稀代のデジタルアーティストが持つ、もう一つの顔――シモン・ストーレンハーグの「音楽性」に迫る
2018年8月には、ブライアン・イーノやハロルド・バッドに影響を受けて制作したという楽曲をまとめた『Music For DOS』をリリース。楽曲制作にあたっては、Pentium(R)プロセッサ(266MHz)でImpulse Trackerを実行し、CASIO SA21とYAMAHA ポータサウンドPSS-280からのサンプルを主に使用したとのこと。つまり往年のPCハードウェア、ミュージックシーケンサー、ミニキーボードを駆使したアンビエントサウンドである。ストーレンハーグはここでもある種のノスタルジーをかき立てさせてくれる。2021年5月にリリースされた『Music For Satanic Children』も、同様のプロセスで制作されたアルバムだ。また、ストーレンハーグは「The Slow Rise Of The PSS 280」と題した興味深い動画(&オリジナル曲)をYouTubeに投稿している。
現行最新作のアート&ストーリーブック『Labyrinten』/『The Labyrinth』では、文明や生態系が崩壊し、生き残った者たちは地下深くでの生活を余儀なくされている荒廃した地球が舞台だ。マット、シグリッド、チャーリーの3人は廃墟と灰に覆われた地表の旅へと赴くが、やがて文明崩壊前の地上の秘密にも迫ることになり……という、これまで以上に終末的なトーンを強めた作品となっている。2021年11月にはサウンドトラックもリリースされ、全編にわたって湿り気を帯びたダークアンビエントサウンドを聴かせる。エグゼクティヴ・アルバム・プロデューサーにブライアン・マクニールス(『サイバーパンク2077』音楽スーパーバイザーなど)、ダレン・ブルメンタル(『ジョン・ウィック』製作総指揮、『ボーダーライン』音楽プロデューサーなど)、タラ・フィネガン(『ガンズ・アキンボ』音楽プロデューサー、『ジョン・ウィック』製作総指揮など)の名前がクレジットされている点も興味深い。ドラマシリーズ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』が2020年4月にAmazon Prime Videoで配信され、『エレクトリック・ステイト』の映画化がルッソ兄弟の監督のもと現在進行中と、映像化が続くストーレンハーグ作品だが、本サウンドトラックは別の新たな展開を予感させるものといえよう。コンポーザーとしてのストーレンハーグにも要注目だ。