ゲーム体験の「驚き」を求め続けた歴代メトロイドの「恐怖」と、最新作『メトロイド ドレッド』が見せたその極致
緊張と弛緩。その醍醐味を突き詰めた『メトロイド ドレッド』の「恐怖」
数ある『メトロイド ドレッド』の恐怖の中でも、最も強烈な驚きに満ちているのは「E.M.M.I.」だろう。
メトロイドが描いてきた恐怖というものは、分解するならば「強敵との不意な遭遇」、「太刀打ち不可能な脅威からの逃亡」、そして「元凶の対峙(死闘)」の3つが主軸になっていた。
「E.M.M.I.」はその中の「太刀打ち不可能な脅威」に該当し、『メトロイド フュージョン』の「SA-X」、『メトロイド ゼロミッション』の第2部に登場する「ゼーベス星人」の流れを汲む存在として描かれている。
だが、「E.M.M.I.」が大きく異なるのはほぼ全編に渡って対峙すること。
「E.M.M.I.ゾーン」と称された「E.M.M.I.」の徘徊する区画が必ずといってほど用意され、探索の過程で何度も足を踏み入れることになるのだ。
そして、襲われないよう慎重に立ち回らなければならない。しかも、捕まれば「即死」。あくまでも大ダメージを受ける程度(場合によっては即死だが)だった過去の2体と比べても、その凶悪さと恐ろしさは語るまでもないだろう。
そして「E.M.M.I.」には、過去のメトロイドが突き詰めてきた恐怖が凝縮されている。執拗かつ、プレイヤーの裏をかく追撃はその原点に当たる「SA-X」と「ゼーベス星人」。また、ゲームが進むにつれて高速移動したり、サムスを凍結させる攻撃も行うなど手ごわくなっていくのには、脱皮を繰り返しながら強化を重ねていく『メトロイドII』の「メトロイド」に近い怖さが描かれている。
捕まれば即死というのも、『メトロイドII』のリメイクである『メトロイド サムスリターンズ』(2017年、ニンテンドー3DS)で初登場した大型掘削ロボット「ディガーノート」の襲撃から逃れるイベントが脳裏を過ぎる部分だ。
加えて「E.M.M.I.ゾーン」全体に漂う死の香りである。踏み込めば一気に死が身近に迫る雰囲気は、さながら『メトロイド プライム2 ダークエコーズ』(2005年、ニンテンドーゲームキューブ)に登場する、瘴気渦巻く闇の世界「ダークエーテル」に近いものがある。同作のように移動してもダメージを受け続けることこそないが、一刻も早く抜け出したい、長居したくないという気持ちを煽り経てるのは極めて似ている。
ほかにも捕まった際、1%の確率でカウンターが決められるのも、どこか『メトロイド アザーエム』の突発的な操作が試される襲撃イベントに近い緊張感がある。
こうした特徴の数々を見ると、「E.M.M.I.」にはシリーズが築き上げてきた恐怖の歴史が集約されているのが分かる。そして、そのような要素をまとめ、体験させる場面を増やしたことによって、シリーズ最大級の「驚き」が得られるようになっている。
なるほど、確かにこれは「恐怖の探索アクション」であり、驚きの集大成であると明言できるものに完成されているのである。
さらに特筆すべきが、一連の恐怖を乗り越える「克服」の快感もシリーズ最大級のものになっていることだ。冷徹な殺人マシーンたる「E.M.M.I.」も、最終的には「オメガキャノン」なる強力な装備の入手で倒せるようになる。
だが、「オメガキャノン」を入手するには、「E.M.M.I.ゾーン」も挟んだこまめな探索と強敵との戦い、そして「E.M.M.I.」の回避が求められるため、そう易々とはいかないようになっている。そのおかげで入手できた時の達成感はひとしおであると同時に、恐怖を克服できる最大の好機到来とも言える嬉しさがこみ上げる。そして無事、倒せた時には見事大きな壁を乗り越えたという、圧倒的な達成感が得られるのだ。ちなみに「E.M.M.I.」を倒せば、「E.M.M.I.ゾーン」も自由に探索し放題である。
そんな「緊張と弛緩」を繰り返す流れを全編に渡って敷いているのが大変素晴らしい。通常の区画と「E.M.M.I.ゾーン」の規模もどちらかが過剰に長引かないよう、神経を配って調整されており、仮に即死の運命に襲われてゲームオーバーになっても、やられた近くの場所から再開できるよう、負担を感じさせない気配りが徹底されている。
面白くて熱中してしまうゲームというものは、ストレスとその解放がバランスよく繰り返される、退屈させない流れを構築できているかにかかってくる。『メトロイド ドレッド』はその醍醐味を見事に捉えており、恐ろしいけど気になるから進めたくなる、いつかは克服できるとの希望を保ちながら遊び続けてしまう、圧倒的な中毒性を実現させているのだ。
それも「恐怖」を強調させたからこそ、と言えるものがあり、怖いのに面白い……“怖面白い”体験を提供するのである。同じものは敵との戦闘、主にボス戦においても色濃く描かれている。全体的に今回は難易度が高めに設定されていて、ダメージを食らえば一気に体力が削られてしまうという「恐怖」が付きまとうようになっている。
だが、すべての攻撃の直前には必ず予備動作が挟まれ、何度かの失敗と再挑戦を経ていくたび、次第に楽に回避できるようになる。また、手に入れた武器を的確に当てながら撃ち続ければ、戦闘時間も分かりやすいぐらい短縮される。もちろん、そのためには相応の操作技術と根気、手に入れた武器の応用も試されるが、どんな強敵でもいつかは倒れる時がという可能性を少しずつ示す調整は、まさに「克服」の醍醐味を極限にまで突き詰めている。それをより大きなものにするため、恐怖というテーマを際立たせる狙いで高めの難易度に設定したとなれば、これ以上ないほど納得するしかないし、その思い切った判断には感服である。
さらなる「驚き」を求めるため。ゲーム体験の全てが記憶に深く刻み込まれるものにするため。今回の『メトロイド ドレッド』は、そんな狙いが非常に強く表れており、とても良い意味で「恐怖の探索アクション」が確立されている。
この強烈な体験を描くため、感じ取りやすくするために恐怖は用いられ、歴代のシリーズで培ったものを全投入した。その意味では今回のメトロイドは、本当に35周年記念の新作として、これ以上なく相応しい逸品になっていると言えるだろう。