マッチングアプリにはびこる“なりすまし”や“不適切なメッセージ”を回避するために……Tinderのセキュリティ責任者が語る「安全対策」
ソーシャル系マッチングアプリ「Tinder」のグローバルチームの中には、メンバーのセキュリティとプライバシー保護を担う専門部署・トラスト&セーフティチーム(Trust and Safety Product)というものが存在する。今回、その統括責任者のRory Kozoll氏に、Tinderの安心安全への取り組みについて新たに発表される機能の紹介も含め、話を聞いた。
まず、この専門部署の存在意義について「新たな出会いを求めるということは、自分を曝け出すことになるので、安心して自分のパーソナルな情報を提供できる環境づくり、相手を尊重する環境づくりが必要不可欠」だとした上で、このチームの二大ミッションは「信頼できる健全なメンバーコミュニティを維持するために必要なソリューション構築」と「メンバーが安心してつながりを楽しめるツールやリソース提供」と話した。
「Tinderはいわば出会いのパーティーであり、我々主催者はメンバーに安心して楽しみながら良い時間を過ごしてもらう必要があるため、不快な思いをしている人がいれば躊躇なく介入する。さらに誰もが参加できるが、誰もが居座れる訳ではありません」と、そのポリシーを表明し、具体的な取り組みについて教えてくれた。
初めてTinderに登録する際には、必ず同意しなければならないルールが設けられている。それは、メンバーがTinderから最初に受け取るメッセージで、全員の安心安全と尊重について記載されているもの。これを設けたことでアプリ内での安心に関する様々な情報へのアクセスが57%増加したという。
また、「年齢確認」のためにID(身分証明書)のアップロードを義務付けており、これが確認できなければ利用開始できないようになっている。さらに、4月13日から日本でも導入された新機能が「本人認証」機能である。これは「なりすまし防止」を目的としており、アプリに表示された写真と同じポーズで撮影した自撮り写真と、プロフィール写真(または携帯のカメラロールにある写真)をAIで比較し、写真がメンバー本人であることを認証するシステムだという。認証済みメンバーのプロフィールには青いチェックが表示されるようだ。
迷惑メッセージ防止のために、メンバーが不快に感じる可能性のある有害なメッセージを検知すると、メッセージを受け取った側に「メッセージに不愉快な思いをする内容がありましたか?」と迷惑行為の有無について問いかけが入る。「はい」と答えた場合、メンバーは相手の行為を報告することもでき、この機能導入によりいやがらせの報告が37%増えたそうだ。同時多発的に様々な言語で交わされるメッセージについては、機械学習によって、ニュアンス、文脈を理解して本当に必要な時に介入がなされるようだ。
Tinderでは実際に会う前に「ビデオチャット通話」の利用を推奨している。電話番号等を提供する前に、“本当に会っても良いか”“次のステップに進んでも良い相手かどうか”を互いにジャッジできる。また、コロナ禍で感染リスクも抑えられ、安全を担保するために有効に作用しているようだ。もちろん、この機能は、マッチした後に両者が承諾した際に初めて選択肢として選べるものになる。ここで交わされる会話はプライベートな対話なので、モデレーター役もいなければ録音も一切なしだが、不適切な行動(ビデオチャット上でヌードになるなど)等有害なコンテンツをTinder側が検知した場合、ぼかしを入れるなどの対応がなされるそうだ。
退会した人の再登録の防止については、「システムの穴を突いて悪用されないように詳細は話せない」と前置きがあった上で、効果的なシグナルを検知することができ同一人物だと特定出来ることを教えてくれた。さらに、姉妹ブランドアプリにも強制退会者の情報(ブラックリスト)は共有され、どのアプリにも入会できないように制限されると言う。
最後に、Tinder Japanとしての近年の取り組み紹介があった。昨年、一般社団法人結婚・婚活応援プロジェクト(MSPJ)に参加し、より「マッチングアプリ」と「出会い系サイト」の違いの明確化が進められている。出会い系サイトには、サクラを利用して高額サービスへの移行を図るものも含まれているが、Tinderでは自身のビジネスへの誘導を促すようなメッセージ送信もNGとしている。
先述の「年齢確認」「本人認証」機能等によって、1人が複数アカウントを保有することを禁じ、反対に複数人で1つのアカウントを運用することも禁止している。今後は、よりTinderが「独身のみのコミュニティー」というスタンスをとっていることを強く打ち出していくと同時に、Z世代(18歳〜25歳)ユーザー中心に自分の身を守るコツやアドバイスの提供を促していきたいとのことだ。
コミュニティーの安心安全担保のためには、こういった機能の充実はもちろんのこと、コミュニティーに所属するメンバー自身が機能を正しく積極的に使いながら、クリーンな状態を保とうと浄化する意識を持つことも必要不可欠だろう。
■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで年間の劇場鑑賞映画本数は約100本。Twitter:https://twitter.com/Tominokoji