オンラインイベント開催にあたり、注意すべき“権利の問題”は? バルス・林範和&弁護士・照井勝に聞いた

 世界的な新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、自宅にいながら楽しめるオンラインイベントや、VR/ARイベントに大きな注目が集まる昨今。突如そうしたイベントへの切り替えを余儀なくされたアーティストも多い中で、もともと配信ライブを手掛けてきたプロフェッショナルは、どんなことを考え、どんな工夫をしているのだろうか。

 今回は、前編【ライブ会場の熱量をオンラインならではの体験に 『SPWN』など手がけるバルス・林範和に聞く“配信ライブの課題”】に引き続き、MonsterZ MATEや銀河アリスを筆頭にしたバーチャルタレント/アーティストのマネージメントや、ライブイベント、配信プラットフォーム「SPWN」までを一括して手掛けるバルス株式会社のCEO・林範和氏に加え、バルスの法律事務をサポートしている、青山総合法律事務所の弁護士・照井勝氏にも同席してもらい、需要が高まる今だからこそ重要な、オンラインイベント開催時の注意点についても解説してもらった。

「権利関係のグレーゾーンを整理しないまま開催数が増えている」(林)

――オンラインライブやxRライブをするうえで、アーティストのためにも重要になってくるのが、権利関係などを筆頭にした法律にかかわる問題です。「SPWN」では、アーティストに安心して活躍してもらうために、どんなことを意識しているのでしょうか。

林:僕らの場合、プラットフォームを運営する一方で、アーティストをマネジメントする事務所としての側面や、多くの出演者の方々には自社主催のイベントに出演してもらう側面もあります。そのため、プラットフォームとしてイベントで事故が起こらないのはもちろんですが、「SPWN」として違反などの間違いを犯してしまった場合には、自分たちだけではなく、アーティストさんやイベント主催者が違反をが知らずに使っていても、一緒に責められてしまう可能性を考えています。そのため、「これは権利的にどうなの?」「これは大丈夫?」ということを、ひとつずつ確認しながら進めることを大切にしています。また、エンタメ業界には「法律には違反しないけれどもこういうルールがある」という、独特な商習慣も存在します。そういった面も抜けもれなくするために、バルスではエンタメ業界に特化した法律事務所である青山綜合法律事務所の照井先生にアドバイスをいただいています。

 今まではVTuberというまだサブカルチャーのエンタメを扱うことが主だったから気になっていなかったことでも、対象とする業界がより広くなったときに「あれってダメだったんだ」ということが出てきてはいけないです。たとえバーチャルタレントの音楽やエンターテインメントでも、これまで音楽やエンターテインメントをつくってきた方々が用意してくれた土壌に、新しい表現の仕方が乗っかって生まれたものだと思うので、「バーチャルだからいい」「オンラインだからいい」という感覚で進めると、後々そうした業界の方々と一緒に何かを実現したくなっても、「一緒にやりたい」と思ってもらえないと思っています。配信についても、ここ2ヶ月ほどでオンライン配信が急激に広まっていったことで、権利関係のグレーゾーンを整理しないまま開催数が増えていると思うのですが、「やっぱり配信はグレーだから、コロナウイルスが収まったらもういいよね」となってしまうのか、「これからも続けよう」となるのかは、今からきちんと意識するかどうかで変わっていくと考えています。

――では、照井先生に聞いてみたいのですが、オンラインでイベントを開催する際には、権利関係のうえでどんなことに気を付ける必要があるのでしょう?

照井:気を付けないといけないことはたくさんあるのですが、音楽を使う際は特に注意が必要ですね。音楽に関係する権利は、大きく「著作権」と「原盤権」に分かれています。著作権は、国内では基本的にJASRACが管理していますが、JASRACの管理する楽曲は内国曲と外国曲に分かれており、それぞれに適用されるルールが大きく異なります。また、NexToneはNexToneで独自のルールで管理をしています。ですから、誰が管理しているのか、更には利用対象や利用形態によって、ルールが大きく違ってくるのです。もっと言えば、JASRACは、今は基本的に国内のことしか管理できないという立ち位置ですから、海外においても配信をするのであれば、海外の権利管理団体からも許諾を得る必要があります。そのため、思い込みで行動せずに、事前に調査することがとても大切です。

 そして、もっと注意が必要なのは原盤権の権利処理です。たとえJASRACで管理されている楽曲でも、それがCDなどで固定された音源を利用する場合には原盤権が働くので、その権利を持っているレコード会社やプロダクションの許可を取らなければなりません。そんなふうに、オンラインイベントに関係する音楽の権利問題は、実はとても複雑なんですよ。

林:海外曲については、僕もまだ理解が曖昧な部分が多いのですが、海外曲の場合、生配信での使用がOKな楽曲でも、アーカイブを残すのはダメだという場合がありますよね。いい機会なので照井先生に聞いてみたいんですが、これは「シンクロ権」の関係だとおもうのですがご説明いただけませんか?

照井:そうですね。アメリカはそうですし、EUも基本的にはそうなのですが、映像作品に音楽を乗せて利用する権利を「シンクロナイゼーション・ライツ(通称、シンクロ権)」と呼んでいて、シンクロ権は基本的に著作権管理団体に預けられていません。その理由の一つは、「音楽の著作権者の意図に反する形で、音楽のイメージが固まってしまうのを防ぐため」です。これによって、民主党支持者のシンガソングライターは、アメリカの共和党候補者を応援する大統領選のテレビCMにおいて、自らの楽曲の使用を拒絶することが可能なのです。逆に言えば、予め許諾を得なければ使用できない仕組みになっています。日本のJASRACも外国曲の管理はしていますが、基本的にシンクロ権は管理していません。ですので、外国曲のシンクロ権を管理するオリジナル・パブリッシャー(OP)又はサブ・パブリッシャー(SP)と「指値」交渉をしなければなりません。

 林さんの質問に答えると、生配信で外国曲を使用しても、何らかの媒体に音楽を録音・固定してはいないのでシンクロ権の対象にはなりませんが、アーカイブやDVD販売のために、映像作品に乗せて利用する場合は、音楽が映像に同期する形で録音・固定されているので、シンクロ権の対象となり、海外のOPや国内のSPにコンタクトして許諾を得る必要があるのです。シンクロ権は金額の基準が決まっていない「指値」交渉となりますから、使用後にOPやSPの知るところとなった場合は、「これだけの金額を払ってくれ」と言われてしまうと、それに応じざるを得ないということになりがちです。その段階では相手方が圧倒的に有利な交渉力を持っていますから。日本のコンテンツを海外に広げていくときには、特に思い込みで動かず、実際にどのようなルールで動いているのかを確認する、そのような意識を持っている林さんのような存在はとても貴重だと思います。

林:投げ銭の是非にかかわってくる資金決済法に関しても、とても複雑ですよね。こうしたことについても、全員がルールを理解したうえで利用しないと、投げ銭をもらったアーティストも、投げ銭をしたファンも、「本当にもらってよかったの?」「投げてよかったの?」ということになってしまいますし、それは健全ではないかなと。投げ銭も上手く使っていかないと、ソーシャルゲームでガチャが問題になり規制がはいったのと同じように、変に規制が入ってしまうと思っています。このあたりについても、照井先生に伺いたいです。

照井:まず最初に検討しなければならない資金決済法というのは、出来てからまだ10年しか経っていないんですね。投げ銭に関しては、簡単に言えば「それが資金移動業に当たるかどうか」、更には「為替取引に当たるかどうか」がポイントとなります。ところが、その為替取引は古くからある銀行法に書いてあるものと同じ意味とされているのですが、定義はあるにしても、関連する裁判例が極めて少ない状態です。平成13年の最高裁判決で、為替取引がどういうものかに触れられてはいるのですが、これも随分前の判例で、今の時代に即したものかと言われると、そうではない部分があります。このように法律でグレーな部分が多い場合に悪質な事例が出てしまうと、たとえそれが一部の例外的な事象であっても、行政としては漏れなく網をかけるために全体を規制するということになりがちです。

 ですから、今から業界全体として、法律で確実に決まって部分はきちんと守ったうえで、ユーザー、アーティスト、運営にかかわる方々の中に変に不利益を被る人が出ないような環境を作っていくことが大事ではないか、法律が変な規制をかける前に関係者内で適切なルールを整えていくことが大切なんじゃないか、と私は思っています。後になって「これを規制するために、あわせてこっちも規制しなければいけない」という形で巻き込まれることは回避すべきですし、一度法律ができてしまうと、仮に不備があったとしても、何年もかけてやっと改善できる、ということになりかねません。健全に成長していくべき業界が不利益を被るのは誰のためにもなりませんから、ただ法整備を待つのではなく、今から自分たちで主体的に、能動的にルールを作っていくことが大切なのではないでしょうか。