都市伝説、よく見ると怖い写真、連続殺人鬼… 解説系YouTubeチャンネル「あるごめとりい」とは?

解説系YouTube「あるごめとりい」

「若者のテレビ離れ」という言葉がささやかれていますが、同時に「ネットのテレビ化」現象が起こっています。

 ネットが生まれた90年代は、テレビでは見られない情報が手に入れる、いわばアンダーグラウンドのような存在がネットでした。しかし、昨今ではネットがメインの情報収集場所となり、テレビと同等の倫理観や価値観が求められるように。

 しかしながら、テレビよりも自由度が高いために、テレビとネットのいいとこ取りのハイブリッドのような存在も登場しました。

 今日は、そんな秀逸ハイブリッドの代表格とも言えるYouTubeチャンネル『あるごめとりい』のお話です。

知的好奇心を満たす『あるごめとりい』

 『あるごめとりい』は、「都市伝説」や「よく見ると怖い写真」、「連続殺人鬼」などをネタにする解説系YouTubeチャンネルです。

 2019年4月にローンチし、若干1年で登録者数24万人を突破。2年で56万人に達した超人気番組です。

 古今東西のさまざまな事件や出来事を徹底的に調査し、海外の映像素材を使って聴覚的、視覚的にわかりやすく解説しているだけでなく、テンポよくプロ顔負けの編集技術と、司会進行のふたりのキャラクターが視聴者に支持される理由となっています。

 番組を進行するのは、けんちゃんこと西江健司さんと、闇病み子こと斉藤正直さんのふたり。

 けんちゃんがナレーションとボケ、闇病み子が視聴者の気持ちを代弁しつつ、けんちゃんへのツッコミを担当しています。ふたりの軽快なやりとりが、内容の怖さや和らげていて、怖いのが苦手な視聴者でも最後まで見ることができると評判なのです。

テレビのようでテレビでない構成

 けんちゃんと闇病み子のふたりは、元TBSの同期だそう。TBS在籍は2年と短いのですが、そこで学んだノウハウは『あるごめとりい』の動画作りに生かされています。

 まず、テレビ番組のようなCMまたぎの引き伸ばしがありません。彼らの動画の尺は10分〜15分程度で、その尺におさまるように言葉はナレーションは端的に、情報は厳選されポイントのみに絞られています。

 オープニングとテロップ、エンディングはテレビさながらのクオリティでありながら、ナレーションとふたりの喋りはYouTubeでよく見られる早回し速度。まさにテレビとYouTubeのいいとこ取りのような作りになっています。

 また、チャンネルの構成は視聴者巻き込み型で、動画はけんちゃんの視聴者に対する問いかけで始まるものが多く、登録者は「メトラー」と呼ばれ、一体感が得られるようになっています。

 闇病み子のコメントは常に視聴者の気持ちや疑問の代弁に徹底しているので、テレビにありがちな、タレントが盛り上がっていて視聴者を置いてきぼりにするパターンも発生しません。

 『奇跡体験! アンビリーバボー』や『ザ! 世界仰天ニュース』といった地上波で流すようなコンテンツを扱う一方で、一般人ならまず検索することのないダークウェブを探ってみたり、地上波が放送規制するような事件に切り込むなど、YouTubeのキラーコンテンツのひとつである「やってみた系」もしっかり押さえており、視聴者のハラハラドキドキを満たすことも忘れません。

 テレビ番組の制作経験から、テレビのメリットとデメリットを熟知しており、視聴者ファーストの構成にしたもの、それが『あるごめとりい』の動画なんです。

事件や歴史、情報の選択を学ぶきっかけに

 『あるごめとりい』で取り扱う事件は、古典的な「切り裂きジャック」から、記憶に新しい2019年の「京アニ事件」までさまざま。動画をきっかけに事件や歴史を掘り下げています。

 筆者はリアルタイムで報道に触れた「レッサーパンダ帽男殺人事件」や「埼玉愛犬家連続殺人事件」、「逃亡犯福田和子」などの事件について、自分の記憶とネットの情報を、動画と比較しながらあらためて整理しています。

 具体的にはこんな感じ。

 筆者は動物が大好きなので、「埼玉愛犬家連続殺人事件」は一際印象に残っていますし、本事件を元に作られた映画『冷たい熱帯魚』も鑑賞しています。

 「埼玉愛犬家連続殺人事件」が起こった当初の報道では、事件を起こした犯人、関根元・死刑囚が日本に初めて持ち込んだとされるシベリアン・ハスキーよりも、事件のきっかけとなり、当時は一部の犬好きの間でしか知られていなかったアラスカン・マラミュートという大型犬に注目が集まりました。

 このアラスカン・マラミュートはのちに純血種が減っただけでなく、バブル崩壊の煽りもあって、運動用の広大な敷地と、日に数時間という散歩時間を確保できる人が著しく減少し、人気はあっという間に下火に。

 一方、シベリアン・ハスキーは、漫画『動物のお医者さん』のヒットで、日本で広く知られるようになりました。

 『あるごめとりい』の「【残酷】客の愛犬を暗殺・別の犬を売る悪徳オーナー…客と揉めたらバラバラ殺人」では、このアラスカン・マラミュートの部分を潔くカットし、関根死刑囚の優秀さを印象付けつつ、日本人にも馴染みがあるシベリアン・ハスキーというネームにフォーカスされています。

 当時を知る筆者としては、マラミュートの部分が削られたことに驚きを感じたものの、『あるごめとりい』の動画と、自分の記憶とネットに溢れる情報とを照らし合わせると、視聴者にもっとも効率的に概要を理解させるために意図して行われた選択だったことが推察され、唸らされました。

 映画やドラマ、漫画が学びのきっかけになることは珍しくありません。『あるごめとりい』の場合、事件や時代背景を知る入り口としてでなく、スピーチや、何かを説明する時のテクニックとなる情報の選定方法を知ることができます。動画を見た後に、事件のことを調べてみると、ふたりの編集やリサーチ能力だけでなく、サマライズスキルにも驚かされるはずです。

 筆者は『あるごめとりい』の動画を食事の準備中に流したり、子どもと一緒に見て会話のネタにしています。ただ、仕事の休憩中にみるのは要注意。ハマってしまい、いつのまにか4本連続再生していた、なんてことも。

 都市伝説系のYouTubeチャンネルとしてはピカイチの面白さなので、未見の方は是非チェックしてみてください。いろんな驚きを経験できるはずです。

■中川真知子
ライター。1981年生まれ。サンタモニカカレッジ映画学部卒業。好きなジャンルはホラー映画。尊敬する人はアーノルド・シュワルツェネッガー。GIZMODO JAPANで主に映画インタビューを担当。Twitter

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