『サイバーパンク2077』は“失敗作”なのか? 山積みの問題と強烈な魅力のはざまで考える
一切「ロールプレイ」を阻害させないための、幅広い戦闘アプローチ
例えば戦闘一つをとってみても、プレイヤーが選ぶことの出来るアプローチは多岐に及ぶ。ハンドガンやアサルトライフルといった銃に、ハンマー等の近接武器は勿論、素手、刀などのブレード、背後からのステルスに加え、『サイバーパンク』の世界ならではといえる相手の身体へのハッキングも可能だ。また、身体にサイバーウェアを埋め込むことで、本来当てづらいはずのスナイパーライフルに自動追尾機能を付加したり、両腕にアームブレード(マンティスブレード)やロケットランチャーを仕込むこともできる。そしてプレイヤーはこれらの選択肢の中から自分のロールプレイに合ったアプローチを選び、組み合わせ、強化することができる。
どのアプローチも強力で、筆者はVを「ストリート育ちの凄腕ネットランナー」としてハッキングを中心に強化しているが、同時期にプレイを開始した友人は刀一本の武士道スタイルで敵を切り刻み、また別の友人は機動力と銃のスキルを強化し、さながら『DOOM』シリーズのような攻撃的な銃撃戦を楽しんでいる。プレイヤーのロールプレイに応じて、戦闘中の景色はそれぞれ大きく異なったものになる。
筆者の場合、ハッキングの強化を進めた結果、もはや敵地に赴く必要すらなくなり、凄腕のネットランナーとしてカメラ越しに全ての敵に対してハッキングを施し、相手の神経を焼却したり、サイバーウェアのシステムをリセットさせたり、あるいは誤作動を起こして自殺させることで、武器を使うよりも高速に敵を殲滅させることができるようになり、街ではネットランナーとして活動する人物と会話を弾ませている。
一方で「全くハッキングする気がない」のであればハッキングの機能自体を無効化し、別の能力を割り当てることも可能だ。そもそも、戦闘を行う必要自体が無く、「とにかく目的さえ達成出来れば良い」というミッションも非常に多い。全てはプレイヤーの選択とロールプレイに委ねられている。このような戦闘への多様なアプローチも、元を辿れば「自分の役割に応じた振る舞いを選ぶことができる」というRPGとしての理想を追求した結果であるといえるだろう。
プレイヤーの行動全てが「選択」となり、物語を動かしていく
また、ロールプレイの醍醐味であるプレイヤーの選択による物語の分岐についても、本作は大きく進化している。本作ではメインクエスト、サイドクエスト問わず、何度も「選択肢」が現れ、選んだ結果によって、クエスト、あるいは物語の進行内容が大きく変わっていく。
例えば、最序盤のクエストにおける、ギャングのアジトを訪問し、交渉して目的のアイテムを入手するミッションでは、様々な説得材料によって交渉が成立して穏便に終わる場合もあれば、決裂して戦わざるを得ない場合もある。戦う場合においても状況によってギャングとの戦闘内容は変わり、そもそも交渉すら行わずに最初からギャングを殲滅させてアイテムを強奪するというアプローチも可能だ。
サイドクエストについても、たとえ短いものであっても、その多くには分岐要素が存在し、時には関わる人物の運命を握ることもある。依頼人から「車を運んでくれ」と頼まれるサイドクエストでは車のトランクの中に人間が入っており、そのままギャングに届けるか、トランクから出して救うかを選ぶ事ができるし、股間に不良品のインプラントを埋め込んだ男性が救いを求めて駆け寄ってくるサイドクエストでは、放置すれば股間ごと爆発して男性が死亡する。「放置すれば」と書いた通り、決して選択肢は会話ログに表れるものだけではない。前述した戦闘と合わせて、プレイヤーの「行動」の全てが選択肢となる。
また、サイドクエストで取った行動が、後のメインクエストに影響を与えることもある。一見すると気付かないかもしれないが、選択の影響は決してその場限りのものではなく、サイドクエストだろうと関係なく物語全体を動かしていく。そして、選択肢の一部は物語の展開や、キャラクターとの関わり、避けられない運命によってプレイヤーの倫理観を大きく揺さぶっていく。だが、揺さぶられれば揺さぶられるほどに、選べば選ぶほどに、「V」はより一層、自分の分身となっていく。これもまた、ロールプレイを加速させるための壮大な仕掛けとなっているのだ。
全てはロールプレイのため 狂気的な作り込みを誇る舞台装置『ナイトシティ』
ここまで「戦闘」と「物語の選択による分岐」について書いてきたが、ロールプレイにおいて、その舞台となる世界の作り込みは最も重要であるといえるだろう。『サイバーパンク2077』の舞台となるナイトシティの完成度はまさに圧倒的だ。『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』といった作品群を彷彿とさせるような、巨大な高層ビル群とスラム街が共存し、派手に浮かび上がる巨大な広告や色鮮やかなネオン、そしてどこか違和感のある日本語が彩るナイトシティは、かつて人々が描いた未来の景色にセックスとドラッグと暴力と金といった人間の欲望を放り込んだ巨大都市であり、まさに人々が「サイバーパンク」と聞いてイメージする世界観を体現する存在となっている。
そして、ナイトシティの本当の魅力は、隅々まで作り込まれた装飾やオブジェクトが生み出す「生活感」にある。大量に配置された様々な企業やサービスの広告はただ輝くだけではなくナイトシティにおける産業の様子を示し、そこら中に散らばったゴミ袋や空き缶・空き瓶、ピザの空き箱といったオブジェクトや壁の落書きからはそこで人々が生活する様子を強く感じさせる。路地裏や廃墟にはテントや布団、そして大量のゴミが置いてあり、時には一つのコミュニティが形成されていることも。住居を訪問すれば壁のポスターや床に散らばったアナログレコードや雑誌、PCに届いた様々なメールなどからその人物がどのような趣味趣向の持ち主なのかを推測することができる。広大なナイトシティに散りばめられた膨大で細かいオブジェクトの一つひとつが、まるでナイトシティが実在し、そこで実際に人々が生きているかのようなリアリティを創り上げるのである。
これはクエストにおいても同様で、ただミッションをこなすだけでは分からないような、登場人物の背景やそこで起きた出来事についても、現場に散らばったアイテムやメモ、PCに残されたメールなどを辿ることで推測できるようになっている。そのどれもが興味深い内容となっており、それらを知ることで、この世界で人々がどのように生きているのかを実感し、より「ナイトシティで生きている」という実感が強くなっていく。
本作は、『Grand Theft Auto V』のようにテニスやゴルフといった多種多様なアクティビティが用意されているわけではない。だが、その代わりに膨大な量のナイトシティの人々の物語を描き、街の細部まで狂気的なほどに作り込み、そこでの「生活」を創り出すことで、ロールプレイを加速させるためのリアリティを構築しているのである。これは『Fallout』や『The Elder Scroll』、『The Outer Worlds』や『Divinity』といったこれまでのビデオゲームにおけるRPGタイトルにおける世界観の構築手法を更に追求した結果とも言えるだろう。