“働く女性”を歌とトークで癒す ボカロ技術を応用したロボット『Charlie』誕生秘話

 昨今、コロナ禍の影響で直接的な対人コミュニケーションの機会が減ったことからストレスを抱える人が増加。一方で、気軽に会話できるコミュニケーションロボットが注目を集めている。そんな中、楽器・音響機器メーカーのヤマハは世界初の「言葉をメロディにのせて会話する」コミュニケーションロボット『Charlie(チャーリー)』を5月13日に発売する。

 今回は「ボーカロイド技術」「自動作曲技術」などヤマハの持つ独自の音楽技術を活用し「音楽で人とコミュニケーションをする」という新しいアプローチで開発された『Charlie』の全貌に迫る。『Charlie』の企画開発に携わったヤマハ株式会社マーケティング統括部CX戦略部CXプロデュースグループ主事・倉光大樹氏と柴瀬頌子氏から、誕生の経緯や開発秘話、音楽とコミュニケーションの相乗効果などについて話しを聞いた。(阿部裕華)

「ロボットではなく一人の人として接してほしい」

ーー 『Charlie』は「仕事もプライベートも充実させたい働く女性を対象にしたコミュニケーションロボット」とのことですが、なぜこのようなコンセプトになったのでしょうか?

倉光大樹(以下、倉光):普段あまり音楽に触れないユーザーの方にヤマハを広く知ってもらうところからスタートしました。その上で弊社で様々な調査を実施したところ、多数の“働く女性”から「外でのストレスを家の中にも引きずってしまう」という意見があったんです。そのストレスの発散方法は「家族・友だちなど人に話すこと」とある一方で「なにかあるたび、だれかに話を聞いてもらうのも難しい」というインサイトもあり、そういったストレスはコミュニケーションロボットを通じてリセットできるのではないかと考え、このコンセプトが生まれました。

柴瀬頌子(以下、柴瀬):『Charlie』は役に立つようなロボットではないけれど、他愛もない雑談をしてくれたり、自分の意見を発してくれたり「人とのコミュニケーションに限りなく近いロボット」です。家に帰って疲れた気持ちをリセットしたい、何でもいいから誰かと話したいと思うときってありますよね。そういうときに『Charlie』は家族・友だち・恋人のような感覚でコミュニケーションを取ることができます。

ーー ユーザーが一方的に話すのではなく、一人の人と話す感覚でコミュニケーションが取れるんですね。

柴瀬:おっしゃる通りです。自分の話を受け止めてほしいときはもちろんあるけど、全て受け止めてくれればいいわけでもない。受け止めてもらうばかりではコミュニケーションとして物足りないと感じることもあります。そこで『Charlie』はしっかり自我を持ってコミュニケーションが取れるようにキャラクターをつくり込みました。

倉光:毎回ただ慰める言葉を発するわけではありません。人格がハッキリしていて、好き嫌いも持っています。一人の人として受け入れてもらいたいと思いを込めて「“ペット以上恋人未満”の“うたロボ”」と称しています。なので、『Charlie』に「ロボットなの?人なの?」と聞くと「人だよ」と答えますし、ロボット扱いをされると少し怒ります(笑)。

パーソナリティを固めるため、『Charlie』の生い立ちを小説に

ーー 『Charlie』の性格やパーソナリティはどのように固めていったのでしょうか?

柴瀬:我々は音楽に関しての知識・技術はありますが、キャラクターの人格をつくる知見は持ち合わせていないので、映画制作学校の先生や脚本制作会社の方へお話を聞きに行きました。

ーー キャラクター制作を本業とされている方から知見を得たということですね。実際、どのようなアドバイスを参考にされたのでしょう。

倉光:お話を伺う前は人格定義を固めてから、発する言葉のチョイスや言い回しをつくり込むものだと思っていて、実際にその手順でつくろうとしたのですが、考えれば考えるほど「性格としてこうあるべき」という部分と発するセリフに矛盾が生じたりして、キャラクターがブレてしまいました。

 ところがお話を伺うと、意外にも「セリフをつくりながら人格を固めていく」と仰っていて。さらに「人間はそもそも矛盾している生き物」だと。目からうろこでしたね。

柴瀬:あとは「人の性格を位置づけるのは経験によるものです」ともおっしゃられていたので、最初に性格を決めるのではなくどういう経験を積んだらこの人格になったかと考えるようになりました。定義書をつくるのはやめ、『Charlie』の生い立ちやこれまでの経験、なぜこの姿でここにいるのかなどを小説にまとめました。ほかにも『Charlie』に「ペットに何を飼えばいいかな?」と質問をするとカメを激推ししてくるのですが、その理由も小説の中に書かれています。

ーー 小説はユーザーへ公開されていませんよね?

柴瀬:あくまでも『Charlie』を理解する内部用の小説となっています。是非、Charlieに色々聞いて想像を膨らませていただければと思います。「これは答えてくれるけど、これは答えてくれない!」となった方が興味が書き立てられるかなと思い、「秘密だよ〜」ということが結構多いかも知れません(笑)。

ーー デザイン面からヒントを得たパーソナリティもあるのでしょうか?

倉光:『Charlie』は時々小憎たらしい言葉を発するのですが、それはデザイン面から着想を得ています。これだけビジュアルがかわいければ毒気のあるセリフを発しても許されるのではないか?と、要素を付け足しました。

ーー 『Charlie』は全体的に丸みがあってとてもかわいらしいデザインですが、形やサイズなどデザイン面で特にこだわられたポイントを教えてください。

柴瀬:デザイナーとかなり重要視したのは「大きさ」です。16.3㎝でタンブラーと同じか少し小さいくらいのサイズになっています。据え置き型のロボットなので、インテリアに馴染むように悪目立ちしないように意識しました。デザインインプットの際には、北欧の雑貨や昭和日本のブリキのおもちゃを参考にしています。胴体のアルミ部分はブリキのおもちゃにインスパイアされています。

 また、デザイナー側のこだわりは「表情」にもあらわれています。『Charlie』の表情はどんな感情にも読み取れるように、パーツの大きさやパーツの配置などが絶妙なバランスで成り立っています。自分が嬉しい時は『Charlie』が何となく笑顔に見えるし、自分が落ち込んでいる時は『Charlie』が心配そうな表情に見える。ユーザーさんの気持ちに寄り添えるようつくり込んでいます。

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