“ゲームのサブスク”は、困難極まるゲーム開発の救いの手となるのか?
華やかな躍進を続けるゲーム業界。その勢いは2021年に突入し、コロナ禍や半導体不足といった巨大な壁に直面したものの、衰えることはなかった。その一方で、本年度は隠しきれぬほどに膨れ上がった業界の病巣へ、大きくメスを入れることになった年でもある。セクシュアルハラスメントが蔓延していたActivision Blizzardへの訴訟や告発騒動を筆頭に、昨年から引き続いてUbisoftの企業体質に関する問題が話題となっている。『メトロイド ドレッド』の開発を手掛けたMercurySteamでは、開発に参加した期間の違いによって、クレジットされていないメンバーがいると問題になった。『The Game Awards 2021』においても、業界で働く方々に対し、他者への相談をうながす注意喚起があったことは記憶に新しい。
ユーザー側としてはハードウェア流通の問題はもちろん、さまざまな作品の度重なる発売延期や、それを受けてかどうかは定かではないものの、納期優先、アップデート前提の品質を持った作品に出会うことが増えた印象だ。少なくとも筆者はそう考えている。ちなみに「アップデート前提の品質」というのは多くの場合、悪い状態を意味する言葉でない。ハードウェアの進歩に伴って表現の幅が広がり、開発期間が延長し、消費者の期待値と開発費が青天井になっている昨今。長期的な形で収益を上げるため、消費者の購買意欲を保ち続けるには、作品を単体として遊ばせつつも、ダウンロードコンテンツやバトルパスシステムをはじめとする長期アップデートを前提とした仕様を組み込む必要があるからだ。
本稿における「アップデート前提の品質」とは、ハードウェア対応不全の状態や、デバック不足ともとれてしまう多くのバグを抱えたまま世に発売されたゲームの状態のことを指している。直近の著名作ではAmazonが発売したMMORPG『NewWORLD』、『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版』、『Battlefield 2042』、『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』などが、バグの多さによるプレイ体験の悪化、風評被害を受けている。だが延期の常態化ふくめ、これらの問題を根本的に解決する手段が登場したかもしれない。「ゲームのサブスクリプションサービス」である。
「ゲームのサブスクリプションサービス」とは月額料金を支払うことでラインナップ上に存在するゲームを好きなだけ遊ぶことができるサービスの総称である。Appleが提供する「Apple Arcade」、ソニー・インタラクティブエンタテインメントによる「PlayStation Now」、Electronic Artsによる「EA Play」、NIVIDAによる「GeForce NOW」などがある。なかでもマイクロソフトのサービス「Xbox Game Pass」は、今年サービスが開始された「Xbox Cloud Gaming」と合わさることで、人気を博している。
この解決方法のポイントは、ゲームに対してユーザーが直接対価を支払っているわけではないという点だ。よって、サービスの運営側による許可を得ることさえできれば、たとえ「未完成」の作品であろうとも出品することが可能であり、作品の補修や開発を行いつつ長期的に利益を得ることが正当化される。(当然、ロイヤリティの仕組みはサービスによって異なるが)話題性の継続という点で、サービス運営側にも利点が生じる。ユーザー側としてもつまらなければ異なる作品を遊べば良いため、体験に対するストレスを覚えることは少なくなると予想される。
似た解決方法として、開発中の製品をファンユーザー向けに販売することで、プレイヤー目線のフィードバックを得る「アーリーアクセス(早期アクセス)」が存在するが、こちらはユーザーに直接製品を販売している点で、購入に対する心理的障壁の高さやファンコミュニティの醸成具合が異なる。
例を挙げると、今年数多くの賞を獲得した、坂口博信氏が中心となって開発を手がけたRPG『FΛNTΛSIΛN』は、前編のみの状態で公開され、配信直後の時点において作品が完結していない。「ダンガンロンパ」シリーズで知られる小高和剛氏と、「infinity」シリーズや「極限脱出」シリーズを手掛けた打越鋼太郎氏による作品『ワールズエンドクラブ』もまた、体験版の代わりとして、完結していない状態のまま配信が昨年行われ、今年完結した。