『Ghost of Tsushima』はいかにして“日本の時代劇”として成立した? ローカライズ側はユーザーの共感を重視

『Ghost of Tsushima』はいかにして“時代劇”に?

ローカライズの軸を設定して生まれる統一感 神は細部に宿る

 そしてテキスト。ここは途中で触れた感性と分析、この2つを活かしたところになる。まずゲーム内で入手できるフレーバーテキスト(作品の雰囲気を表す文体や語感)。これは書き手の教養レベルに応じて、感情の量とか、日本語のたどたどしさを変化させてみた。

 左の書き手は農民なので、漢字はできるだけ少なくして、かつ文字を書き慣れていないだろうから片言にして不自然さを残している。史実に基づくのであれば全てひらがなにして、濁音もつけないのが正解。ここでも万人が楽しめるかどうかといったことを判断基準にして、そういった事実はあえて無視している。

 右の方は、書き手が僧侶。僧侶は当時の知識階級なので、漢字を多用して自然な日本語にしてみた。ここでも当時は存在しなかった1行目にあるカッコとか、カタカナとかを使ったりしているが、史実よりも時代劇っぽさを優先している。コトゥン・ハーンを漢字で書いた方が時代劇っぽさが増すと思った。とにかく初めに何を重視すべきかを決定しておくことで、考証的にNGであることも心置きなく目をつぶることができた。

 あとは防具の染めの名前だとか、一部原文を無視して全体の統一感を出すようにした。例えば旅人の装束。これは全て旅人の類語にして染めの名前を変えてみた。ここで出てるのが浮草ですとか流人。それ以外でも放浪者、渡来人、旅ガラスとかにして、全て旅人とかと同じ意味にしている。

 そのほかの例としてはミッション名が挙げられる。原文は我々から見たらシンプル過ぎたり、英語の慣用句を文字ったりしたものが多かったので、ミッションの内容とか、ミッションの中心となるキャラに焦点を当てて、日本語版の名前に変更してみた。

 例えば百合のミッション。これは一部原文を無視して全て頭に「在りし日の」といった言葉をつけている。百合のミッション自体、過去を振り返る切ないストーリー展開だった。できる限り余韻が残るような名前にしてみた。

 続いて石川先生のミッション名。これは全て「〇〇と〇〇」といった名前に変えている。これも理想と現実の合間で揺れる石川先生の心を表すようにした。こういったキャラクターとかストーリーの内容に合わせてタイトル名で遊ぶのは、マンガによくある手段。こうした細かいテキストも、あらかじめローカライズの軸を設定しておくことで、統一感が生まれて、ある程度以上の粒度でディテールを仕上げた方がプレイヤーが没入できるのではないか。

 最近のプレイヤーは細かいとこまで見てくれる人が多いので、凝れるところには凝った方がいいと思った。テキストで得た6つめの教訓は「“神は細部に宿る”を忘れない」ということになる。

 最後に坂井は「当たり前のことに感じるかもしれないが、まず何よりも大事なのは、開発側がどんなゴールを持っているのかを知ること。そしてそれを達成するために我々ローカライズ側は何をすべきか、その方法を考えて実現させること。この2つを守れば、きっと質の高いローカライズが生まれるのではないか」とセッションを終えた。

『Ghost of Tsushima』のローカライズができるまで
https://cedec.cesa.or.jp/2021/session/detail/s60862868072f8
CEDEC 2021
https://cedec.cesa.or.jp/2021/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる