SoundCloudが「ファンによる」ロイヤリティ支払いモデル構築 ファンによる“支え方”の多様化を考える

SoundCloudから考える“支え方”の多様化

 音楽配信サービス「SoundCloud」が、今年4月1日より世界の主要定額音楽配信サービスでは初となる新たなロイヤリティ支払いモデルを導入する。

 SoundCloudが「Fan-powered(ファン・パワード)」と呼ぶこの支払いモデルは、SpotifyやApple Musicなど多くの定額音楽配信サービスが採用している"プロラタ(Pro-rata)"モデルとは異なり、ファンによるアーティスト楽曲の再生が、よりアーティストに収益として還元されるものになっている。

 "プロラタ(pro-rata)"モデルは、サービス加入者から毎月徴収するサブスクリプション料金と広告主からの広告料をプールし、最も多くの再生数をもたらしたアーティストにロイヤリティが優先的に分配される仕組みになっている。これは平たく言うと山分け方式によるロイヤリティの分配方法であり、再生回数から算出された支払いレートに沿ってロイヤリティが支払われる特性上、優位な立場に立てるのは、必然的に世界中に多くのファンを抱え、多くの再生数を稼ぐことが可能な大物アーティストたちに限られる。そのためアーティストの間では、たびたび「ストリーミングで得られる収益の低さ」に対する不満の声も上がっていた(ストリーミング収益には再生数以外にアーティストの契約状況も関係するなど支払い条件は複雑だが、本稿では割愛したい)。

 しかし、この「Fan-powered」モデルでは、アーティストに支払われるロイヤリティについて「アーティストのファンの実際のリスニング習慣に基づいて支払われる」ことが特徴になっている。つまり、現在、「SoundCloud Premier」などを利用して音源を収益化している約10万人のアーティストは、自分たちの楽曲を熱心なファンが聴いている時間が多いほど、彼らにはそれに応じてより多くの収入ーーSoundCloudによると今までよりも25%以上の収入を得る可能性がもたらされるというわけだ。このような特徴から、トップクラスのアーティストには敵わないまでも、それなりの規模のファンベースによってある程度の再生数を稼ぐことができる"ミドルクラス"のインディペンデントアーティストには優位性が高いものだと言われている。特に原盤権などを自分で所有しているのであれば、なおさらだ。

 「Fan-powered」モデルは、先述のとおり、業界トップのサービスでは採用されていないものの、Tencent MusicのQQ Musicのような中国のストリーミングサービスでは、すでに採用されている。また、現在では、SoundCloud自体も利用を勧めるPatreonやOnlyFansのような、ファンがクリエイターを支えるサブスクリプションサービスのビジネスモデルも確立されている。こういったクリエイターの独立性に関わるツールの導入には、最近の音楽業界でも注目が集まっており、実際にM.I.AがPatreonで独占コンテンツを公開するサブスクリプションプランを立ち上げているほか、最近でもAce HashimotoがPatreonでサブスクリプションプラン向けにThundercatとのコラボ曲「Vaporwaves」のMVを公開している(現在はYouTubeでも期間限定で公開中)。

 SoundCloudは昨年、アーティスト向けの機能である「Repost by SoundCloud」をローンチ。これによりSoundCloud上での音源の収益化だけでなく、Spotify、Apple Music、TikTokなどへのディストリビュートが可能になったほか、サービスを利用するアーティストのキャリアアップに向けたサポートプログラムを提供するなど、インディペンデントアーティストの独立性を高めるための支援サービスを行なっている。

 また、アーティストやクリエイターの独立性に関わる動きは、Twitterの「スーパーフォロー」機能やTikTokのライブ配信者向け機能である「TikTok LIVE Gifting」のローンチなど、ファンがクリエイターを支える機能の導入が次々に発表されたことで後押しされている状況だ。定額音楽配信サービスでは、今月、モバイル決済企業SQUARE INCによるTIDAL買収が注目を集めたが、これも昨今のアーティストの独立性に注目が集まることを受けてのものだと指摘する識者もいる。

 そういったアーティストの独立性に関わるクリエイティヴの収益化に関して、今、1番注目を集めているのはNFT(非代替性トークン)を活用したオークションだ。最近ではGrimesやNo Rome、Aphex Twinのような著名インディペンデントアーティストたちがNFTオークションを活用し、チャリティーのためのデジタルアート作品を販売(メジャーアーティストでもLinkin ParkのMike Shinodaもこの動きに加わっていることは注目すべき点だ)。出品されたデジタルアート作品は、いずれも1点もの、もしくは限定数であることから高額で落札されている。

 NFTオークションをチャリティーのために活用するアーティストがいる一方、注目を集めたのが世界中のEDMフェスなどに出演してきたDJ/プロデューサーの3LAUによる個人の収益のためのNFTオークション活用だ。3LAUは、特典付きのデジタルアルバムをNFTオークションで販売することで総額1168万ドル(約12億円)を稼ぎ出した。コロナ禍によって大きな痛手を受けたアーティストたちにとっては、このようなNFTオークションの活用方法は、中止になったツアーなどの損益を補填する意味でも注目を集めている。とはいえ、NFTオークションの加熱ぶりは中長期的には供給過剰に陥るという見方もあり、そうなると今後は需要も落ち着き、価格が均衡状態になるという予想もある。

 しかしながら、現状、こういったオークションで作品を購入できるのは、熱心かつ資金力のあるファンに限られるため、アーティストやそういったファンにとってはメリットがある一方、そこまで入れ込むほどでもない普通のファンにとってはあまり有益なシステムとは言い切れない部分もある。

 そのようなことを踏まえて考えると、実際によく聴くアーティストに分配されるSooundCloudの「Fan-powered」モデルは、アーティストのみならず、特定のアーティストの楽曲を定額音楽配信サービスでよく聴くものの、例えばそのアーティストの楽曲をBandcampで購入するほどでもない"ミドルクラス"のファンにとってもフレンドリーなものだと言える。現在、SoundCloudの定額配信サービス「SOUNDCLOUD GO+」の月額料金は、9.99ドル(約1000円)に設定されている。

 この価格はファンにとっても経済的負担が小さく、アーティストを支えるという行為に対する参入障壁も低い。実際に現在では多くの音楽リスナーが定額配信サービスを利用して、音楽を聴いていると思うが、リリースのたびにプリセーブして熱心に聴くようなアーティストもいれば、そうでもないけれども度々聴く程度には好きなアーティストがいるというように、実際に聴くアーティストもリスナーの中ではランク分けされているはずだ。そのため、仮に自分がBandcamp Fridayで音源を買ってまでサポートしたいと思えるアーティストでない場合でも、支払うサービス利用料金がこれまで以上に自分が実際に聴いているアーティストの収益に繋がるのであれば、「Fan-powered」モデルは、気持ちの面でもポジティヴに受け入れられるものではないだろうか。

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