体を動かすのが苦手ながらもライブではダンスを踊ってみせる。彼は「ファンの願いをできるだけ叶えたい」と考えて活動を続けてきた。

 男性VTuber2人目となるYouTube登録者数100万人を目前にはしているものの、彼にとってはそれも通過点だろう。その才覚がどのように花開いていくのか、これからも活躍が非常に楽しみだ。

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