『Ghost of Tsushima』はいかにして“日本の時代劇”として成立した? ローカライズ側はユーザーの共感を重視

『Ghost of Tsushima』はいかにして“時代劇”に?

武士と庶民のメンタリティー ユーザーの共感を重視して設定

 それでも時代劇らしさは出すべきなので、語り口のペースは万人に分かるように現代的にしながら、セリフに使われる言葉1つ1つは、できる限り中世から使われたものにしようと決めた。そうすれば耳で聞いて理解でき、時代劇っぽさを感じることもできる。

 その際に参考にしたのが辞書。小学館の日本国語大辞典は、その言葉が初めて文献に登場した年数が記されている。三省堂の現代語古語類語辞典は、現代語と古語の類語が記されている。セリフを作る上で設定したルールは、あくまで時代劇っぽさの重視。言葉の初出はできる限り中世にしつつ、理解できるかどうかを優先して、どうしようもない時は明治以降の言葉も使用している。

 あらかたのルールを設定したものの、全てのキャラクターにルールを適用したわけではない。本作のキャラクターは大きく分けて、武士チームと庶民チームに分けられるが、このルールを強めに設定したのは左の武士チームだけである。右の庶民チームは近代の言葉も含めて、あえて現代っぽさも出している。

 何故そうしたのかと言うと、武士と庶民の立ち位置の違い。武士は面目や名誉といったものにこだわりが強く描写されていて、今の人からすると異質に映るだろう。なので今のユーザーには、あまり共感してもらえないであろう武士チームには、あえて古めの言葉を使わせて、理解できない存在というところを強調した。

 一方で庶民チームは、メンタリティーが現代の人に近いものにしていて、ユーザーは武士と比べて共感しやすいと思う。そのため話し方とか、語尾、言葉のチョイス、それらはそこまで縛らずに現代に近いものにした。そうした方がキャラの心情がユーザーにまっすぐ届くと思った。

 話を戻すと、ユーザーが共感できるか、理解できるかを考慮してキャラクターをチームに分けて、使用する言葉にルールを設けて会話の翻訳を進めていった。

 このようにして言葉のチャレンジを解決していった中で得られた4つめの教訓は、何でもOKではなく、ユーザーの共感を重視してルールを設けるということである。

王道のカッコよさより人間的な泥くささ キャラクターの心境

 一番頭を抱えたのが芝居。多くのローカライズ作品のように、洋画っぽくはできない。なので初めから全てを決めていたわけではなくて、オーディションとか、実際の収録を通して、みんなで相談しながら少しづつ方向性を決めていった。

 役者の選出は、本作のテーマ「泥・血・鋼」と一致しているか、王道のカッコよさではなくて人間的な泥くささがあるか。これらを指針にすると決めた。どちらか迷った時はあえて王道じゃない方を選んでいったが、実際にどういう芝居をしてもらうかという問題が出た。

 英語版はかなり演技を抑えた芝居だった。それに則しても良かったが、やはりそのままをなぞってしまうと、日本人がイメージする時代劇もエンタメも失われてしまうのではと思い、ローカライズの方針の感情ファーストを押し出して行こうと決めた。

 そのため洋ゲーの日本語版ではなくて、日本オリジナルの日本版にしようと意識することにした。ただ収録の時、我々が求める感情表現と、ゲームの感情表現が一致するわけではなく、実際に演技してくれた役者たちはとても大変だったと思う。

 役者はストーリーの概要は知っていても、細かいところまでは台本を渡されるまで分からない。そこで役者のイメージするキャラクターと、我々の求めるキャラクターに齟齬が出ないように、このキャラクターは今こういう心境で、こういうことをしようとしているといった話をして、収録する前に音響監督や役者と認識合わせをしていた。

 我々と役者のお互いのイメージが重なれば、収録もスムーズに進み、何よりも自分が思ってもみなかったキャラクターの一面を知ることができた。これはローカライズの質を上げる材料になった。

 英語版の政子は悲しみの感情がメインになっているが、日本語版は強さと怒りをメインに演じてもらった。その理由としては、矛盾しているように聞こえるかもしれないが、政子の本当の感情が優しさと悲しみだと思ったからである。基本的に怒っておいてもらえば、それだけ政子がふとした時に見せる優しさや悲しみが、より効果的に届くと思った。

 だから翻訳する時も、原文よりも怒りを1.5倍増しにしたセリフにしたり、仁が決して言わないような「クズ」とか「虫けら」とか、そういった汚い言葉もあえて言わせたりした。こういった感情のギャップは他のメインキャラにも適用したりしている。

 話を戻すと、やはりここでもサッカーパンチの意向を優先すること。それでも開発側の目標を達成できるなら、大胆なプラン変更はありなのではないかという5つめの教訓を得た。



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