帰還を果たしたK/DAと、新たなアプローチでシーンに挑むaespa 現実と虚構を繋ぐバーチャルK-POPが示す未来

K/DAとaespa、バーチャルK-POPが示す未来

未知数のバーチャルの可能性と、その先にある未来

 aespaのデビュー曲として発表された「Black Mamba」のミュージック・ビデオは、極彩色のファンタジーとヴェイパーウェイヴを参照した、メルヘンとバグと"Kawaii"が入り混じった強烈な世界観と、サビにおける挑発的な振り付けと大胆なカメラワークが印象的な作品であり、デビュー曲としてインパクトを与えるには十分に濃厚な仕上がりになっている。だが、仮想世界のメンバーも登場こそはするものの、あくまでそれはMV内の風景の一つに留まっており、2つの世界がパフォーマンスレベルで同居しているわけではない。現時点では、仮想世界のメンバーは現実側のメンバーを引き立てるための演出要素としてのみ存在しているように思える。それは、テレビ・パフォーマンス映像やYouTube上にアップされている企画動画においても同様だ。

aespa 에스파 'Black Mamba' MV

 デビュータイミングでは「世間にグループとメンバーを認知してもらうこと」が最も重要であることを踏まえると、他のK-POPグループと同様に(良くも悪くも)普通に活動を行うというのは、戦略としては正しいだろう。特に今はBTSやBLACKPINKやNCTなどの成功によって、世界中の人々がaespaに注目を向けているのだから。とはいえ、コンセプトを提示したところまでは良いが、いかに仮想世界を活用するのかについては、まだ手探りの段階なのではないかという疑念もないわけではない。

 また、そもそもコンセプト自体に対する懸念もある。特に「現実世界のメンバーが仮想世界のアバターメンバーと比較されてしまう」という問題は非常に大きい。いくらでも理想的な見た目を追求することができる仮想世界のキャラクターと、努力してもどうにもならない場合だってあるにも関わらず比較されてしまうというのは、現実世界のメンバーに対して明らかに大きな負担となるだろう。K/DAの場合はあくまで「中の人」として現実世界の演者を捉えることが出来たし、主役はあくまで仮想世界上に存在するメンバーにあった。だが、aespaの場合は仮想世界と現実世界が同居すること自体がコンセプトであるため、両方が等しく主役なのである。

 とはいえ、そのような様々な懸念はこれまでの仮想世界を活用した様々な文化においても存在したものであり、今では(残っている問題も山積みではあるが)その多くが定着して、新たな未来を提示してきた。バーチャル・バンドの草分け的存在であるUKのゴリラズは、コミックの世界から飛び出したようなクールなビジュアルとアンダーグラウンドなサウンドを武器に今やゼロ年代以降を代表するロックバンドとして評価され、ボーカロイドとして登場した初音ミクは、様々なクリエイターにとってのプラットフォームとして活用され、そのクリエイティブを届ける存在として世界中へ人気を拡大していった。キズナアイを筆頭としたVTuberについても、仮想世界だからこそ実現できた魅力的なキャラクターを続々と生み出し、YouTubeやビリビリ動画を中心にこちらも世界中で人気を爆発させている真っ只中である。

 そして、『LoL』の世界からクールなポップ・グループとして飛び出したK/DAも、バーチャルだからこそ実現出来る斬新でクールなビジュアルやコロナ禍を全く気にすることのないオンライン/オフラインの垣根を超えた活動でこれまでに見たことのない景色を見せてくれるだろうし、aespaが提示しようとしている「現実世界と仮想世界が同居した世界」がどのようなものになるのか、これから先、いかにユニバースを拡大していくのかについても非常にワクワクさせられる。現実世界ではできないことができてしまう場所だったはずの仮想世界は拡張を続け、もはや現実世界の一部になりつつある。そして、K/DAやaespaは、背景や活動形式こそ違えど、共にこの進化のさらなる未来を示す存在となる可能性を秘めているのだ。

■ノイ村
海外のポップ/ダンスミュージックを中心に愛聴。普段は一般企業に勤めているが、SNSやブログにおけるシーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始。
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