『ウマ娘』ウイニングライブ制作の裏側 カットシーンアーティストの役割とは?

『ウマ娘』におけるウイニングライブ制作

 11月13日、14日、Cygamesがオンラインにて『Cygames Tech Conference』を開催した。自社単体として初となる当カンファレンスより「ウマ娘プリティーダービーにおけるウイニングライブ制作事例~ライブ開発チームの体制や制作フローについて~」の模様を記す。登壇者はデザイナー部3DCGアーティストチームの齋藤歌織氏(3DCGリードカットシーンアーティスト)。

カットシーンアーティストの役割 楽曲1曲につき1人で全て制作

 『ウマ娘』全体における開発チームの特徴は、プランナーやアーティストなど、セクション単位の縦割り構成ではなく、機能やコンテンツごとに様々なセクションのスタッフが集まってクオリティアップのためのミッションを掲げたチームが組まれている。ライブ開発チームもその中の1つで、最高のライブ映像の提供をミッションに掲げている。

 チーム設立の経緯は、セクション単位のウォーターフォール形式だと開発の途中で新しいアイデアや意見が出たとしても取り入れることが難しく、自分のセクション以外への関心が薄れてしまうことが課題だった。最高のライブ映像を提供するために、コンセプトから映像の完成まで、常にそれぞれの視点から活発に意見を出し合い、クオリティを高めていくことが大切と考え、同じミッションを掲げたセクション混合体制へと変更していった。

 ライブ開発チームでは、コンセプト立案から映像の演出、背景やモーションなどの各アセットの作成、実際の映像の完成までを担当している。チームメンバーはプランナーや3DCGアーティスト、エンジニアなど、各セクションから集まったメンバーで構成されている。

 このチームにおけるカットシーンアーティストの役割は、ウイニングライブを構成するダンスモーションや3D背景などの各データをまとめ上げ、最高のライブ映像として完成させること。具体的にどういった部分を担当しているかというと、楽曲ごとに担当者が振り分けられ、映像の構成からポストエフェクトまで、楽曲1曲につき1人の担当者が全てを制作する。

 もっと分業した方がいいと思われるかもしれないが、担当者が複数いると、映像を作り込んでいく中でカットごとにカメラ、ライティング、フェイシャルなど、各要素を細かく調整していく必要があるため、やり取りに時間がかかってしまうからだ。担当者が1人の方が、コンセプトがブレることなくスピード感を持って制作を進められるメリットがある。

 カットシーンの作成は制作フローの中でも最終工程。カットシーンアーティストは背景やモーションなど、各アセットが揃った後にライブの映像としてまとめ上げて完成させる。プランナーから提示された今回のライブコンセプトをどう実現するか検討したり、背景の構造や機材の位置の相談、ダンスの振付についての要望など、初期段階から各工程に関わっている。

 ライブ制作フローはプランナーによるコンセプト立案と発注、コンセプトアートやモーション収録の後にカットシーンを含む各3Dアセットの作り込みで完成。まず最初にリリーズされる楽曲が決まった後、プランナーによるコンセプト立案と発注がある。この工程では、背景やダンスのイメージ、演出の方向性などライブ全体のコンセプトが立案される。

 大きなコンセプトとしては、雨をテーマに光と空気感の表現にこだわり、ウマ娘たちの決して諦めない芯の強さを見せるというもの。このコンセプトを元に、楽曲担当者全員で今回のライブで必要になる要素や機能を確認する。具体的にどういった方法で作っていくのかを各担当者が検討し、アーティストやエンジニアの作業が始まる。

 そのコンセプトをより具体的に、各アセットの要素として落とし込んだものの一部がこちら。上から順番に、背面のスクロールライトを活用して雨を擬似的に表現、床が濡れているような幻想的な光の反射、スタンドマイクで熱く歌うウマ娘とキレのあるバックダンサーのダンス。

 次に提示されたコンセプトに沿って、コンセプトアートを作成する。ここではステージデザインやライティングイメージが決まる。ビジュアルに落とし込まれたら、3D背景やモーションアーティストなど、各担当者がそれぞれの視点からチェック。コンセプトアートにはステージデザインとしてだけではなく、チーム内で初期段階から最終的なイメージを共有する役割もある。カットシーンアーティストはライトの印象やステージの構造をチェックし、映像にする際の見栄えを確認する。

 こちらはコンセプトアートと完成映像。開発チームの2Dアーティストがコンセプトアートを担当。制作にあたって、まず最初に2D背景アーティストとプランナーで検討し、欲しい要素やイメージを固めてからステージの構造やライティングの雰囲気を具体的なビジュアルに落とし込んでいく。

 次に3D背景の仮モデルを作成。ここではスケール感や見栄えを確認する。コンセプトアートを元に3D背景アーティストがザックリと機材を配置して、背景のスケール感が分かるような仮モデルを作成する。ステージ上の広さや階段の高さ、段数などはモーションキャプチャー収録の際に必要な情報になってくるため、この時点で確定させて自社のモーションキャプチャースタジオと共有する。

 ここでのカットシーンアーティストは、モーションアーティストとともに3D背景の仮モデルにキャラクターを立たせ、スケール感やカメラを通した見た目を確認し、構造や機材の要望を出す。

 それから振付師にダンスを発注して、モーションキャプチャーの収録をする。制作した3D背景の仮モデルをモーションキャプチャースタジオに送り、MotionBuilder(Autodesk社の制作ソフト)でキャラクターモデルのダンスのモーションや移動幅を確認しながら収録していく。リハーサルや収録には開発チームの各セクションの担当者が同席。それぞれの視点で注文を出し、振付師やアクターに細かい調整をしてもらう。

 ダンスは基本的に楽曲やキャラクターのイメージなど、入れたい要素を振付師に頼んで細かい動きを任せている。さらにリハーサルのタイミングで振付師やアクターと相談しながら、より具体的なキャラクター性の出し方や映像にしたときの見栄えを想定した調整を行う。モーションキャプチャーが完了したら、3D背景、モーション、カットシーンの各セクションの作り込みを進めていって完成させる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる