「にじロック」から『NIJIROCK NEXT BEAT』へ 7人が見せた“邦楽ロックへの愛とリスペクト”
10月30日、バーチャルタレント事務所・にじさんじが主催する『NIJIROCK NEXT BEAT』が横浜のぴあアリーナMMにて開催された。盛況のなかで終わった一夜のライブをレポートしていきたいと思う。
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本イベントが開催されるきっかけになったのは、いまから約2年前にさかのぼる。にじさんじに所属する緑仙を主催とし、7人のタレントが2019年8月2日に「にじロック」と名付けられた邦ロックリレー配信を催したのがきっかけ。その後には、にじさんじ内のライバーによる歌リレー配信が続いていくことになった。
2020年から今年にかけ、緑仙と三枝とジョー・力一はRain Dropsとしてメジャーデビューを果たし、そのほかにも多くのライバーが音楽レーベルを通じてメジャーデビュー、にじさんじとしても事務所が主導するカバーアルバムがリリースされるなど、にじさんじと音楽は切っても切れない関係を現在までつづけてきた。
多くのタレントが所属するにじさんじには、音楽を愛好する者は非常に多い。とりわけ、日本のロックバンドが与えてきた影響は目に見えて大きい。ボーカロイドを起点としたネットミュージックにおいても、多くのクリエイターらが邦楽ロックからの影響を口にしているのを踏まえれば、いわば邦ロックリレー配信「にじロック」は、VTuber/Vライバーという最新のクリエイター/タレントから邦楽ロックシーンへの愛とリスペクトが強く発せられる場所でもあった。
2021年年初に開催された『にじさんじ Anniversary Festival 2021』の前夜祭イベントでは、アニソンヒットを多く引っ提げるロックバンド・FLOWを招聘し、さながら対バンイベントとして開催されてもいる。ロックバンドが放つ膨大なボルテージを目の当たりにし、にじさんじファンやこの日参加したライバーも大きなインパクトをもらっただろう。
この日開催されたイベントのメンバーは、2度にわたって放送された邦ロックリレー配信「にじロック」に出演していた緑仙、三枝明那、加賀美ハヤト、雨森小夜、轟京子、ジョー・力一、夢追翔の7名。それぞれが持つロックへの愛情を燃やしながら、各々にライブを披露していった。
2020年にオープンしたばかりのぴあアリーナMMには、大規模イベントの人数制限に則って約5000人ほどの観客が会場を埋めることになった。にじさんじ主催のイベントとしては2019年10月2日の『にじさんじ Music Festival 〜Powered by DMM music〜』の7000人に次ぐ、会場規模・観客の規模感だ。さらには生バンド隊が全曲で演奏することもあり、まさに7人にとっての晴れの舞台と言ってふさわしい。
三枝による開演前アナウンスが始まり、序盤は原稿を噛みながらアナウンスしつつも、最後にはいつも通りの高いテンションで観客を盛り上げる。17時に会場が暗転すると、登場SEもオープニング映像もないままにバンド隊がステージに立っていく。ギターのミュート音が重なっていく印象的なイントロ、センター大画面には7人のライバーが一気に映し出され、「Salamander」からスタートした。
序盤は「フルドライブ」「きらきら武士」「Black Cherry」と複数人で歌唱し、そこからライブは元々のリレー配信に即するように、個々人のソロパートへと移っていく。
「自分がこれまでしてきた歌配信で歌った曲を、そのまま生で歌ってみる」というコンセプトで選曲した三枝。にじさんじの3Dステージにアリーナステージを制作するように頼んだ張本人であり、「夢は武道館」と語っていた彼がこの日のライブで一番手を務めた。ステージ真反対から見た光景は、「3D配信でみた引きの絵と同じ」などと思えるほど。通常の配信で冗談めかしていたあの絵面が、現実のアリーナで叶った。ステージから見えるアリーナの情景を、最初に彼に見せようという粋な計らいがあったのだろうか。
この日初めて3Dのボディをお披露目した轟京子は「人と人との繋がりって何だろう?」とシリアスな面持ちで観客に問いかけ、そこから「感情のピクセル」を披露。歌詞に登場する〈どうぶつさんたち だいしゅうごうだわいわい〉のサビ部分で動物のお面をつけた黒子たちが登場し、原曲のギャグ性を押し出す形で表現してみせた。
3番手に登場した緑仙は、それまでの歌配信と同様に「無駄なMCなどはせず、歌だけを届けたい」という狙いに則り、矢継ぎ早に4曲を歌っていく。高い歌唱力を持つ緑仙が、わざと喉を締め上げるようにして声をあげていくと、中性的な歌声に痛みが混じり、「絶対的な関係」や「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」で描かれるような感傷さをさらにひきたてていた。
轟と同じくこの日初めての3Dボディをお披露目することになった雨森小夜。「横浜の地にひとり佇む女の子がいましてね…あの子って誰?それが例えば透明少女」の口上から始まり、曲終わりには口にタバコを加えて銃を撃つという原曲アーティストの名演・名口上をオマージュして見せる。「キャンディ・ハウス」「ゲット・アップ・ルーシー」の2曲をメドレーで歌う際には、当時のチバユウスケよろしく黒いサングラスをかけて歌うなど、邦楽ロックバンドへの愛情を目に見える形で示してくれる。キュートな歌声が男臭いロックンロールとともにドライブしていく様は、雨森ワールド全開といったところだ。
ソロシンガーとしてアルバムを発表している夢追翔は、大舞台となったこの日のステージが初めて有観客のライブで、観客との会話もこなしつつ、自身の楽曲「カケル」を披露。サビの部分で拳をあげてほしい!というレクチャーをしたということもあり、一段と紫色のライトが揺れ、一体感を強く感じられるステージとなっていた。
ジョー・力一のソロパートは、以前の歌リレー配信と同様、一つの作品性やコンセプトを全面に押し出したステージとなった。「サンフランシスコ」、「CIRCUS」、「サーカスナイト」とチョイスされた楽曲、テーマはサーカスにまつわる舞台。自身がピエロというキャラであることを活かし、画面全体に大量のジョー・力一を登場させたり、火の輪や炎を灯したりと、ミステリアスで奇妙な世界観を表現した。