『Discord』爆発的成長の影に『Among Us』効果 その背景を改めて考える

『Among Us』が『Discord』に与えた大きな影響

 2020年11月、米TechCrunchはチャットアプリ『Discord』の評価額が70億ドルを突破する見通しであると報じた(参考:https://techcrunch.com/2020/11/24/discord-is-close-to-closing-a-round-that-would-value-the-company-at-up-to-7b/)。それだけでも相当な出来事だが、同アプリが今年の6月時点で1億ドルの資金を約35億ドルの評価額で調達していることを踏まえると、わずか数ヶ月でさらに評価が倍増したということになる。実際、『Discord』の勢いは圧倒的なもので、月間アクティブ・ユーザ数は約1億2千万人、1日のダウンロード数は約80万人という数字を叩き出している。

 元々、『Discord』はゲームに特化したチャットアプリとして、特にPCゲームのユーザを中心に支持を集めてきた。ちなみに筆者もそのユーザの一人だが、確かにこれはゲーマー必携といっても過言ではないほどに便利なアプリである。基本的な使い方は定番の『Skype』などに近いが、一つのコミュニティの中でいくつかのチャンネル(部屋)を作って個別に談笑したり、フレンドが現在遊んでいるゲームを見てそこに加わったり、ゲームプレイ画面を共有しながら会話出できたりと、特にマルチプレイヤーのゲームを遊ぶ人にとって、痒いところに手が届く機能が非常に多く備わっている。以前はコミュニティといえばredditなどのWebサービスが主流だったが、今ではDiscordを活用するという例も多く、例えば『ホットライン・マイアミ』や『Fall Guys』などで知られるパブリッシャーのDevolver Digitalは、公式のDiscordサーバを用意して、コミュニティの運用を行っている(参考:https://discord.com/invite/devolverdigital)。

 というわけで、元々ゲーマーからの支持が厚く、パンデミックの影響下でゲーム自体の需要が増え、さらにコミュニティアプリとして浸透したことが、今年の『Discord』の成功の大きな要因ではある。だが、ここ数ヶ月の急激な成長の背景には、ある一本のゲームソフトの影響が大きい。それが、現在Steamでわずか520円で買える『Among Us』である(参考:https://store.steampowered.com/app/945360/Among_Us/ モバイルアプリ版も展開中)。

Among Us Steam Release Trailer

約2年の時を経て、突如人気が爆発した宇宙人狼ゲーム『Among Us』

 『Among Us』はInnerslothが開発とパブリッシングを手掛け、2018年11月に配信開始されたゲームだが、発売からしばらくの間は一日のプレイヤー数が一桁レベルという、マルチプレイヤーのゲームとしては致命的なレベルの過疎に悩まされていた(参考:https://steamdb.info/app/945360/graphs/)。だが、今年の夏から秋にかけて海外ストリーマーを起点にバイラル化し、一日のプレイヤー数が10万人を超えるという驚異的なヒットを実現する。SNSには『Among Us』のキャラクターを使ったミームが大量に投稿され、twitchでも『League of Legends』や『Minecraft』などのトップ・コンテンツと肩を並べるほどの視聴者数を獲得しており、まさに社会現象的な人気を獲得していたと言えるだろう。その波は日本にも訪れ、加藤純一や花江夏樹、ポッキーといった人気配信者が実況配信を実施し、先日は2BRO.も自身のラジオで本作に興味を示していることを語っている(参考:https://www.youtube.com/watch?v=i-0HWU2l-aY)。国内での注目も高まりつつあるタイトルとなっている。

#1【AmongUs】花江夏樹と小野賢章 みんな集合!10人で宇宙人狼!【生配信】

 通称「宇宙人狼」と語られる本作は、宇宙船を舞台に4人~10人で参加するマルチプレイヤー・ゲームである。プレイヤーはクルーメイト(乗組員)と1人~3人のインポスター(詐欺師)にランダムに振り分けられ、クルーメイトは視界が限られた宇宙船の中で定められたタスクを時間内に完了させること、そしてインポスターはタスクが完了するまでにクルーメイトを殺して排除すること、というのが基本的なルールだ。

 本作のユニークなシステムとして、インポスターを追放するためには「緊急会議」が必要である点が挙げられる。「緊急会議」は2つの方法で開始することが可能であり、1つはクルーメイトの死体を発見した時に実施する「Dead Body Reported」、もう1つはマップ中にあるボタンを押すことで実施する「Emergency Meeting」である。この「緊急会議」が始まると、バラバラに行動していたプレイヤー全員が同じ場所に招集され、実際に話し合いながら誰がインポスターなのかを推理し、投票によって追放者を決定する。このように、インポスター側は隠れながらクルーメイトを排除し、クルーメイトは「緊急会議」でインポスターを特定して排除するというのがゲームの基本的な流れである。シンプルなゲームでありながら、常にいつ誰が排除されるか分からない緊張感と、実際に話し合う中での心理戦がゲームのポイントであり、かつ実況映えする理由でもある。

 そして、この「緊急会議」の存在が『Discord』の急激な成長を支えた大きな理由でもある。

『Discord』を活用した「緊急会議」と、その動きを支援するBOTの活発化

 本来、『Among Us』の「緊急会議」はゲーム内のテキストチャットで行うことを前提としており、ボイスチャットはそもそもゲームの機能として搭載されていない。とはいえ、やはり文字だけでの議論には限界があり、実際に話し合った方が面白いということで、徐々にプレイヤーは別のアプリでボイスチャットを利用することで、実際の会話による議論を行うようになっていった。そこで活用されたのが、元々ゲーマーに親しみのあった『Discord』である。ゲームを始める際、プレイヤー全員でまずは『Discord』のボイスチャンネルに集まり、通常時はマイクをミュートし、「緊急会議」の際はマイクをオンにすることで、ボイスチャットを使って会議を進めるようになっていったのだ。

 とはいえ、ゲームをプレイしながら『Discord』のマイクを操作するというのは、結構面倒であり、うっかりマイクを切り替えるのを忘れてしまって自分がインポスターであることがバレるといった危険性もある。配信で人気を博した本作の場合、プレイ中も常に配信用のマイクに向けてトークを続けながらプレイするという場合も決して少なくないため、マイクの管理は非常に重要な問題となった。そこで、『Discord』における拡張機能的位置付けであるBOTに注目が集まっていく。テキスト読み上げ機能やアンケート機能など、『Discord』では有志によって様々なBOTが開発されている。そして、『Among Us』用にゲームと同期してマイクのオン/オフを切り替えるBOTが開発されるようになったのだ。これは公式が提供するものではなく、あくまでユーザ側が独自に開発したものである。

 現時点で非常に多くのBOTが開発されているが、例えば人気のBOTである『AmongUs AutoMute』(参考:https://github.com/denverquane/amonguscapture)の場合は、ゲームの状況に応じてマイクのオン/オフを切り替えたり、殺されてしまったクルーメイト同士のみで会話ができる機能(通称「霊界チャット」)が用意されており、これによって煩わしいマイクの操作を一切行わずにゲームに集中することができる。

 やがて『Discord』にBOTを入れてボイスチャットを活用するのが『Among Us』における定番の遊び方となり、前述の通り『Discord』自体がコミュニティとしての機能も備えているため、買ったは良いものの一緒にプレイするフレンドがいないという人も『Discord』のコミュニティに入って参加者を募ることが出来た。このような流れを経て、『Among Us』の爆発的人気とセットで『Discord』のユーザも急激に増加していったのである。



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