誰でも主人公になれる『ウォッチドッグス レギオン』は、大量告発に揺れるUbisoftの現在ともリンクする

物語やゲームシステムを阻害する大量のバグ

 というわけで、各キャラクターのロールプレイを楽しみながら本作を遊んでいたのだが、現在に至るまで悩まされ続けているのが大量のバグの存在である。本作は筆者は本作のXbox One版のアルティメット・エディションを発売日に購入し、次世代機版へのアップデートに併せて11月10日以降はXbox Series Xで遊んでいるのだが、Xbox One版の場合は突如ゲームがクラッシュして強制終了になったり、ミッションの進行状況が戻って同じ作業をやる羽目になったりといったバグに悩まされていたが、何故かSeries X版ではこの状況が悪化し、上記に加えて起動から1~2時間程度でオートセーブが無効になるという非常に悪質なバグに悩まされている。本作にはマニュアルセーブが存在せず、セーブスロットも一つしかないため、一度このバグが発動してしまうと数時間の進捗がなかったことになってしまう。本稿執筆時点で既に4回ほどこのバグの影響を受けており、その度にため息をついている。(決して良くはないが)メインミッションが戻るのはまだ許容範囲としても、偶然道端を歩いていて見つけてスカウトしたNPCをセーブバグで失ってしまった場合、もう一度探すのは殆ど不可能に近い。元々酷いバグだが、本作のコンセプトがより一層にこのバグを致命的なものにしている。

 本バグについては開発側も認識しており、12月初旬には修正パッチが配信される予定となっている。他のバグ対策も並行して行っているとのことなので、もし現時点で本作を購入しようと検討している場合は、少なくとも修正パッチが配信され、バグ報告が少なくなってきたタイミングにしておいた方が無難であろう。正直なところ、ユービーアイソフトの作品についてはバグは決して珍しいものではないが、ここまで多くのバグが出ているケースはそうそうない。あくまで可能性の一つとしてだが、発売日発表時点で当初11月19日にリリースを予定していたライバル企業の大作タイトルである『サイバーパンク2077』より先行して発売するために開発を急いでしまったのではないだろうかと邪智してしまう。前述の問題が活発化し社内の体制が安定しない状況で、更にコロナ禍でのイレギュラーな開発を強いられ、それでも発売日に向けて急いだ結果、このような事態を招いてしまったのかもしれない(とはいえ全く擁護することはできないが...…)。

 『ウォッチドッグス レギオン』は「Play as anyone」という非常に魅力的なコンセプトを掲げ、実際にそれを実現した作品である。「モブとして扱われていた人々が集まり、権力に抵抗する」ことができる本作は、現在のユービーアイソフトの状況に対する一つの「内部からの回答」としても機能する明らかに可能性に満ちた、そして極めて野心的な作品だ。だからこそ、「妄想」で補う必要がある本作の物語やゲームシステムの物足りなさや、それ以上にゲームプレイを大きく阻害する大量のバグの存在が極めて残念であり、惜しいと言わざるを得ない。とはいえ、本作の「自分の気になったNPCを実際にプレイアブルキャラクターとして使い、物語を与えることができる」という体験は唯一無二なものであり、(間違いなく人を大きく選ぶが)少なくとも筆者としては、現時点で2020年の下半期において最も楽しんだゲームとなっている。

 今後はマルチプレイヤーコンテンツや、過去作の登場人物が参加するDLCなどの追加と、まだまだ本作の世界観は拡充していく予定となっている。特にマルチプレイヤーについては、世界中のユーザの「自分だけのデッドセック」が集まることになるわけで、それぞれのお気に入りのキャラクター同士が共闘する様子を考えるだけでも非常にワクワクする。今度こそ、期待通りの着地を見せてほしいところだが、並行してバグ対応が遅れていたり、別のスタジオでは異なるトラブルを巻き起こしているというのも事実であり、不安要素は依然として多い。あくまでコンセプトやコアとなるゲームシステムは魅力的であるため、今のこの状況が改善される日が来ることを切に願う。

■ノイ村
海外のポップ/ダンスミュージックを中心に愛聴。普段は一般企業に勤めているが、SNSやブログにおけるシーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始。
ホームページ
twitter

関連記事