ゲームはいかにスケートボード文化を根付かせたか 『トニー・ホーク』シリーズが小中学生に提示したスケートボードの精神と文化

『トニー・ホーク』が根付かせたスケート文化

 日本とアメリカにおけるスケートボード文化に対するリテラシーの差。

 もちろんスケートボードはカリフォルニア州のヴェニスで1970年代に生まれた文化であり、アメリカではストリート・カルチャーとして根付いているため、そもそも日本とアメリカを比べるのは酷であるが、スケートボードという「カルチャー」に対する認識の差は今でも非常に大きい。しかし、オリンピックで日本が男女共にストリート、さらには女子パークで金メダルを取ったことにより、日本でも今後スケートボードに対する認識が変わってくるだろう。

 幼少期に南カリフォルニアでスケートボードを始めた者として、確かに感じていることがある。それは、アメリカにおける私の世代(20代後半〜30代前半)のスケートボードに対するリテラシーが特に高いということだ。もちろん元スケーターが多いというのもあるが、私が生活をしていた南カリフォルニアでは、小中学生時代にスケートブランドを着たり、スケートシューズを履いたりするのが、当たり前のこととして根付いていた。もちろんスケートショップがいたるところに存在しているという理由もあると思うが、小中学生にスケートボード文化を広めた大きな要因として、『Tony Hawk’s(トニー・ホーク)』という大人気ゲームシリーズの存在は無視できないだろう。この記事では、いかに『トニー・ホーク』のゲームが一つの世代の文化を構成したかについて語りたい。

 『トニー・ホーク』は、伝説のプロスケーター、Tony Hawk (トニー・ホーク)を題材にした人気ゲームシリーズである。スピンオフなどを含めると、シリーズで通算19ものゲームがリリースされており、累計で1500億円以上のセールスを記録している。最初の2作である『Tony Hawk’s Pro Skater 1+2』は2020年に発売20周年を迎え、リマスター版も話題になった。

 1983年から2003年にかけて、64回も大会で優勝してきたトニー・ホークであるが、彼はこのゲームシリーズについて、「アティテュード、音楽、そして実際のスケートボーディング…このゲームでは、スケートボード文化のリアルを表すことができた。一つの世代に本当のスケートボードがどのようなものなのかを教えることができたと思う」と語っている。そんなシリーズのなかで、最も大きな影響を与えた作品が5作目の『Tony Hawk’s Underground』であろう。

 日本では『トニー・ホークス アンダーグラウンド』と題されたこちらの作品。2003年にPS2、ゲームキューブ、Xboxなどのプラットフォームで発売されたゲームであるが、それまでのシリーズとは全く違う要素を盛り込んだゲームであった。『アンダーグラウンド』は、「個の象徴」をコンセプトに制作され、今までにはなかったカスタマイズ性、さらにはシリーズ初のストーリーモードが登場したのだ。プレイヤーが髪型からスケートシューズまでカスタマイズしたキャラで、オリジナルのストーリーを進めていく。

 ストーリーも上手くできており、スケートボードの文化と精神を表現したものになっている。スケートボードの世界でいつか活躍することを夢見る主人公。舞台は主人公の地元ニュージャージーから始まり、実在するプロたちにスキルを見せつけたり、大会に出たりしながらプロを目指すというストーリーであるが、時には世界中の街に実在するストリートスポットでヤバいトリックを撮影するために奮闘する。警察や警備員から逃げつつ、実際のスケートボードのように、「スケートするためではない場所で、いかにヤバいトリックを創造するか」という「アート性」を味わうことができる。

 しかし主人公は、一緒にのし上がっていくことを約束したホーミー、エリック・スパロウの裏切りと妨害によって、スケートボードの精神性における重要な点に気がつくのだ。主人公は、名声やお金など...「セレブ」になるためにスケートボードをするのではなく、仲間たちと楽しく、ストリートで「創造」をするというスケートボードの精神性を取り戻し、その文化を世に出したいという結論に至る。最終的には賛同するプロたちを集め、その精神性を表現したビデオを出し、自分を蹴落として「セレブ」になったエリックともバトルをするというエンディングになっている。ストーリーでは、どのブランドのプロになるかを選べたり、自身のモデルのボードをデザインできたりする。このようなゲーム内イベントによって、スケートボードのブランド名や、ブランドのイメージを知ることができるのだ。

 さらにサウンドトラックが非常に高評価なのも、『トニー・ホーク』シリーズの人気な理由である。『アンダーグラウンド』では、オープニング曲にヒップホップグループJurassic 5の“A Day At the Races”が使用されており、こちらは実在する人気プロスケーターたちの映像とゲーム内の映像が融合した名オープニング映像となっている。

Tony Hawk's Underground

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