『エンタメトップランナーの楽屋』(第一回) ゲスト:秋山竜次(ロバート)
『クリエイターズ・ファイル』誕生の裏側にあった“信頼関係と仕事術” FIREBUG佐藤詳悟×ロバート秋山竜次が語り合う
『クリエイターズ・ファイル』を生み出した2人の仕事術
ーー現在のお互いの立ち位置についてはどのように考えていらっしゃいますか。
佐藤:秋山さんは、今までと変わらないところもあるし、新しいことを取り入れている部分もあると思います。ガラケーから最近スマホへ乗り換えたと聞きますけど(笑)。でも、いまの時流にちゃんと軸を置いているというか。そこのセンスは素直にすごいなと思っています。たぶん無意識に、街を歩くなかでいまの流行りや機微をちゃんと見ているのがわかるし、古さを全く感じないんですよ。
秋山:自分でネタを考えるのは大好きですが、自身でネタの出し先を考えるのは得意ではないので、佐藤のような人がいると、非常に助かりますよね。その時、目の前に来たものに対して全力でやるだけなので(笑)。
佐藤:感じるのは、根本にある芸人からずれていないというか。秋山さんは多岐にわたる活動をしていますが、何に対しても「ネタ」を作り続けている印象を受けるんです。たぶん、小説家ではなくコメディー映画の監督というか、監督していること自体も面白いネタになるといったタイプで、ずっと信念をぶらさずに突き進んでいるのはすごいと思いますね。クリエイターなんですけど、どこか職人気質を感じるのが秋山さんの独自性を生み出していると言えるでしょう。
アーティストの方と話す際に思うのが「それは絶対に曲げたくない」という軸を持っている人ほど、個性がものすごく立っていることです。逆にそれが一旦掴めるようになると楽ですね。秋山さんの場合、どこの視点からアクセスしても、同じクオリティーのものがアウトプットされてくるので、どうやって品質管理しているんだろうと興味あります。
秋山:特にあまり意識してないけどな(笑)。時代の流れとか考えたこともないので。単純に好きでやっているだけかも。
佐藤:ロバートのマネージャーだった時に、エクセルでネタの企画を一覧で管理していたんです。そういう意味では、異常にアイデアを出していたと思います。番組企画に合わせて、持っているラインナップから組み合わせることで簡単に提案することができますし、ネタのバリエーションをたくさん揃えておくことで、例えば深夜帯の番組にハマりそうなものを選んだりと、出し分けが容易になる。
そのなかで出てきたのが『クリエイターズ・ファイル』の憑依芸だったんですよ。フリーペーパーの中で、『情熱大陸』(MBS・TBS系)に出演するような架空のクリエイターに扮してインタビューを受けるのは面白そうだと思い、初めの1、2回は自分もサポートしていました。これがきっかけで、架空の人物を演じるネタが日の目を見ることになったと考えています。
秋山:佐藤は大体初めの1、2回くらいサポートして、ほどよくなったらどこかへ行ってしまいまうんですよね。ちょっとかっこよすぎるんだよな(笑)。僕の中では「掘り起こしたら何かありそう」というネタの中身を見定める嗅覚はあるので、「これ面白そうだけど、どう?」と佐藤と擦り合わせることをやっていました。ただ、何もないと言ってしまえばそれまでなので、アイデアをストックして使い回ししてくれていたのは非常に助かっていましたね。
佐藤:僕は0→1が苦手なので、秋山さんみたいな人がいてくれることで自分の強みが生きるんですよ。座ってられないので、編集とか絶対できないと思っています(笑)。また、面白いとか楽しいとか、あるいは悲しいとか感動したなど、初見で感じたものはすごい記憶に残っているんです。それをそのまま言えば魅力が伝わるし、売り込みへ行くときも武器になる。
ロバートさんの場合は、自分の記憶に残る初見で感じたものが非常に多かったですね。自分の記憶に残るものなら、「一般の人でも面白いと感じるだろう」と考えていました。あとは、どう多くの人に見てもらえるかが肝になると思います。今だったら、少数のコアなファンに向けて刺さるコンテンツを提供すれば、勝手に口コミで広まっていく時代なので、届け方は工夫していくことが必要です。
秋山:『クリエイターズ・ファイル』も、初めのころは誰も見てなかったよね。最初、僕のところに仕事の話が来たとき「フリーペーパーかい」と言った記憶があります(笑)。お金が発生しないのに大丈夫かなと心配したんですが、4ページ丸々好き勝手に面白いことができると思うと、「単純に趣味として楽しみたい」とやる気になり、毎月継続してやるようになったんです。当初は何の反響もなかったのですが、1年くらい続けたころに「秋山に似たウェディングプランナーがいる」と話題になり、その一連の出来事を記事に書いてくれたのがきっかけでSNSでバズって。
佐藤:『クリエイターズ・ファイル』はじわじわと流行りだしたコンテンツですよね。
秋山:そうなんですよ。まず、面白いそうと思ってやってみたのが、後になってじわじわと結果として現れてくる典型例だと感じています。最初は大したことがなくても、次第に広がっていくのはとても楽しいですよね。『クリエイターズ・ファイル』に関しては、何年か経った後にイベントもやらせてもらいました。パルコで『クリエイターズ・ファイル』の展示会を行った際、TV番組『はねるのトびら』(フジテレビ系)の企画でコント・ライブを開催したときと同じくらい、ものすごく人が集まってくれたのを覚えています。テレビで配信していないフリーペーパーの企画でも集客ができる時代になったんだと、そのときに実感しましたね。
ーー秋山さんは制約のあるなかでネタを作るとなると、逆に腕が鳴るというか、燃えることってあるんですか? 例えばSpotifyで配信している『ロバートpresents聴くコント番組〜秋山第一ビルヂング〜』のように、視覚はなくて聴覚だけで面白くするとなると、少し工夫が必要かなと思ってまして。
秋山:声だけで楽しいコント師って、結構たくさんいるんですよ。そういう人は、ラジオのノリではなく真剣にコントとして聴いても面白いんです。
ただ、見えないぶん「この人が喋っている」というキャラクターだけはしっかりと立たせるようにしています。聴くコントなのにカツラをつけて、メイクして、衣装もばっちり決めているんですよ。サムネイルひとつでこの人が話しているのだと頭の中に降ろしてあげないと、リスナーもイメージができないので、そこは大事だと思います。
佐藤:当時から思っていたのは、秋山さんがほかと違ってトリッキーなことをしていた方が、ブランドになるというか独自性を出せると考えていたんです。なので、秋山さんの湧き出るネタのアイデアを拾って、それをなんとか形にしようとあちこち提案に行っていましたね。
秋山:僕って、すごいネタを作り込んでやるのも緊張するし、力を入れて見られるのが嫌なんですよ。TVの現場では、放っておいてくれたら勝手に見せ場を作れるタイプなので、「秋山さんの番がきました! 持ち場は作っておいたので」と言われたくない(笑)。枠だけあったらなんとかするという気概を持って、いつも取り組んでいます。