もはや日本を凌駕!? インドネシアがeスポーツ普及に全力を投じるワケ

 eスポーツ即ちオンラインゲームは、もはや「スポーツ」である。

 しかもそれは、一国の格差問題を解消してしまうかもしれない可能性を秘めたコンテンツでもある。

 日本では地方自治体の「ゲーム条例」が大きな話題になった。それと同じ頃、ASEANで最も多くの人口を抱えるインドネシアでは、中央政府がeスポーツの発展を推し進めていた。決して誇張した表現ではない。この国ではeスポーツの大統領杯という大会まで開催されているのだ。それは経済先進国であるはずの日本をも凌駕した光景である。

 なぜ、インドネシアはeスポーツ分野に力を入れているのか? それを知ることができれば、日本の「デジタル化」の方向性も自ずと見えてくるはずだ。

eスポーツの大統領杯が存在する国

 2020年2月、ジャカルタ首都圏内にあるタンゲランBSDシティにて『Piala Presiden 2020』のファイナルトーナメントが開催された。「Piala」はインドネシアで「杯」、「Presiden」は「大統領」である。同国各省庁が関わっている国際大会だ。

 種目タイトルはTPSバトルロイヤルゲーム『Free Fire』とオンラインサッカーゲーム『eFootball PES 2020』である。後者は『ウイニングイレブン2020』と書けば、日本では通りがいいはずだ。

 ここで注目すべきは、『Free Fire』である。日本では知名度が低く、ゲームレビューでも「低スペックなグラフィック」と言われてしまっているタイトルだ。確かにキャラクター造形も背景描写も、今現在の平均水準のものではまったくない。ではなぜ、そのようなゲームが大統領杯の種目に選ばれたのか。

 2020年のジャカルタ特別州の最低法定賃金が月427万6350ルピア。日本円ではちょうど3万円ほどである。しかもこれは勤め人の月給に対して課せられた数字であり、屋台や露店、行商人、オンラインバイクタクシーのライダーをしている人はその限りではない。毎週末に高級ショッピングモールで豪勢な買い物をする富裕層は別だが、そうではない労働者に最新ナンバーのiPhoneを買うことができるのだろうか?

 一般庶民の持つスマホは、100万ルピア(約7000円)台で購入できるローエンド機種。そして『Free Fire』とは、低スペックのスマホでも快適に動作することを最優先に開発されたタイトルなのだ。

 安いスマホ1台でオンラインゲームができる。インドネシア政府は、このあたりに祖国の未来を見出している。

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