学校閉鎖から1ヶ月 フィンランド教員がオンライン教育に見いだした“利点と欠点”
遠隔授業を既に1ヶ月以上続けてきたフィンランドの小中学校教員達。彼らが遠隔教育に見いだした利点、欠点、気づきはどのようなものがあるだろう?
前回の記事に引き続きインタビューに答えてくれたのは、Rödskog skolaで代行教師として3年生を担当するロバート・ミエットゥネン(Robert Miettunen)氏とSaunalahden kouluで日本で中学1~3年に当たる7年生から9年生を対象に国語を教えるアレクシ・ヘイコラ(Aleksi Heikola)氏だ。
遠隔教育の利点:小学校の場合
ミエットゥネン氏が利点として挙げたのは、「1.授業中に他の生徒により集中を阻害されにくくなったこと」「2.生徒達がより自立して学習できるようになったこと」「3.生徒の傾向がより把握できるようになったこと」だった。
教師はビデオチャットを用いる授業ではモデレーターとして特定の生徒のマイクをオフにしたり、退出させたりすることもできる。「でも幸いなことにこのような機能は使わずに済んでいます」。やはり実際に周囲で同級生が学ぶ普段の環境とは異なるため、生徒が互いに集中を削ぐようなことも少ないのだろうか。結果として生徒達が他の生徒に邪魔されないので「授業に集中してくれ、それが授業内容の吸収がより効果的に」なったそうだ。これが生徒それぞれのより自立的な学習にも繋がっているだろう。
そして教師としては、生徒それぞれの学習が見やすい環境にあることで、どの生徒が勉強の助けをより必要としているか判別しやすくなったとのこと。それぞれの生徒の傾向をより詳しく把握できるようになったため、それに対応したこれまでとは異なる方法で教えることもできたという。
遠隔教育の利点:中学校の場合
ヘイコラ氏は利点として、遠隔教育により新たなICTアプリケーションを採用する必要性が生まれたことで、「今まで以上にデジタル学習環境が提供する機会への関心が深まった」ことを挙げている。例えば遠隔教育のお陰で通常の授業では見られない生徒の側面に気付くこともできた。「普段教室ではあまり自分の意見を言わない生徒が遠隔授業では積極的に会話に参加することに気付いたことは嬉しいことでした」。
そのほかの点としては、遠隔学習ではオンラインミーティングの持つ可能性にも気付いたという。「自分のチームとの会議は遠隔化されても心地いいものです。遠隔学習が終わってからも将来ももしかしたら会議は遠隔化したままでいいかもしれないと感じます」。そうなればわざわざ会議の際に授業がない教員が学校に来たりする必要もなくなる(フィンランドでは教員は授業時間外は自宅で採点その他の仕事をする事も出来るため、会議のためだけに学校まで行かないと行けない場合もあるようだ)。
デジタル・デバイドはやはり遠隔教育の欠点に
ミエットゥネン氏が遠隔教育の欠点として挙げたのは「ネット接続が常に信頼できるとは限らない」ということ。教師は同じことを何度か繰り返したり、生徒の問題を解決するために時間を費やす必要があり、その間他の生徒が手持ち無沙汰で待たなくてはならないということがデメリットとのことだ。
また、中学校教師ヘイコラ氏は遠隔教育は基礎教育の平等性にも影響があるとも話していた。「考え得る手段を全て使って、生徒全員が学習内容についていけるようにと学校は全力を尽くしています」。それでも個々の生徒には遠隔教育を受けるための状況もスキルもばらつきがある。例えばネット環境やデバイス性能の善し悪しや、それらを扱うことにどれだけ慣れているかなどだ。
「このため遠隔教育は、基礎教育の平等性を減少させると思います」とヘイコラ氏は語ってくれた。
欧州委員会によればEU加盟国の中でも有線・無線ブロードバンドのコネクティビティがTOP5に入り*、EU加盟28カ国と日韓米などの特定の非加盟国との比較では、フィンランドのブロードバンドにかかる費用は「比較的安価」であるとされる**。
*European Commission DESI 2019 (PDF)
**European Commission Study on Mobile broadband prices in Europe 2019 (PDF)
ブロードバンド接続カバー域が広く、安価に使えるといっても、基地局との位置関係や、建物との関係で繋がりが悪いこともある。それに加えてリモートワーク、遠隔教育、外出を控えた自己隔離などでネットを使う人が増加したため、ネット接続が遅くなっていることも現在のネット環境の不安定さには影響しているだろう。この状況を考慮して、動画配信サービスNetflixやYouTubeは3月末よりヨーロッパで配信画質を低下させて通信サービスへの負荷を下げる対策を講じている。
ICTスキルの高さ、どれだけ慣れているか、デバイス性能、これらはなかなか難しい問題だ。どれだけ身近にパソコンやタブレットを使用しているのかも関係するだろう。子供の多い家庭では人数あたりのパソコンやタブレットが無い可能性は高いだろうし、金銭的余裕が少ない家庭ではなおさらそうだろう。加えてデバイスの新しさや性能でも生徒間に不平等性が出てしまう。
フィンランドの貧困率は日本よりは低く、同時にOECD加盟国の中では地域格差が最も少ない国の一つではある*。それでも、生徒家庭の中には子供(全員)が授業に使うために使えるパソコン/タブレットがなかったり、学校側も必要のある生徒に対応できるだけデバイスがなかったりする学校区も先の記事で述べたように存在する。教員組合による調査では、高校、専門学校、大学では遠隔教育に必要なツールは足りているが、基礎教育と職業訓練校では不平等性が目立つとの結果も出ている。
*OECD (PDF)
他国との比較では格差が少なくとも、格差がないわけではない。その格差の中で生まれたデジタル・デバイドが遠隔教育の不平等性を生んでいると言うのが両教師から遠隔教育の欠点として挙げられたわけだが、より大きな欠点は別にあった。