個性と多様性を認め合い、2次元と現実体験が交差する「刀剣乱舞」の魅力

 今年1月にサービス開始5周年を迎えた、ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』。

 8月11日には、5周年を記念しミュージカル・舞台に出演する刀剣男士が東京ドームに集結する無観客配信イベント『刀剣乱舞 大演練』が予定されていた。昨今の状況を踏まえ中止が決定したが、同日は役者陣がリモートで出演する配信番組『大演練 控えの間』の実施が発表になるなど、いまも新鮮な話題に事欠かない人気コンテンツだ。

 5年という長い期間、同作はなぜこれほどまでに愛されているのか。あらためて振り返ってみたい。

 ゲーム『刀剣乱舞』は、日本刀を擬人化した美麗な男性キャラ「刀剣男士」を育成するシミュレーションゲームである。西暦2205年、歴史の改変を目論む歴史修正主義者に対抗するため、「審神者(=ゲームプレイヤー)」は刀剣男士を生み出し、彼らを様々な時代へ送り出して戦いを繰り広げる。ゲームとしては、「本拠地’(本丸)で刀剣男士の隊を組み、様々な時代の戦場に送り出しながら戦闘レベルを上げていく」というシンプルなシステムだ。

 キーとなるのは、「刀剣男士」が単なる刀の擬人化ではなく、審神者の手によって「刀剣に宿る心を目覚めさせ、“付喪神“として生み出された」という設定である。

 物に宿る想い。つまり、その刀剣の歴史や名前・謂れに裏打ちされた要素や、有名な武将などの元の持ち主の人生が、キャラクターの外見・性格・戦い方等に現れる。また「神」という要素も、幻想的な想像を掻き立て、刀剣の持つ妖しい美しさとリンクする。

 単純に刀が人間になったのではなく、心が刀剣男士を生み出したという設定の妙は、ファンの心を掴んで離さない。

 ゲームの内容が現実の体験に繋がるのも、刀剣乱舞の特徴だ。

 サービス開始から程なくして、多くのファンが刀剣鑑賞に興味を持ち、その魅力にとりつかれた。キャラクターのモチーフとなった刀剣を見に博物館へ出かけ、縁の地を巡る。キャラへの理解を深めるために、史実や文化に親しむ。その体験が、ゲームへの愛着やキャラクターへの愛情をより強くした。現実の体験がバーチャルに、2次元への愛情が現実へと相互的に影響しあう面白さがあるのだ。

 実際、ゲームが刀剣文化にも大きな影響を及ぼしているのは周知の通り。

 関東大震災後に焼失したとされていた刀「燭台切光忠」が、多くのファンの声により徳川ミュージアムの倉庫で発見されたことは様々なメディアに取り上げられた。

 2018年に京都国立博物館で行われた「特別展 京のかたな」では、大規模なコラボレーションが行われたこともあり、25万人を超える来場者を記録して話題となった。

 実際の刀や企画展などとコラボが度々行われているのも、ユニークな魅力である。

 人気の2.5次元舞台に触れることも、ファンにとっては現実体験の一部だろう。ゲームを通して心の中で思い描いていたキャラクターたちが、実際に目の前で戦っているというのは、鮮烈な体験だ。

 ミュージカルパートとライブパートの2部構成というエンタメ性の高い『ミュージカル刀剣乱舞』、重厚なストーリーと本格的な殺陣で支持を得る『舞台刀剣乱舞』と二つの舞台作品が作られており、それぞれ熱狂的に支持されている。

 またメディアミックスも盛んに行われており、アニメも2作品作られている。刀剣男士たちの和やかな日常と個性を丁寧に描いた『刀剣乱舞-花丸-』、幕末を舞台にシリアスな戦いを圧倒的な映像美で描いた『活撃 刀剣乱舞』という、二つの異なるベクトルの作品だ。

『刀剣乱舞-継承-』

 そして、昨年初めに新たなファンを開拓したのが、映画『刀剣乱舞-継承-』である。特撮作品でもお馴染みの小林靖子脚本で話題となったこの作品は、歴史ミステリーと本格アクションという組み合わせで多くの支持を集めた。映画からゲームを始めたファンはもちろんのこと、舞台・ミュージカル・アニメと他メディアミックスに親しんだ人も多く、層を大きく広げた作品となったのは間違いない。

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