AppleとSpotifyのPodcast対決……海外メディアはどう見ている?

 AppleとSpotifyが、1週間の間にどちらも「Podcastの有料サブスクリプションサービスを開始する」と発表し、話題になっている。近年、Spotifyが大手Podcast企業・Anchorを買収したりAppleがポッドキャストアプリの「Scout FM」を買収したりなど、それぞれ準備を着々と進めている様子が報道されてきたが、とうとう運用開始に至ったようである。大手企業の積極的なPodcast戦略を、海外メディアはどのように見ているのだろうか。

 MashableのライターMatt Binderは、Apple Podcastの発表があった次の日に「Appleの新しいPodcastサブスクリプションはひとつ重要なことを見落としている」と題した記事をMashableに公開した。彼が指摘したのは、「Apple自身は、どの番組にどんなリスナーいるかという情報を所持しているにも関わらず、それをポッドキャスター(Podcastクリエイターのこと)に提供するつもりがない」という点だ。自分の番組のリスナーに関するメールアドレスなどの情報をポッドキャスターが知る手段がないため、誰が、どんな人が自分の番組を聴いているかをポッドキャスターが分析する手段がないのだという。

 また彼は、Podcast番組が成功するかどうかは、“ポッドキャスターとリスナー間の関係性を担保できるかにかかっている”と指摘する。リスナーに対してポッドキャスターがさまざまなアプローチする手段を持ち合わせることが、長く愛される番組を作っていく上で重要なのだという。昨今、欧米のマーケティング業界においては、「持続可能なファンダムの構築」のためには“ファンや自分に興味がある人のメールアドレスを入手し、ダイレクトな宣伝・呼びかけを継続的に行うこと”が重要だと謳われている。ミュージシャンとして長期的なキャリアを構築する方法が記されて話題になった業界書『How to Build a Sustainable Music Career and Collect All Revenue Streams(持続的な音楽キャリアを築き、収益をすべて収集する方法)』においても、著者のEmily Whiteは“いかにして大勢のファンのメールアドレスを獲得するか”について、熱心に説明している。

 日本では、メールを介するよりはファンクラブやSNSでの交流などが主流のようだが、若い世代でなく30代、40代のサラリーマンをターゲットにした番組をするなら、メールでの告知も効果は大きいかもしれない。いずれにしろ、“ポッドキャスターがリスナーの反応を分析できるシステムがいかに充実しているか”は、やはりPodcastプラットフォームの勝敗を分ける鍵になりそうだ。

 一方Spotifyは、アーティストによる楽曲配信と同様、自分のPodcastを聴取しているリスナーは誰か、どのエピソードが一番聞かれているか、さらには、リスナーが好きな音楽の傾向といった情報までポッドキャスターに提供している(参考:Spotify for Podcasters)。この点においては、ポッドキャスターにとってはSpotifyの方が使い勝手が良いといえるだろう。

 さらに、THE VERGEに4月22日に掲載されたコラム「AppleはPodcastに課金させることができるか?」では、Appleがポッドキャスターに求める報酬が高額すぎる点にも指摘している。コラムによると、ポッドキャスターが番組をApple Podcastのサブスクリプションとして配信するには、年間19.99ドルの定額料金を支払う必要があり、さらに初年度の収入から30%、次年度以降は15%をAppleに支払わなければならないのだという。さらに、Apple Podcastが、世界ではほとんど利用されていない「iOSデバイス」にしか対応していないことも問題だとしている(日本ではiOSが主流であるため大きな問題ではないが)。その点Spotifyなら、ポッドキャスターは最初の2年間、サービスを無料で利用することができ、またリスナーから得た収益を100%受け取れる(決済手数料は除く)。2023年以降は5%の手数料を導入する予定だとしている。

 とはいえ、AppleがPodcastへの課金を主流にする可能性は十分あり、現時点ではポッドキャスターに厳しい条件が与えられているものの、それが功を奏すかもしれない、とも予想している。Apple Podcastでは、番組の月額はポッドキャスターが設定できるほか、無料の試用版やサンプルエピソードも提供できるという。さらに、Apple Podcastのサブスクリプションがユーザーに対して、一定期間の無料体験期間を設けることも、プラスに動くだろうと分析している。既にApple Podcastは一番ユーザー数の多いPodcastプラットフォームであるため、過去音源も豊富なのはユーザーにとっても魅力になるだろう。

 Apple Podcastは、5月から170を超える国と地域で利用が可能になっているが、SpotifyのPodcast有料サブスクリプションは現時点でアメリカ合衆国での提供のみを行なっている。今後数ヶ月で、対応地域を拡大していくとのことだ。さらに今月は、日本土着の音楽ストリーミングサービスであるAWAも、音声配信プラットフォーム「Radiotalk」との連帯を発表した。「Radiotalk」は既にSpotifyやAppleへの配信を行なっているが、自作曲や許諾を得た楽曲が含まれたトークのみが、審査を経た上でAWAへの配信できるという仕組みで、AWAでの1再生につき、「Radiotalk」の0.1ポイント(予定)の報酬が付与されるという。ポイントは現金やAmazonギフト券に交換できる。このように日本でも、複数の大手サービスが着実にPodcast戦略を展開していることが実感できる。

 NATIONAL POSTの記事によると、わずか3年でPodcastの番組数は4倍に増加、アメリカ合衆国だけでも月間聴取者数は前年比で16%増加し、ピーク時には1億5000万人ものリスナーがいたという。今後の成長が見込まれるPodcast産業が日本市場でどれほどユーザーを獲得できるかについても、リスナーとポッドキャスターの相互関係に掛かっているのかもしれない。

(画像はPixabayより)

・Apple's new paid podcast subscription service is missing one crucial thing
https://mashable.com/article/apple-paid-podcast-subscription-creators/?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter
・Can Apple get you to pay for Podcasts?
https://www.theverge.com/2021/4/22/22396042/apple-podcast-subscriptions-launch-price
・Apple and Spotify have recently added podcast subscription tools to their list of products
https://nationalpost.com/personal-finance/business-essentials/apple-and-spotify-have-recently-added-podcast-subscription-tools-to-their-list-of-products?utm_term=Autofeed&utm_medium=Social&utm_source=Twitter#Echobox=1620650324

関連記事