「上手い人ほどよく煽る」 煽りプレイの心理を専門家に聞いた
オンライン対戦が一般化したおかげで、場所や時間、友達の数に囚われずに対戦ゲームを楽しめるようになった。ただ、とても便利になった反面、“煽りプレイ”の被害に遭うケースが珍しくない。
煽りプレイは煽り運転と違い、命を危険にさらすリスクはなく、基本的には「変なプレイヤーに当たってしまった」と“運の悪い出来事”として簡単に処理されるため、煽りプレイの実態はあまり考察されていない。そこで煽りプレイをする人の心理、自分自身が煽りプレイをしないための心構えなどについて、静岡県立大学短期大学部で講師を勤め、“オンラインゲームの仮想世界が現実世界の対人関係の質および量に及ぼす影響”などについて研究している社会学者の高田佳輔氏に話を聞いた。
2種類の煽りプレイとは
――煽りプレイはどのような心理があるのでしょうか?
高田佳輔(以下、高田):私が様々なゲームプレイヤーを観察した限り、煽りプレイには“戦略的な煽り”と“情動的な煽り”の2種類に大きく分けられると思えます。まず戦略的な煽りは、相手に恐怖や怒り、戸惑いの感情を生起させることが目的です。基本的に“煽り”は強者が弱者にする行為なので、煽られた側には恐怖心が芽生え、心理的な揺さぶりを与えることができます。
――戦略的に動揺を誘っているわけですね。
高田:そうです。とりわけ、リスクの高い大胆なプレイをして返り討ちにあったあと、煽りプレイをされると、恥にも似たような恐怖を覚え、プレイが委縮することが珍しくありません。ハイリスクな行動を咎められると、『この相手には敵わない』『レベルが違いすぎた。もうリスクを取った行動は通用しない』というように相手プレイヤーに恐怖や恥が入り混じった感情が生起され、リスクをとったプレイにネガティブなイメージがつきます。その結果、相手プレイヤーがハイリスクな行動をとる確率が下がり、優位に戦うことができるのです。
戦略的な煽りはメリットが多い
――他にも戦略的な煽りはどのような効用があるのですか?
高田:ほかには“怒り”を引き起こします。怒りは恐怖と違い、リスクの高い行動をとる確率を上昇させます。これは単純に煽られたことに対して怒りが生じ、その後冷静な判断が取れなくなるからです。格闘ゲームであれば、失敗すれば相手から確定で大きなダメージを受けるような行動をとる確率が上がります。FPSであれば、死角から平気で頭を出したり、非常に大胆なルートから相手への攻撃を試みるようになります。
――戦略的な煽りは「恐怖→リスクを取らせない」「怒り→リスクを取らせる」と対極の行動を同時に促すように感じますが、結局はリスクを取る割合はどのように変化するのでしょうか?
高田:正直、恐怖優位か怒り優位かはケースバイケースです。ただ、どちらにせよ、戦略的な煽りを受けたプレイヤーの動きを見れば、どちらの感情に振れたのかは一目瞭然。どのように動揺したのかを計算に入れ、煽る側はプレイを柔軟に対応するだけで、戦局をコントロールしやすくなるため、戦略的な煽りを使用するメリットはとても多いです。
――“情動的な煽り”についてお聞かせください。
高田:情動的な煽りは、戦略的な煽りと比較して、勝負に有利に働くとはあまり考えられません。情動的な煽りを行うプレイヤーにインタビューをしたことがありますが、『興奮して気づいたら死体撃ちをしていた』『相手が弱いと思ったからやった』など、戦略的な要素が伺えない発言が目立ちました。ですので、“情動的な煽りは無意識的な行動であり、単なるストレスの発散でしかない”と言って良いと思います。
上手い人ほど煽りやすい?
――次に煽りプレイをする人の特徴を教えてください。
高田:まず性別については、過去の煽り運転に関する研究で示される結果※と同様、“ゲームにおいても比較的、男性の方が煽りプレイをする”と言えるでしょう。実際、私が出会った煽りプレイ経験者は全員男性でした。
――社会的な立場は影響していますか?
高田:煽り運転の加害者は社会的階級が高い傾向があり、被害者は社会的階級が低い傾向にあると示されています。これをゲームに置き換えると、“相対的にゲームの上手い側がゲームの下手な側を煽りやすい”となりますが、この関係図はゲーム内でも例外ではありません。
――ゲームが上手い人ほど煽りプレイをするということですか?
高田:はい。その理由は簡単で、煽りプレイをするチャンスは、その時点で勝っているプレイヤーにしか与えられません。つまり、上手いプレイヤーのほうが煽りプレイをする機会に恵まれているからです。格闘ゲームであれば、自分の猛攻によって相手がシステム的に一定時間操作不能状態になっている間、屈伸や挑発行為を行います。FPSであれば、相手を打ち倒した後に相手の死体に向かって発砲したり、死体の上で屈伸したりします。