「ファスト映画」の捉え方は国によってどう違う? 国際比較でみえてきた、日本と中国の「タイパ至上主義」な若者たち

 6月23日、「ファスト映画」を制作・投稿した男女3人が逮捕された。ファスト映画が制作されるようになった背景には、「タイパ至上主義」の台頭が指摘されている。ファスト映画をめぐる国内外の動向を調べると、国によってタイパ至上主義のとらえ方に温度差があることがわかった。

ファスト映画はまだ黎明期

 ファスト映画制作者逮捕をうけて、調査会社の日本トレンドリサーチは7月1日、ファスト映画に関する意識調査の結果を発表した。男女2,000人を対象として行われた調査では、ファスト映画の視聴経験にまつわる4つの質問に対する回答が集計された。

 まず、「ファスト映画を視聴したことがありますか?」という質問に対しては「ある」と答えたのが9.3%、「ない」と答えたのが90.7%となり、ファスト映画がまだ広く視聴されていないことがわかった(下のグラフ参照)。

 続いて、ファスト映画視聴経験者に対して「ファスト映画を違法動画と認識したうえで視聴しましたか?」という質問に対して、「違法と認識したうえで視聴した」が15.6%、「違法とは認識せず視聴した」が84.4%という回答が得られ、ファスト映画の視聴自体には違法性がないという認識が多数を占めていることがわかった(下のグラフ参照)。

  さらに違法動画全般に関して、「違法動画を違法と認識したうえで視聴したことがありますか?」という質問には、「ある」が8.2%、「ない」が91.8%となり、違法動画の視聴自体は違法ではないという認識が広がっていることが確認できた。

 最後に「違法動画だと認識していながらも視聴した理由」について自由回答してもらったところ、「視聴のみなら法に触れないから。法に触れずにただで観れるのなら素直に観るでしょう。(50代・男性)」や「観るだけならいいかなと思ってしまったから。(40代・女性)」という内容の回答が多数得られ、前述の3つの質問に対する回答と整合性が見られた。

 以上の調査より、今回のファスト映画制作者逮捕の報道によりファスト映画の知名度が上がった結果、このジャンルの映画がさらに制作された場合、違法という意識を伴わないファスト映画視聴者が増える可能性がある。

若年層で広がる「タイパ至上主義」

 ファスト映画制作の背景として指摘されているのが、近年台頭してきた「タイパ至上主義」である。この言葉は動画サブスクサービスの普及により視聴できる動画が急増したために生まれた、動画を効率よく視聴する「タイムパフォーマンス」を重視する姿勢を指す。この主義において典型的に見られる視聴行動は動画を早送りで見る「倍速視聴」であり、2時間程度の映画を10分にまとめるファスト映画は効率よく映画を視聴したいニーズに応えるべく誕生したものと言える。

 倍速視聴に関しては、調査会社のクロス・マーケティングが3月10日に調査結果を公表している。全国20歳~69歳の男女を対象にしたその調査によれば、調査対象者の約3割が倍速視聴の経験があり、年齢層が若いほど倍速視聴経験の割合が高くなることがわかった。また、女性より男性の方が倍速視聴経験の割合が高く、20代男性にいたっては54.5%と半数以上が倍速視聴の経験があった(下の図を参照)。

 倍速視聴したい動画コンテンツのジャンルを尋ねたところ、「ドラマ」が35.7%、ついで「ニュース・報道」の28.3%、「バラエティ」の25.9%と続く。この結果から、ドラマを最新話あるいは最終話まで視聴するいわゆる「一気見(いっきみ)」の際に倍速視聴しているのではないか、と推測できる。

 倍速視聴に関する調査と前述のファスト映画の調査を合わせると、タイムパフォーマンスを重視する若年層に違法という意識を伴わないファスト映画の視聴が広がるのではないか、と予想できる。

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