もはや日本を凌駕!? インドネシアがeスポーツ普及に全力を投じるワケ

インドネシアがeスポーツ普及に全力を投じるワケ

都市部と地方部の「格差」

 インドネシア独立闘争の頃のスローガン「サバンからメラウケまで」は、同時にインドネシアの領土範囲を確定するものでもあった。

 同国屈指のダイビングスポットと知られる最西端サバン島と、パプアニューギニアを目の前にするメラウケ。仮にメラウケを日本の大阪市と同じ位置に置いたら、サバン島は中国を抜けてキルギスに達する。

 我々現代人はメルカトル図法の世界地図を見ているから、赤道直下の国々を小さく感じてしまう。が、インドネシアは1万4000の島々と2億7000万人の人口を抱える巨大島嶼国家なのだ。

 そしてインドネシアの国是は「多様性の中の統一」。この国には各地に民族が点在し、それぞれ言語も違う。しかしミャンマーのロヒンギャのような、属性故に国籍すら与えられない人々はインドネシアには存在しない。誰でも一人一票が保障されている。

 ということは、インドネシア各都市各地方自治体が平等のペースで発展しなければ不公平ではないか?

 だが現実は、ジャワ島内にある首都ジャカルタとその周辺地域、スマラン、スラバヤ、ジャワ島外では一大観光地として知られるバリ島南部、シンガポールに近い工業地域バタム島ばかりが栄えている。内資も外資も、それ以外の地域には興味を持とうとしない。

 すると、インドネシア各地から大都市への出稼ぎ労働者が相次ぐようになる。彼らは農閑期にジャカルタへ出て、農繁期に帰郷するというサイクルの生活を送るが、農業よりジャカルタでの仕事の割がいいと分かると、そのままジャカルタに定住してしまう。結果、地方の労働人口の空洞化が起こる。

 この現象はかつての日本でもあったことであり、漫画家の矢口高雄氏の作品『おらが村』に具体的なことが描写されているので、興味のある読者はぜひ目を通していただきたい。

キラーコンテンツとしてのオンラインゲーム

 ところが、インドネシアの場合は上述の通り、1万4000もの島を抱えた島嶼国家である。

インターネット環境を各地域に整備するのも一苦労だし、そもそもジャワ島から遠く離れた島嶼部でまとまったネット通信量が見込めるのだろうか。 どの通信会社も、利益の見込めないところに電波塔を建てようとはしない。

 だからこそ、キラーコンテンツとしてのオンラインゲームが注目されている。

 スマホを使ったゲームが普遍的な娯楽として定着すると、それに従って各地域の通信量も増えるはずだ。言い換えれば、現場からビジネスチャンスが発生したということである。すると各通信会社からの投資も得られるようになる。外資も参入するかもしれない。

 そして「ゲームができるほどのネット環境がある」ということは、それを他のオンラインビジネスにも転用できるということだ。

 インドネシアでは「地方部の経済格差是正」を標榜するスタートアップが多数生まれているが、そのひとつに『eFishery』がある。これは魚の養殖池に設置する給餌機レンタルを手がける企業で、給餌機はスマホアプリと連携する機能を有している。池の状態や魚の種類等を感知して餌の量を調整し、その他の細かい設定は養殖池所有者のスマホで完結するというものだ。

 先に解説したように、農村部では農閑期に村民が都市部へ出てしまう。ならば、農閑期の無収入を補うビジネスを地元ですればいいではないか。ネット環境さえあれば、このようなことも実施できるようになる。

 『eFishery』は今年8月、シリーズB投資ラウンドでの資金調達に成功した。

インドネシアは次のステップへ

 インドネシアのeスポーツ事業は、次のステップへ踏み出している。

 今年5月、競技を前提にしたMOBAゲーム『Lokapala』がローンチされた。これはインドネシアのゲーム制作メーカーが手がけたもので、このジャンルの巨大タイトルである『Mobile Legends』に対抗し得る存在になるのではと、インドネシア商業省も期待を寄せている。

 『Lokapala』が世界的なタイトルになるということは、自国製品を輸出するということと同じ意味である。インドネシアは経済に関しては保守主義で知られ、その基本方針は「外資より内資、輸入より輸出」。『Mobile Legends』も『Free Fire』も『ウイニングイレブン』も、インドネシアから見れば「外国製品」。が、いずれはそれらを「自国製品」に置き換えたいという意図が見て取れる。

 現地の有名YouTuberが、Lokapalaを実況プレイして大きな再生回数を得ている。日本でゲーム条例の是非が議論されていたころ、インドネシアでは新型コロナウイルスの拡散を逆手に取ったeスポーツ普及活動に注力していた。この落差について、我々は真剣に考えなければならない。

■澤田真一(さわだ・まさかず)
1984年10月11日生。フリーライター、グラップラー。各テクノロジーメディア、経済メディア等で多数執筆。
Twitter:@tech_sawada

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