美麗ピクセルアートで悲劇を描く2Dアクション『INMOST』 古城をさまよい道を選びとれ

 そうした手触りは本作における隠喩を如実に表している。複数の登場人物を切り替えながら遊んでいるうちに、彼らが少しずつ異なる世界に生きているのがわかるだろう。不気味ながら地に足のついた現実世界と、超自然的な存在が棲まう物語の世界。少しずつずれながら重なり合う世界が、もつれあいながらストーリーを展開していく。少し話の種明かしをしてしまうと、物語の世界は現実の出来事と対称になっていることが徐々に明かされてくる。闇に包まれた城もまた彼らが対峙する現実の一側面を切り取った存在なのだ。そのことを踏まえると、周囲の環境に対抗する力をもたず彷徨える旅路がいっそう悲壮なものに感じられる。

 『INMOST』に救いがあるとすれば、少なくともプレイヤーは彼らを終わりへ導くことができるということだ。ある人物は主人公に「城を壊せ」と使命を授ける。しかし本当のところそんなことが可能な風には到底感じられない。できるのは城の回廊をたどり、壁と壁の間のわずかな隙間から隠し通路を見つけ出すことだけだ。彼らは城を制覇できない。ただ選択できる道を見出し、その結末をつかみ取ることはできる。不可抗力の運命のもと、ぎりぎり最後に残された意思の力を行使することが『INMOST』のプレイ体験における掛け金である。決して軽快とはいえないゲームだからこそ、探りあてた道の重さが胸に迫る構成となっているのだ。

 『INMOST』はPC(Steam/GOG/Humble Store)/Nintendo Switch/Apple Arcade向けに配信している。

■Yuki Kurosawa
フリーライター。ゲーム系の記事を中心に執筆している。海外のインディー作品をよく好む。何度も死んで覚えるゲームが得意(一手先が読めないため)。
Twitter:@Yki_Krosawa
サイト : https://yuki-writer.com

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