VTuber界における『Apex Legends』配信者の代表格 勇気ちひろの「天真爛漫で自由奔放」な魅力

 これまでの記事で元1期生について触れる際にも書いているが、彼女も初期には非常に苦闘していた。MirrativやOPENREC.tvでの配信をしていたが、徐々にYouTubeでの配信へと変わっていき、約1年に渡って地道な配信活動を続けていくことになる。

 そんな彼女にとって大きな転機となったのが、2019年3月23日に配信したFPSゲーム『Apex Legends』との出会いである。先に述べておきたいが、彼女のゲームスキルは特別素晴らしいものではない。MirrativやOPENREC.tvのころに配信していたゲームの多くがスマートフォンゲームであり、『Minecraft』を初期によくプレイしていたものの、キーボード+マウスを使ったPCゲームに強いわけではなかった。

 『Apex Legends』と出会って以降、それまでプレイしていた『Minecraft』などにはほとんど触れることがなくなり、毎日『Apex Legends』のプレイ配信をするようになっていった。配信時間も徐々に長くなっていき、一時期には12時間連続でプレイしてもまだ配信を続けようとするほどになったのだ。

 現在では平均5時間〜6時間ほどだが、10時間以上の配信も頻繁にしているし、そのほとんどが『Apex Legends』だ。前回紹介した静凛に対して「にじさんじ女性ライバーの元祖配信モンスター」とも称したが、いま現在における女性ライバーの配信モンスターは彼女だと言っていいだろう。

 FPSゲームはこれが初めてという彼女であったが、その影響力は多大だった。徐々に初期のキュートな振る舞いや受け答えを色濃く残していた勇気ちひろから、舌鋒鋭いトーク力と負けん気の強い「素」の勇気ちひろへと変わっていくことになる。

 敵をキルし切れなかった惜しいシーン、逆転につぐ逆転でチャンピオンを取って喜ぶシーンなど、大声をあげて感情を露わにする配信者へと変貌。ファンとの会話も大切にする彼女は、激しい銃撃戦のなかでもコメントを拾ってテンポよくトークし、キレのあるボケ・ツッコミを挟んで笑わせてくれることも増えていくことになった。

 長時間かつ毎日に渡って放送されるFPS配信、ソロでの配信活動、しかもキュートな姿のVTuber。その噂が広まっていき、『Apex Legends』に関わるゲーム配信者やプロのFPSプレイヤーたち、時にはYouTuberやお笑い芸人など、徐々に彼女の配信に注目し始めるようになっていく。

 現在ではにじさんじという事務所やVTuberシーンという枠や見方を塗り替え、『Apex Legends』の実況配信者として多くのプレイヤーを惹きつけるようになった彼女は、『Apex Legends』というゲームが広まっていくきっかけを作った一人だろう。

 配信中でたまに見せるように、エッジの効いた強気な発言とは裏腹に少し弱気な表情を隠さないなのが彼女でもある。大会練習中にマイクをミュートにし、チームメイトに隠すように泣いてしまうこともあるし、トッププロとの戦いを見慣れてしまっていることもあって、通常配信中には自身の戦い方に悩む姿を見せることもある。

 時としてストレートすぎる物言いがゆえ、誤解が付きまとうことも少なからずあるのは玉に瑕だが、彼女にとってゲームを通じて感情を露わにすることで、多くのファンが彼女に魅了されているのもまた事実。ゲームを通じ、うまく露わにできずにいた自由奔放な自分を表現できるようになったとも言えよう。

 その変化には元一期生として交流の深い7人も驚くこともあるが、月ノ美兎曰く「インターネットでまだ心が死んでない稀有な人間」と語ったことのあるように、たしかに彼女の配信では喜怒哀楽どれをも隠すことなく、自分の声として発する姿がある。天真爛漫かつ自由奔放、その核は人間味ある性格と気性にあるのだ。

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