「ファスト映画」の捉え方は国によってどう違う? 国際比較でみえてきた、日本と中国の「タイパ至上主義」な若者たち

「ファスト映画」に関する各国の捉え方

北米におけるファスト映画報道と倍速視聴文化

 ファスト映画制作者逮捕は、北米でも報じられた。著作権に関するニュースを発信しているメディア『TorrentFreak』が6月23日に報じた記事では、ファスト映画を「いわゆる『ファスト映画』(so-called 'fast movies')」と表現したうえで、その概要を説明している。こうした報道から「ファスト映画」とは英語では一般的な言い方ではない和製英語であること、またファスト映画に相当する英語動画コンテンツの知名度があまり高くないことがうかがえる。
 ファスト映画について論じた英字版朝日新聞『The Asahi Shimbun』の7月1日付のコラム記事でも、ファスト映画の存在を知って驚いたと述べている。そして、映画を要約する行為自体に疑問を呈している。こうした報道から、少なくとも北米ではファスト映画が流行しているわけではなさそうと推測できる。

 倍速視聴に関しては、「Speed Watching」という表現が存在している。こうした表現は、日本より動画サブスクサービスの普及が早かった北米では2010年代後半には確認できる。例えば、コンテンツ制作者を支援するカナダ企業CANADA MEDIA FUNDは2017年3月15日、Speed Watchに関する調査記事を発表している。この記事では視聴可能な動画コンテンツの急増によってSpeed Watchingが台頭したことを確認したうえで、Amazon社員でカルチャー系Podcast『Culturally Relevant』を運営しているDavid Chen氏が行ったSpeed Watchingに関するアンケート調査結果を引用している(以下のツイート参照)。


 1,505件の回答が集まったChen氏のアンケートでは、「憎悪すべきもの(abomination)」とものなのでSpeed Watchingの経験がないという回答が78.5%ともっとも多く、テレビ番組と映画をSpeed Watchした経験があるのは1.8%であった。

 英語圏最大の掲示板「Reddit」にもSpeed Watchingに関するスレッドがある。そのなかでも比較的最近の6ヶ月前に立てられたスレッドでは、Netflixの再生速度オプションの是非が話題になっている。結論としては88%がNetflixの速度再生オプションに賛成なのだが、書き込まれた内容を読んでいくとタイパ至上主義が多数派を占めているとは言い切れないことがわかる。

 NetflixのSpeed Watchingに賛成の理由として、「動画のつまらない箇所を早送りしたいから」というタイパ至上主義的な意見がある一方で、視聴済みの動画を見る場合に限ってSpeed Watchする、あるいは外国語の勉強のためにあえて遅く再生している、といった目的を限定して再生速度を変えているという意見が目立つ。こうした論調から、未視聴動画に対するSpeed Watchingには多少の抵抗感があるかも知れないことがうかがえる。

 以上の言説をまとめると、北米でも倍速視聴に相当するSpeed Watchingは認知されているものも、未視聴動画を倍速視聴することには多少の抵抗感があるため、ファスト映画の流行には至っていなかった、と言えそうだ。もっとも、ファスト映画の報道をうけて、今後は北米でも同種のものが制作される可能性は大いにある。

中国では人気ジャンル

 北米とは対照的に、中国ではファスト映画的なコンテンツが人気となっている。中国の場合、「○○(という映画タイトル)を△分間で見る」というタイトルで言わば中国語版ファスト映画が制作・投稿されている。中国語メディア『Southcn.com』は4月30日、こうした中国語版ファスト映画に関する特集記事を公開した。

 Southcn.comの記事によると、中国ではショートムービーの視聴者がインターネット利用者の88.3%を占めており、ショートムービーのなかでも中国語版ファスト映画が人気を博している。その内容は日本のものと類似しており、2時間程度の映画をネタバレを含めて数分にまとめるというもの。視聴の動機も2時間の視聴時間に値するかどうかを確認するために見る、というタイパ至上主義的なものが代表的だ。

 しかし、中国語版ファスト映画の視聴動機のなかにはタイパ至上主義には留まらないものもある。ファスト映画の解説が好きになって制作者のファンになった結果、ファスト動画を見るようになったり、映画を深く読み解く考察動画として見るようになったりした視聴者もいるのだ。

 以上のように、中国ではファスト映画的コンテンツのクリエイティブな側面を評価する傾向があるものも、このジャンルには著作権侵害という負の側面が払拭できない。それゆえ、中国国営メディアの新華社通信が4月29日に報じたところによると、同国の映像コンテンツを管理する省庁である国家電影局が中国語版ファスト映画の取り締まりを強化することを発表した。取り締まり強化によって中国語版ファスト映画は撲滅されるか、あるいは今後も流通し続けるかは予断を許さないところであろう。

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