『スマブラDX』の功績:「ゆかいなeスポーツ」の誕生と〈競技〉/〈遊戯〉の両義性

〈競技〉と〈遊戯〉の両義性

 aMSaは、単に「ヨッシーという弱キャラでも世界レベルの成績を収めた(現在の世界ランクは7位)」ということ以上の功績を残している。eスポーツという〈競技〉シーンの中でも自己の〈遊戯〉精神を発揮し続けたこと、ときにはむしろそれこそが「勝利」に結び付くことさえあることを示したことだ。そしてそれは、あくまでもプレイヤーの〈遊戯〉精神に重きを置く『スマブラ』のコンセプトをも体現しているのである。

 〈競技〉(シーン)の中に潜む〈遊戯〉性、〈競技〉と〈遊戯〉の両義性を発見することの意義はなんだろうか。〈競技〉とは基本的には「○○の基準を満たしたら勝ち」といったことを定めるものだが、それは同時に「○○を満たしていない人は駄目」という排除の論理と裏表の関係にある。「勝利」に固執するあまり多大なストレスを抱えてしまうアスリートや、身近なところでは「学校の体育」が苦手な人が出現する理由もここにあると言えるだろう。このような〈競技〉の息苦しさから解放される契機として、そして〈競技〉に偏重するだけでは排除されてしまう多様性を認めるものとして、〈遊戯〉は存在する(12)。

 これは、スポーツ業界における「競技スポーツ」から「ライフスタイルスポーツ」へ、という流れにも当てはまることだ。例えばランニング業界をみればわかるように、ここ数年でオリンピックで行うような「マラソン」人口に対して、単に生活の一部としての「ランニング」を行う人の割合は増えている。特に2007年に始まった東京マラソンをきっかけに生活の一部としてランニングを取り入れる人が増え始め、その数は2012年には国内で500万人にのぼったとも言われている(13)。競技/鑑賞としての競技スポーツから、自己の生活を彩るためのライフスタイルスポーツへ。自己の「体験」のシェアの価値が高まったSNS時代の産物ともいえるかもしれない。

 このように、スポーツ業界ではライフスタイルスポーツの流行にみられるような〈競技〉の〈遊戯〉化が、反対にゲーム業界ではeスポーツの興隆に象徴される〈遊戯〉の〈競技〉化が、一つの潮流を築いているのだ。そして、やはり、どちらかに偏るわけではなく、その「両義性」を発見することが大切だというのが筆者の考えだ。〈競技〉に偏れば前述したような「排除」を生む。かといって〈遊戯〉に閉じこもればそれは逃避だとみなされかねない。「ゲームばっかりやっていないで現実を見ろ」といったお説教の論理は恐らくそういうことだ。

 こういうことを言われて「何かが違うんじゃないか」と思ったときには、『スマブラ』が持つ、いや、本当はあらゆる遊びが持つ〈競技〉と〈遊戯〉の両義性を思い出せばよい。〈遊戯〉だって〈競技〉になりうる、あるいは〈競技〉から生まれた〈遊戯〉が新たな文化を生み出す、そしてときには〈競技〉の中で〈遊戯〉精神を発揮することが勝利を導きさえするということを。

 たしかに人は〈競技〉から逃れることはできない。「合格点を満たせば大学に合格する」「選挙に勝てば議員になる」というように、あらゆる「勝利条件」によって秩序が保たれている。しかしだからこそ、〈競技〉の「中で」〈遊戯〉精神を発見することが大切なのだ。eスポーツシーンの中で〈遊戯〉精神を発揮し続ける、あのヨッシーのように。〈競技〉によって秩序を保ちながらも、基準に満たない(と一見思われる)ものを排除しない。そういう寛容さがゲームを、文化を豊かなものにする。

 eスポーツという競技シーンであくまでも『スマブラ』が「ゆかいなパーティゲーム」であり続けたことで、いうなれば「ゆかいなeスポーツ」とでも呼ぶべき存在であり続けたことで、そのことを示してくれているのである。

 その回路を切り拓いたのは、他でもない『スマブラDX』だったのだ。

■参考
(1)(3)(8)(9)aMSa『日本人初プロスマブラーの軌跡』(三才ブックス、2016)
(2)「『グローバルeスポーツマーケットレポート2020』発売! 2020年世界eスポーツ市場規模は9.74億米ドル。2023年は約16億米ドルに。」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000007314.000007006.html
(4)(7)桜井政博「桜井政博のゲームについて思うこと」、『週刊ファミ通』2010年12月23日号(2010、エンターブレイン)
(5)桜井政博『桜井政博のゲームを作って思うこと』(エンターブレイン、2012)
(6)桜井政博監修『スマブラ拳!! スマッシュブラザーズ秘伝の書』(小学館、2000)
(10)「マイケル・フェルプスーWikipedia」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%97%E3%82%B9
(11)望月秀記「狙ったレースは絶対にモノにする! マイケル・フェルプスに見る『勝つための、5つの考え方』」、『スイミング・マガジン』2009年12月号(2009、ベースボール・マガジン社)
(12)中川大地『現代ゲーム全史』(PLANETS、2016)
(13)「『走る人』が捉えるランニングカルチャー」、『PLANETS vol.10』(PLANETS、2018)

■徳田要太
ライター/編集者。サイト制作やクラウドファンディング支援のWebライティング、デジタルゲームのコラム執筆を行う。編集としてPLANETS編集部にて活動中。
Twitter:@dandan_tokutoku

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