連載:ゴールデンボンバー歌広場淳の「続・格ゲーマーは死ななきゃ安い」
歌広場淳が語る、おじリーグで見えた“新たな景色”「偏見を退け、人間性というものを直視させてくれた」
大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー·歌広場淳による連載「続・格ゲーマーは死ななきゃ安い」。今回は、“格ゲーおじさん”たちが死闘を繰り広げる「おじリーグ」に二度目の参戦を果たし、大活躍を見せた歌広場に、当日を振り返ってもらった。ギリギリの“生還”となった前回と比較して、今回はどんな違いがあったのか。そして、“おじさんたちの戦い”になぜ視聴者は感動し、あまつさえ涙を流す人まで現れたのか、歌広場淳が語り尽くした。(編集部)
「負けたときにどれだけ悔しがれるかを自分で選べる」
7月16日、オンラインで配信された格闘ゲーム大会「おじリーグ」に二度目の参戦を果たしました。「おじリーグ」はプロゲーマーではなく、「eスポーツ」という言葉もなかった時代から格ゲーを愛し、いまは主に裏方としてシーンを支えている“おじさんプレイヤー”によるガチの戦いで、勝者に栄誉はなく、最下位になると死ぬほど煽られ、リベンジの機会もしばらく奪われてしまうという、ゆるいネーミングとはかけ離れた死闘が展開されてきました。
僕は昨年11月に開催された第3回目に初参戦し、なんとか最下位を免れ“生還”したときから、「この大会が続く限り、ずっと出るぞ」と決めていました。二回目の緊急事態宣言もあり、コロナ禍のなか、オフラインの大会を開くことには難しい判断もあったと思いますが、カプコンさん公認のなかで開催する運びになったということで、「よし、頑張るぞ」という気持ちになっていました。今回のおじリーグは、実はもともとの開催日程から1カ月ほど延期になっており、そこでさらに覚悟を決めたようなところがあります。
思い返せば僕は前回、生き残りはしましたが、2勝6敗という結果で、本来なら悔しがるべきところがホッとしてしまっていたところがあって。しかし冷静に考えたら、生還だけすればいいのかというと、格闘ゲーマーとしてそんなマインドじゃダメだろうと改めて思わずにはいられませんでした。そんななか、前回大会当日、現地で観戦していたプロゲーマー・板橋ザンギエフ選手に「生き残ってよかったね。でも大事なのって、次に(ゲームを)いつ起動するかじゃない?」と言われ、僕は深夜に帰宅して、その場でゲームを起動し、ランクマッチを始めました。その意味で、前回大会終了後に、誰よりも早く準備を始めており、いわばテスト前に急に勉強を始めるのではなく、今回は「普段からやっていることを出せばいい」という感覚で臨むことができた。だからあまり気負いはなかったのですが、延期が決まったときに、「この期間をどう過ごすかが重要だ」ということにふと気づいたんです。
この開催前の1カ月、他のプレイヤーは死ぬ気で詰めてくることは予想がついていましたが、僕はゴールデンボンバーの全国ツアーもあり、時間を取ることが難しくなる。それを言い訳にできたかもしれませんが、ここで大事なのは、「当日、負けたときにどれだけ悔しがれるかを自分で選べる」ということでした。「後悔しないように頑張ろう」とみんな口にはしますが、やれる限界まで自分を追い込むわけではなく、その手前で止めることが多い。しかし自分で選べるんだったら、僕は少しでも強く後悔したいと思ったんです。わかりにくいかもしれませんが、前回生き残って安心してしまった自分に対して、今回は負けたことを後悔できる取り組みにしたい。そう考えて必死で練習した分、大会をより楽しむことができました。
勝ち筋が見えた瞬間、同時に背後に死神がいる
いくつか試合を振り返ると、おじリーグには、前回覇者とニューカマーの試合で開幕する「始球式」という伝統があり、今回は前回覇者のにゃん師さんと、初参戦となる総師範KSKさんが戦うことに。二人の間にあるストーリーは置いておくとして、ここでKSKさんが勝利するという番狂わせがあり、会場のボルテージが一気に上がって、騒然となったんです。気持ちの準備もできないなかで、僕の初戦の相手は、前回同じく初戦で負けているeスポーツキャスターのアールさんでした。しかし、結果的にはセットカウント2-1で勝つことができました。
変な話ですが、これは僕が「負けないな」と思えていたことが大きく、その大きな理由は、アールさんが試合前に選択した特殊技の「Vトリガー」が「迦楼羅天斬」という技だったからです。要所要所で食らいはしましたが、僕にとっては対処しやすい技で、プレッシャーは感じなかった。また、2セット先取のルールで、最初の1セットを取った後、1セットを取り返されてしまいましたが、ここで自分にミスが出たのも大きかったと思います。自分が得意だと認識している「しゃがみ中キックのヒット確認」をミスして負けており、前回であればそこで気持ちを持っていかれてズルズルと負けてしまったかもしれませんが、今回は、致命的な場面でのミスではなく、この後修正できることがアドバンテージになると思えた。それは、僕自身の基礎力が上がっていて、「普通にやれば勝てる」と思えていたからに他なりません。準備はできていたとはいえ、初戦の前はやはり不安があったのですが、「今日は行けるかもしれない」と思えました。
また印象的だったのは、この連載でも対談させてもらった、世界的ベーシストで作曲家の川村竜さん=ミートたけしさんとの一戦です。自分が生き残ることは大前提として、今回の大会でもし僕に誰かひとり生き残らせる権限があるとしたら、ご本人には無礼を承知でミートさんを生き残らせたい……それくらいミートさんには生き残っていてほしいという気持ちがありました。なぜなら、僕とミートさんの関係性には掘り下げればまだまだ面白くなる要素があり、お互いに他の“おじ”たちにはない、タレント性があり、大会が予想外の方向に盛り上がる気がするから。それで、失礼だったかもしれませんが、前回から書き溜めていた対策メモを早い段階でお渡ししていたんです。今回は、前大会でともに“臨死体験”をしたeスポーツフォトグラファーの大須晶さんとも手を組んで臨んだような感覚がありますし、「おじリーグはみんなで作るものなんだ」という新しい気持ちが生まれていました。
しかし、僕が一番緊張したのは、そのミートさんとの一戦でした。当日もコメントしたように、実際にベースを弾いている人に、エアベーシストがゲームで負けるわけにはいかない。そんななかで、僕は最初の1セット、2セット目の1ラウンドまで落としてしまい、つまりストレートでリーチをかけられてしまった。格闘ゲームは攻めたほうが楽なのですが、ミートさんはどっしりと構えて戦っていて、自分を信じたプレイをしており、『ストV』から格ゲーを始めてここまでくるというのはスゴいと素直に思いました。結果的には、逆転して勝利することができ、僕にとって今回のベストバウトになったと思います。頭になかった「ダブルキック」というリスキーな技を頻発され、死ぬほどやりづらかったですが(笑)。
もうひとつ、印象に残っているのは、僕が負けてしまったKSKさんとの一戦です。こんなことが起こるのか、と思ったのが、僕がプレイするケンの特殊技である「ヒートラッシュ」というVトリガーで強化された状態が解除されるギリギリでコンボがスタートし、倒しきれるか微妙な判断を迫られたこと。練習中は一度もなかったことで、これが大会の面白さでもあると思います。僕はコンボを完走できると思って勝ちに行ったのですが、最後の最後にゲージが切れ、倒しきれずに反撃を受けて負けてしまった。普段の僕だったら、「当たれば勝てるが外れると負ける」という状況では無理に勝ちに行かなかったと思いますし、「勝ち急いでしまった」という反省がありました。勝ち筋が見えた瞬間、同時に背後に死神がいるのが、ストVの恐ろしいところです。そのことを認識できていたら優勝できていたと思うし、やはりまだ大会に呑まれた部分もあったということだろうと。
だからこそ、7勝2敗で同率1位に並んだおじリーグ主宰・こくじんさんとの優勝決定戦では、のびのびとプレイすることができました。勝てれば“器だった”ということだし、負ければ“器じゃなかった”ということだと開き直り、1セット先取だということも踏まえて、無責任かもしれませんが、自分が好きなプレイをしました。撃たなくてもいい昇竜拳を気持ちで撃ちに行き、結果として負けてしまいましたが、前回のように実力で圧倒されたのではなく、敗因も明確だったので、「優勝は次すればいい」と思えました。
結果として、前回は2勝6敗で生き残ったことに安堵していたところから、今回は7勝2敗の2位で悔しい思いをすることになり、狙い通りの取り組みができたと思います。
大会を総括すると、第4回目ということもあり、起承転結の「結」に当たる大会だったと思います。これまでは、おじリーグを説明するときに「昔のゲーセンのような煽り合いが面白い」と言ってきましたが、今回、KSKさんが最下位決定戦で敗れたとき、みんなが煽りまくっていたかというと、決してそうではなかった。僕はあらためてここまでのおじリーグを振り返ったときに、3つのキーワードがあったと思っています。