ソニーが加速させる「おうちエンタメ」の拡充とは 家で味わえる映画館のような音響体験の秘密

ソニーによる「おうちエンタメ」の拡充とは

 音楽、映像などのエンタメコンテンツを楽しむ際にかかせないオーディオ製品。イヤホンやスピーカーなど、数ある製品にはどのような企画立ち上げの思いや開発者らの努力が詰まっているのだろうか。連載「エンタメを支えるメーカーの裏側」ではオーディオライター・折原一也がメーカーの裏側に迫り、開発ストーリーを紐解いていく。

 新型コロナウイルスの影響もあってか、大画面テレビの普及や自宅内でのエンタメ需要を受け、テレビのサウンドをアップグレードするサラウンドシステムが人気を集めている。そんな中、ソニーが久々にサラウンドシステムのハイエンドモデルを発表した。7.1.2chサウンドバー「HT-A7000」とホームシアターシステム「HT-A9」だ。

 ソニー4年ぶりのフラッグシップモデルとなるサウンドバーと、独自の立体音響技術「360 Spatial Sound Mapping(サンロクマル スペーシャル サウンド マッピング)」を駆使した新感覚のホームシアターシステムは「おうちエンタメ」にどんな感動を与えてくれるのだろうか。企画、開発の担当者に話を聞いた。

<インタビューイー>
「HT-A7000」
商品企画:ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品企画部 橋本琢磨
設計(プロジェクトリーダー):ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品設計部 板垣鉄平
設計(音響設計):ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品技術部 根岸賢幸 

「HT-A9」
商品企画:ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品企画部 鈴木真樹
設計(プロジェクトリーダー): ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品設計部 堀内雅彦(課長)
設計(音響設計):ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品技術部 酒井芳将

圧倒的な広がり感、HT-A7000は「サウンドバーの最高峰」

折原:まず、HT-A7000というサウンドバーが誕生した背景や、「おうちエンタメ」が広がる中でユーザーからどのような要望があったのか教えていただけますか。

「HT-A7000」

橋本琢磨(以下、橋本):昨今、ホームシアターシステムが少しずつ普及して高性能化しており、組み合わせて使うテレビも4Kや高精細化などで大画面化していきました。そうすると大画面にあったサラウンドの商品が求められるのではないかと考え、サウンドバーでも手軽に楽しめるような体験を実現したいという思いから、今回開発をスタートさせています。

根岸賢幸(以下、根岸):映画館や動画配信で普及の進む立体音響のドルビーアトモスを楽しみたいというお客様からの要望は当然のようにあるので、そのフォーマットを再生できるような商品は求められてきています。

折原:ソニーのサウンドバーのラインナップを見ると2万円台からあります。値段が手ごろな機種と比べ、HT-A7000では技術や音の再現性はどのくらい違うのでしょう。

ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品企画部 橋本琢磨

橋本:HT-A7000に新しく搭載した技術でいうと、壁からの音の反射を利用するビームツイーターで横方向へのワイドなサラウンドを実現したことや、バーチャルサラウンドで高さ方向を再現する「Vertical Surround Engine」、本体両上端部のイネーブルドスピーカーによる天井からの音の反射の二つによって上方向への広がりを楽しめるようにしたことです。平場も高さ方向も、いろいろな技術を組み合わせて高音質化を目指しているところが、低価格モデルとの大きな違いになります。

折原:ソニーのサウンドバーとして7万円程度で購入できる中価格の製品までは、「Vertical Surround Engine」のみのバーチャルサラウンドでドルビーアトモスを再現されていましたよね。

「HT-A7000」

根岸:はい。ソニーのドルビーアトモス対応サウンドバーでは、イネーブルドスピーカーやS-Force PROフロントサウンドを備えた製品はありますが、音の「包まれ感」は素晴らしい一方で、テレビの大画面化に合わせた広がり感を実現することが難しいという課題がありました。

 広がり感を出すにはどうすればよいのか?と試行錯誤を繰り返し、最終的にバーチャルサラウンド処理(S-Force PROフロントサラウンド+Vertical Surround Engine)と物理的な反射音を用いるイネーブルドスピーカーとビームトゥイーターを併用する方式を採用しました。これにより今までにない音の高さ感、広がり感を実現させています。

折原:テレビの画面サイズは、どのクラスを想定しているのでしょう。

橋本:65インチ以上を想定していますが、もちろんそれ以上のサイズでも、ぜひ使っていただきたいです。

折原:NetflixやAmazonプライムビデオで映画を見る人も多い状況ですが、これらのフォーマットへの対応はどうでしょうか。

ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品設計部 板垣鉄平

板垣鉄平(以下、板垣):eARC(Enhanced Audio Return Channel:HDMI端子を通してテレビからサウンドバーへ高品位デジタル音声信号を伝送する機能)端子付きのテレビであればドルビーアトモスフォーマットの再生が可能です。

根岸:一方で配信コンテンツの大半は5.1chや2chフォーマットの作品が多いです。それらのフォーマットであっても、ソニー独自のアルゴリズム、立体的で広がりのあるサウンドに変換する「Immersive Audio Enhancement(IAE)」という機能により、音の横と高さ方向を作ることが可能なので、広がり感、高さ感を十分楽しむことができると思います。

折原:HT-A7000の音場解析は映画館をモデルにされているんですよね。こだわったところなどがあれば。

ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品技術部 根岸賢幸

根岸:映画はサラウンドで聞かせるイメージがあるかもしれませんが、大半は台詞のシーンかと思います。そのため声がしっかりと聞こえることはかなり重要な部分と感じていました。音の広がり感、高さ感を目指したけれど、同じくらい声の聞き取りやすさはこだわっています。音調整に使ったコンテンツとして『鬼滅の刃』があります。主人公の竈門炭治郎の声がくっきり聞こえるように、かなりこだわってチューニングしました。

折原:映画好きの方は低音やサラウンドなどで臨場感にこだわる人も多いかと思いますが、セリフだけでなくそういった音の表現もしっかり出ていますね。

サブウーファー「SA-SW5」

板垣:低音を出すためにスピーカーの容積がすごく必要なのですが、家庭によっては大きな筐体を置くのは難しいというところもあり、より多くの家庭に置けるよう、この一本でも十分低音が楽しめるようにかなり工夫しました。より臨場感を楽しみたい方は、別売のサブウーハーやリアスピーカーをくみあわせて楽しんでいただけたらと思います。

――YouTubeをテレビに映して音楽を聴く人もいますが、この場合も効果はありますか。

根岸:ステレオ音源であればIAE機能をONすることでHT-A7000ならではの広がり感、高さ感を体感できます。特にライブ音源のようなコンテンツはおすすめです。

――音楽リスニングを目的に購入する人もいると思います。音楽リスナーに向けてはどんな機能や楽しみ方があるでしょうか。

根岸:IAE機能による音場の拡大に加えて、DSEE Extremeというアップスケーリング機能によって、MP3やCDなどの音源をハイレゾ相当の高音質で楽しむことが可能です。

橋本:Bluetooth接続もできますし、Chromecast、AppleのAirPlay AirPlay 2、Spotify Connectなどのストリーミング再生にも対応しています。Amazon Music HD等を通して「360 Reality Audio」のリスニングも可能です。

折原:HT-A7000の実力を体験できるエンタメコンテンツや楽しみ方があれば教えてください。

根岸:ドルビーアトモスのコンテンツがおすすめです。例えばNetflixで配信されているアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』はかなりドルビーアトモスの効果を活かした作り込みがされています。映画『ジュマンジ』は森の中での「包まれ感」や、鳥の声が遠くに聞こえているようなサラウンド感がわかりやすいのでお勧めです。

橋本:ソニーのサウンドバーとしては最高峰のものが出来上がったと思いますので、大画面と組み合わせていい音を楽しんでいただけるといいなと。オプションも用意しているので環境に応じて自由に組み合わせていただきたいです。

板垣:音調整で使用した『鬼滅の刃』はぜひお子さんと一緒にご家族で楽しんでいただけたらと思います。

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