bandcampは”ストリーミング時代の英雄”なのか 再考される”音楽を所有する”ことの意味

bandcampは”ストリーミング時代の英雄”なのか 再考される”音楽を所有する”ことの意味

 カウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチの発表によると、2019年に会員数が世界中で前年比32%増加し、3.58億人に達するなど、年々、右肩上がりに成長している音楽ストリーミングサービス。さらに今年の新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、人々が感染防止のために外出を自粛し、それまでエンタメの現場など外で費やしていた可処分時間を自宅でストリーミングサービスを利用して音楽を聴くことに費やすことが増えたことから、今後、その利用はさらに上向くと予測されている。そんななか、同じくコロナ禍で存在感が高まっているのが、音源を販売する音楽プラットフォームであるbandcampだ。

 新型コロナウイルス禍におけるbandcampの動きは注目に値するものであり、例えば、コロナ禍によってアーティストたちは、これまで収入の柱のひとつになっていたライブ活動による収入を失ったが、同社はそれに対し、他のプラットフォームに先駆けて、いち早く対応。今年3月20日に、通常受け取る販売手数料をアーティストに還元する”アーティスト還元デー”を実施した。同日は、通常時の1日あたりの平均販売数が4万7000点であることに対し、15倍以上となる80万点を販売。音源とグッズの売上は430万ドルを記録した。

 また”アーティスト還元デー”は、今年5月から7月の3ヶ月間にわたり、毎月第1金曜日に再び実施され、5月には3月を大きく上回る710万ドル、6月には480万ドルもの売上が報告されている。7月の売上に関しては公式には発表されていないものの、最新の情報によると4回の還元デーの売上総額は、2000万ドル以上を記録。3月のコロナ禍以降、bandcampユーザーは、アーティストや音楽レーベルが販売する音源やグッズの購入のために7500万ドル以上を費やしているという。

 このように音楽ストリーミングが主流となった時代に、bandcampは旧来どおり、音楽を販売することで注目を集めている。こういった動きに対して、英メディアの『The Guardian』は「Good vibrations: how Bandcamp became the heroes of streaming」という記事で、いかにしてBandcampが”ストリーミング時代の英雄”に成り得たかを解説している。

 そのなかで興味深いのが、bandcampのビジネス戦略だ。bandcampは、2008年に現在のCEOを務めるEthan Diamondらによって設立された音楽プラットフォーム。2000年代に世界中を席巻した元祖SNSのひとつ、Myspaceに代わる場を目指して、アーティストとファンが交流し、音楽を売ることができるものとして設計された。そして同時期に立ち上がった音楽プラットフォームが、現在の音楽体験の主流を担う音楽ストリーミングサービスのSpotifyであり、その後の10年間はYouTube、Apple Musicなど同種のサービスがそれに追随する形で音楽体験のあり方を変革してきたのは、すでに多くの人が知るとおりだ。

 しかし、bandcampはそれらのサービスとは異なり、デジタル音源も販売するが、その売上の約半数はレコード、CD、カセットやTシャツ、ポスターなどフィジカルなアイテムで占められている。これは現在の音楽体験のあり方が、CDが売れなくなくなり、ストリーミングが増加することで、これまでのように音楽を所有することから、Tik TokのようなSNSで共有して楽しむ方向にシフトしていることを考えると、ある意味で異質だと言えるかもしれない。

 だが、bandcampのビジネスモデルに関わる”所有する”ということが、現在のコロナ禍によって今、再考されるべき価値観となっており、そこにはファンが音楽作品やグッズを購入することで、アーティストを直接支援する必要性が高まったことに大いに関係している。

 「ストリーミングサービスでアーティストが受け取るロイヤリティーが少ない」ということに対する不満は、これまでにも言われてきたことだが、確実に多くの利益を得ているアーティストは存在しているのも事実だ。

 ただ、ストリーミングサービスが有料会員の月額利用料と広告収入で得た収益の中から、再生回数に応じて、各アーティストにロイヤリティーが支払われる山分け型のビジネスモデルである関係上、当然のことながら、人気がある大物アーティストは多くの収益を得ることができる一方、マイナーアーティストが得ることができる収益は非常に少ない。その意味では、コアでアンダーグラウンドな音楽性のアーティストにとってはストリーミングサービスとの相性はあまり良いとはいえない部分がある。

 そう考えると、先述したタイプのアーティストにとっては、基本的に販売自体は無料で行えて売上から手数料を15%(*デジタル音源、マーチャンダイズは10%)引かれるだけで残りを手元に入れることができるbandcampの支払いモデルは、ストリーミングサービスと比較してフレンドリーだといえる。

 コロナ禍においては、ライブによる収入がなくなったアーティストを支えるのは音源による収益であり、その還元率が高ければ高いほど、重要視したくなるのも人間の心理。そこに先述の還元デーによって、ファンによる収益面でのアーティストサポート意識が高まったことは間違いないはずだ。

 加えて、bandcampではほかのストリーミングサービスと違い、ファンが作品に対するレビューを書いたり、フォローしているアーティストからメッセージを受けたり、送ったり交流できる仕組みになっている。そのことはファンがアーティストを支えるという意識を高めることにつながるものであるが、そこには「音楽ファンがサポートするアーティストの音楽作品を購入し、所有することで、ファン自身がそのクリエイティブの一部になれるという風に感じる心理が働いている」と、bandcampは分析している。

 対照的に、ストリーミングサービスは低価格で無制限の音楽をファンに提供する一方、リスナーデータを広告主に販売することで、リスナー自身を製品に変えてしまう面があるとbandcampは指摘もしている。つまり、ファンが音楽を購入し、直接アーティストの支援することがアーティストの音楽作品に自分も関わっているという感覚を生み出す一方、ストリーミングサービスで音楽を聴くことにより自身がマーケティングのための製品化してしまうということは、同じ音楽を聴くという行為でもその方法によって、ファンが望んでアーティスト作品の一部になるのか、知らず知らずのうちにストリーミングサービスのためのデータになるのかという異なる現象を生み出す。

 それらのことから、購入型とストリーミング型では、ビジネスモデルの違いだけでなく、ファンを取り巻く心理的な環境も変わってくることがうかがえる。

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