連載:クリス・ブロードの「ガイドブックに載ってない日本」(第8回)
YouTuberを目指す人に伝えたい「ファンとの付き合い方」 登録者200万人越え、外国人YouTuberの僕が教えられること
YouTuberからフィルムメーカーに
私はずっとYouTuberでいたいわけではありません。登録者が100万人を超えた時点で、自分の中では十分に満足しており、チャンネルの規模をさらに大きくしたい、という思いはありません。
だから、より面白いコンテンツを作ることはもちろんですが、今は活動をルーティン化させず、新しいことに挑戦しながら自分の中での時間の流れを遅くしたいと考えています。過去2年間、外で撮影し、家に戻ってきて編集して、出来上がったものをYouTubeに投稿する、という作業を繰り返してきました。撮影で経験することは常に新しいことですが、作業としてはルーティンになり、そうすると時間の経過がとても早く感じるんです。「Journey Across Japan」の企画で2000kmの自転車の旅をしながら28本の動画を作って以来、私は自分自身を追い込んでいない、と思うことがあります。
今後の予定としては、YouTubeとは別にショートフィルムを作っていこうと思っています。そのために、SONYの最新カメラで8K動画対応の「α1」を購入。最終的には100万円超えのフィルム用カメラを手に入れたいのですが、まずは8Kカメラです。
そして、作ったショートフィルムはコンペティションに出す予定です。普段は次々と機材を買うようなことはしません。現在使っているカメラも2017年に購入したものですし、登録者数が多いからといって最高の機材を持っていなければいけないということもないと思っています。今回、大枚叩いて最高の機材を揃えるのは、フィルムのためです。フィルム制作は今までとは違う冒険になりそうです。
とはいえ、Netflix用のドキュメンタリーやフィルムコンペティション用のショートに挑戦するのは、そんなに難しいことではないと考えています。これまでにも、自分のステップアップのためにドローンの飛ばし方やグリーンスクリーンの使い方などを学んできました。今だって、フィクション作りに挑むために、作業の隙間をぬってシネマトグラファー(撮影監督)とライティング(脚本)の勉強をしています。
手始めに、完成したショートフィルムをYouTubeチャンネルでテスト配信するかもしれません。将来的には映画業界に入っていくことも考えています。いつの日か、ハリウッドの大物スターが私の動画に登場するかもしれません(笑)。
フィルムを撮るなら
まだ具体的な構想はありませんが、ショートフィルムならドキュメンタリーではなく、フィクションを撮れたらと思っています。
日本に関するドキュメンタリーは既にたくさんありますが、リサーチ不足を感じる内容が多い印象です。イギリスでも、渋谷のスクランブル交差点から始まる日本のドキュメンタリーが何度も放送されました。しかし、そのほとんどが「日本がどれほどぶっ飛んでいてヘンテコな国なのか」という、ステレオタイプでデフォルメされた内容ばかりなんです。
また、視聴者の関心をひく狙いなのか、衝撃的でネガティブな内容もありますね。例えば、Netflixのオリジナルコンテンツである『Dark Tourist(世界の現実旅行)』では、福島が死の町のように紹介されていました。その歴史や人、土地に対する敬意が払われていない。ガイガーカウンターの数値と警告音に恐れ慄く観光客が、インスタグラムの写真を撮るだけの深みのないものでした。そこに住んでいる人たちに焦点を当てることもないなんて、失礼だと怒りを感じます。
私は福島に実際に行きましたが、ガイガーカウンターは警告音を鳴らしても数値としては非常に低く、危険性は感じませんでした。真実を伝えていないし、偏った見方で福島の印象を悪くしていると思います。
私なら、視聴率重視といってもコンテンツの扱いには細心の注意を払います。それに、プロパガンダになりうるコンテンツも、想像力を欠いてしまうので作りません。
もっとも、Netflixには優れた作品も多く、犯罪をテーマにしたドキュメンタリーは名作揃いです。『Unsolved Mystery(未解決ミステリー)』や、脳震盪がきっかけで犯罪者になってしまった元NFLのプレイヤーであるアーロン・ヘルナンデスを描いた『Killer Inside(内なる殺人者:アーロン・ヘルナンデスの素顔)』は素晴らしかった。コロナ禍の代表的なコンテンツとなった『タイガーキング 』は、娯楽性に重きを置いたからかリアルを伝えていたとは思いませんでしたが。