早すぎた次世代機進出。『ロックマン8 メタルヒーローズ』発売25周年で考える、シリーズ展開のいま
12月17日はカプコンの看板タイトルのひとつで、横スクロールアクションゲームの『ロックマン』第1作発売から34年を迎える日。同時に第8作の『ロックマン8 メタルヒーローズ』(以下、ロックマン8)の発売から25年を迎える日だ。
ロックマンの誕生10周年を記念する作品でもあった『ロックマン8』は当時の次世代機PlayStation、セガサターン向けのゲームソフトとして発売された。(※セガサターン版は1997年1月17日に発売)
次世代機への移行に伴い、グラフィックや音楽は大幅に進化。ロックマンを始めとするキャラクターたちにも声が付いたほか、作中ではアニメーションムービーも流れるなど、演出面もより一層派手なものになった。
ゲーム側でも基本攻撃の「ロックバスター」とボスを倒すと獲得できる「特殊武器」を別々のボタンに割り当てる、前作『ロックマン7 宿命の対決!』(以下、ロックマン7)にて登場したアイテム「ネジ」を稀少な収集品に改めるといった新たな試みが満載。本編構成も前作『ロックマン7』の定型を踏襲しつつ、8体ボス全てのステージが前後半に分かれた構造になるという大胆なアレンジも施されている。一部ステージに設けられた、シューティング、スノーボードの2つの特殊アクションパートも見所のひとつだ。
まさに次世代機特有の豪華さが際立つ出来だった『ロックマン8』。だが、本作はロックマンシリーズの販売戦略と展開の面で、課題を残した作品だった感は否めない。その課題とは、次世代機への進出タイミングである。
率直に言って、『ロックマン8』の次世代機進出は早かった。
2021年現在から見ても、極端なものだったのである。
長くファミコンに留まり続けた末の急進出
1987年に誕生した『ロックマン』は、任天堂のファミリーコンピュータ(ファミコン)向けゲームソフトだった。後に『ロックマン』はシリーズ化を果たし、翌1988年に続編『ロックマン2 Dr.ワイリーの謎』が発売。
以降も3作目、4作目と定期的に続編が発売されていった。
第3作『ロックマン3 Dr.ワイリーの最期!?』が発売されたのは1990年の9月。その2カ月後にはファミコンの後継機であるスーパーファミコンが発売されている。
しかし、続く第4作『ロックマン4 新たなる野望!!』は引き続きファミコンで1991年に発売。次の1992年発売の第5作『ロックマン5 ブルースの罠!?』もファミコン。さらには第6作『ロックマン6 史上最大の戦い!!』も、スーパーファミコンの誕生から3年が経った1993年にファミコンで発売された。次世代機が発売されようが、ロックマンシリーズは頑なにファミコンで展開され続けたのである。厳密には、外伝の『ロックマンワールド』シリーズにて、別のゲーム機(ゲームボーイ)へと進出しているが、スーパーファミコン、メガドライブといった当時の主力となっていた現行機への進出はなし。
一応、1993年の『ロックマン6』直後に『ロックマンX(エックス)』という新作が発売されたが、これはスーパーファミコン向けの新しいロックマンとの位置づけ。既に展開されていた初代(もしくは無印、本家)ロックマンから独立した存在だった。
初代ロックマンがスーパーファミコン、メガドライブといった現行機へと進出したのは1994年のこと。『ロックマンズサッカー』と『ロックマンメガワールド』という、番外編的な作品だった。
正統なシリーズの続編は『ロックマン7』がその第1号となる。だが、『ロックマン7』が発売されたのは1995年の3月。すでに世間ではPlayStation、セガサターンの次世代機が誕生し、任天堂も次なる次世代機の発売を示唆するなど、スーパーファミコンが末期へと突入しつつある時期だった。そんなころになって、ロックマンは現行機へと移行したのである。
なお、これほど遅くなったのは、制作に時間がかかったためではない。設定資料集『R20 ロックマン&ロックマンX オフィシャルコンプリートワークス』40ページ記載のコメントによれば、『ロックマン7』の制作に要した期間はわずか3カ月。実際にできあがったゲームを見ると、とてもそれほどの期間で作ったゲームとは思えないクオリティなのがすごい。
そんな『ロックマン7』から1年足らずで『ロックマン8』は次世代機へと進出してしまった。一連のシリーズが辿ってきた軌跡を踏まえると、本当に悪い意味で早かった印象は否めない。スーパーファミコンへの進出が遅れた反省を踏まえたのにしても早い。
加えて、ゲームソフトに限らずゲーム機も購入する必要が生じるため、主にシリーズのメインターゲット層とされていた当時の小中学生にとっても大きな負担がかかる格好になった。一応、1996年当時はPlayStation、セガサターン共に本体価格が2万円台に値下げされ、購入しやすくはなっていたものの、貰える小遣いが少ない、両親の厳しい言いつけなどがあったなら、どのみち負担が大きいことに変わりはない。
結局、この早すぎる進出は『ロックマン8』を遊べないプレイヤーを出す結果を生み、そのような人たちを対象に『ロックマン&フォルテ』なる外伝作品がスーパーファミコン向けに制作される運びになった。
前述の設定資料集60ページにも「PlayStation、セガサターンを持っていなくて『ロックマン8』を買えなかった子がいた」とのコメントが記載されていて、改めてその性急な判断がいかなる課題を残したのかをうかがわせる次第だ。
かくいう筆者も当時、『ロックマン8』を買えなかった人間のひとりである。筆者の場合は『ロックマン8』の発売に気付いたのが任天堂の次世代機、NINTENDO64の購入後だったため、情報収集を怠った代償ともいえる格好だったが。
ただ当時、今後も追いかけ続けたいゲームを不本意極まりない経緯でできなくなり、遊んでいる同級生たちの話題に付いていけず孤立し、蚊帳の外扱いされたという非常に辛く悔しい思いをした事実は、あえて当時のカプコンの制作陣に訴える形で記しておきたい。