20周年を迎えたゲームキューブ、その傑作『カービィのエアライド』をいまこそ語ろう

『カービィのエアライド』をいまこそ語ろう

バトロワを先取りしていたような「シティトライアル」の先見性

 しかし、シンプルなだけで「底が浅い」と評されないのが桜井ゲームの特徴。『カービィのエアライド』はそれこそ足をつけた時はホッと安心するほど浅いものの、いざ奥へ進むと、何時間でも費やしてしまう底のない沼が広がっている。ここではその沼を3つ紹介しよう。

(C)2003 HAL Laboratory, Inc. / Nintendo
(C)2003 HAL Laboratory, Inc. / Nintendo

 1つ目が「コピー沼」。星のカービィでおなじみコピー能力がレースにも登場。かつて配管工たちが「俺より早い奴を全員倒せば俺が最速」と言ったとか言ってないとか定かではないが、エアライドはダーティプレイ上等のレースゲームで、サンダー、ソード、マイク、様々なコピー能力で他マシンを直接攻撃できる。このアクション攻防が実に熱い。

(C)2003 HAL Laboratory, Inc. / Nintendo
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 2つ目が「マシン沼」。確かにこのゲームはボタン1つで遊べる単純明快なレースゲームだ。しかし19種類登場する個性的すぎるマシンたちが、一度足を突っ込んだ子どもたちを掴んで離さない。この作品のマシンは「ちょっと早いけどハンドリングが弱い」なんて個性ではなく、加速性能はピカイチだがまるで曲がれない「ルインズスター」、チャージして走行燃料を貯める「ヘビースター」、バグなのか仕様なのか人智を超える難易度の「ウィリースクーター」など、もはやマシンごとに別ゲーになるといっても過言ではない。

(C)2003 HAL Laboratory, Inc. / Nintendo
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 そして最後がお待ちかね「シティトライアル沼」だ。この作品には通常のレースモード「エアライド」の他に、「シティトライアル」という特殊なモードが存在し、あまりの人気から「エアライド」はやったことないが「シティトライアル」は100時間遊んだ、なんてプレイヤーもいるぐらい人気のモードだ。

 まず、参加者は全員「シティ」と呼ばれる巨大なオープンワールド調のマップから開始する。「シティ」には様々なマシンの他、無数の箱が存在し、破壊するとマシンの性能を上げる(下げる)トークンやコピー能力が出てくる。かくして自分のマシンを見つけ、強化した後、3~7分後に「スタジアム」にて開催される最終決戦に臨むことになる。

(C)2003 HAL Laboratory, Inc. / Nintendo
(C)2003 HAL Laboratory, Inc. / Nintendo

 このシティでの攻防が、レースゲームどころか他のどのゲームにもない「遊び」だった。最初、手当り次第に箱を壊し、効率よくマシンを強化すればいいとプレイヤーは考える。しかしこのゲームは先程「コピー沼」で述べたように他人を攻撃するアクション要素もあり、もしマシンを壊されると、マシンもろとも強化能力は相手に奪われてしまう。よって自分の能力を強化しながら、相手から身を守る必要がある。逆に言えば、他のプレイヤーが先に強化できていても、倒して奪ってしまえばそれまで。この奪うか、奪われるかというバトルロイヤルが素晴らしい緊張感を生む。

(C)2003 HAL Laboratory, Inc. / Nintendo
(C)2003 HAL Laboratory, Inc. / Nintendo

 その上「シティ」には様々な幸運や災難が次々に襲いかかる。たとえば大量の強化トークンを積載したUFOが通過したり、隕石が降ってきたり、ダイナブレイドとのボス戦が突然始まったりだ。このイベントは毎回ランダムで、この機に攻めるか、協力するか、逃げるか……一体レースゲームとは何なのかというイベントから、予想だにしなかった心理戦が始まったりする。

 決勝戦「スタジアム」の試合内容もランダムで、最速のカスタマイズを施したのに突然デスマッチが始まって即死したり、挙げ句のはて、全員で協力してデデデ大王と戦うというものまで存在する。もはや対戦ゲームですらないのだけど、だからこそうっかり躓いたプレイヤーであっても常に楽しめる余地を残しておこうという、やはり「やさしいアンチテーゼ」なのだ。

 いまにして思えば、この「シティトライアル」は『Fortnite』や『Apex Legends』などいま流行りの「バトロワ系」に近い魅力がある。広大なマップを舞台に毎試合違った展開が発生し、プレイヤー同士が時に戦い、協力し、あるいは逃げるのもよしというダイナミックさ、「勝った・負けた」があまりはっきりとしないからこその心理的負担の少なさ等、もちろん「バトロワ」直系の原典ではないのだが、桜井政博の先見性があらわれたモードだと言える。

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