『ウマ娘』ウイニングライブ制作の裏側 カットシーンアーティストの役割とは?

楽曲を象徴するラストカット 静止画でもキレイに見えるように

 ここまでの要素を踏まえて「Never Looking Back」のラストカットの事例を紹介する。今回のラストカットで表現したいことは、大きく3つある。1つめは「ハーフアニバーサリー記念曲であるため、ライブ映像の最後は楽曲を象徴するラストカットにしたい」。2つめは「ラストカットはバックダンサー含めて全員映したい」。3つめは「様々なメディアで使用したいため、静止画でもキレイに見えるようにしたい」である。

 最初にアングルとレイアウトを決める。正面から撮った状態ではウマ娘たちは全員映っているが、今回の背景の見どころである濡れた地面に光が反射している状態があまり感じられずもったいない。そこで、地面の反射もキレイに見せつつ全員が映るという条件を満たす、斜め上からの俯瞰を選択した。

 カメラのアングルは良さそうだが、ウマ娘たちの立ち位置にまとまりがなくバラついた印象になっているため立ち位置も調整した。元のフォーメーションはそのままに間隔を詰めるように中心に集め、さらに中心の3人が目立つように少し手前に立ってもらっている。フォーメーションは基本的な立ち位置の印象を守りつつ、ステージ全体を見せるようなカットではより広げて配置し、寄りになるようなカットでは中心に集まってもらうなど微調整している。

 ライティングの設定では手前のメイン3人を目立たせたいため、左上から強めのスポットライトを当ててコントラスト強めで存在感を出す。逆にバックダンサーはステージ奥のライトの光源のみにして逆光で存在感を抑える。中央の3人は目立つようになったが、バックダンサーが目立たなくなりすぎてしまった。暗く沈みすぎて地面と同化してしまうのは避けたいため、リムライトをふくらはぎの方向に出してシルエットが立つように調整した。

 フェイシャルの調整では、ラストカットであるためバッチリ決まるように作っていく。調整前は目線がバラバラだったのを、カメラに向けつつスペシャルウィーク(中央のキャラクター)の片方の口角を少し上げてちょっと不敵な笑いになるようにした。また汗などのエフェクトも調整している。

 ライトやポストエフェクトの調整では、まず奥のライトの光を強調し、逆光を印象的に見せている。手前のメイン3人には左上からの光がフワッと乗るようにして、より存在感を強調する。画面の下半分は影の部分としてより締まるように調整。今回は地面が濡れているため、湿度が高い印象になるようにした。ディヒュージョン(拡散)の値なども調整し、光が拡散されているような柔らかな見た目にしている。

 この曲では柔らかな見た目を採用したが、明るく元気な曲ではパキッとくっきりした見た目にすることが多い。最後にエフェクトを追加し、空気感を作り込んでいく。今回はスモークのエフェクトを配置した。また鮮やかな青になるように、映像全体の色調を整えて完成となる。

 終わりに齋藤は改めて「最終的な画作りを担当するのはカットシーンアーティストとなるが、カットシーンだけがクオリティを左右しているわけではない。プランナーのコンセプトの明瞭さ、キャラクターや背景、モーションなどのアセットのクオリティー、調整しやすいデータ構造、カットシーン作成ツールの優秀さなど、様々な要素がライブの完成度に関わっていて、どれも欠かすことができない」と総括し、「これからもライブ開発チーム一同、トレーナーのみなさまに最高のライブを届けられるよう邁進していく」とセッションを後にした。

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