デジタル先進国・フィンランドの公務員は、どのようにしてテレワークを実現したのか?
自宅からのテレワークの難しさ
自分の家に仕事以外の誘惑がいっぱいあると感じる人もいれば、遠隔教育のため家に子どもが居る家庭では、なかなか集中することができないという人もいる。
以前、BBCのインタビュー中に部屋に乱入してくる動画がネットで話題になったが、子どもが家にいる家庭では、オンラインミーティングの際に子どもがスクリーンに映るのも見られたし、映ってはいなくとも騒ぐ子どもの声が聞こえたりすることは希ではない。とはいえオンラインミーティングでは話者以外をミュートにできるので、このようなことは大きな問題にはならないし、参加者は誰も似たような環境にいるので(子どもがいなくとも犬やネコが騒ぐ場合もある)、微笑ましいという他は、特段ミーティングに悪影響はない。
だが実際の業務をする際には「子どもたちが課題がわからないとかつまらないとか言って寄って来るので、仕事が捗らない」という悩みの声も、別の職場に務める知り合いから聞かれた。その人は、仕事がままならないので子供が寝ている早朝か深夜に業務時間を変えたいし、週1回くらいはフルに集中したいのでオフィスで働かせてくれと申し出た、とのことだった。
複数のルームメイトがいるヒルヴォネン氏はどうかと言えば、仕事中は家のガレージに引きこもることで仕事中は邪魔が入らず、家から業務を行うことに集中する面では問題は感じないとのことだった。
だが、氏が問題を感じるのは別の点にあった。ほぼ全ての業務をテレワーク化でき、仕事の効率性は「理論上は変わりないはず」だというが、「現実にはそうではない」というのだ。
その効率性を下げる要因となっているのは、オフィスでは他の職員のブースにふらりと入っていって質問を気軽にすることができたのだが、それが現在には難しいという点だ。「オンラインメッセージで簡単に質問できるのに何が問題なのか」と思うだろうし、私もそう考えた。しかしよく聞くとこれは社交的なオフィスからモチベーションを奪うに至っていたのだ。
テレワークでモチベーションを保つには
「私の部署はとても社交的な環境にあるので、テレワークで同じように仕事ができるとは言え、このせいで仕事のモチベーションは低下しているんです」と語るヒルヴォネン氏。ただ、他の職員のブースを訪れ質問するという単純な行為が、問題の解決という実利面だけで無く、同じ目標に向かって働く仲間同士の労働のモチベーションを上げる助けになっていたのだ。
いつもオフィスで和気あいあいと働く同じ仕事仲間と、オンラインで同じようにコミュニケーションを取ることができないのは辛いものだ。オンラインミーティングがある日はまだましで、仲間と会うことができて気分も高まるが、毎日あるわけではないので、ない日はただひとり黙々と業務をこなすしかなく、モチベーションはぐんと下がる。
これをどうにかしようと、オンラインで皆でコーヒーブレイクをとったりもしてみたが、「チームには16人居るのですが、数人同時に喋ろうとしたりでもすれば何が話されているか全く判らなくなります」とのこと。そのため、職場のコミュニケーションの潤滑剤として機能する自然なコーヒーブレイクは、テレワークでは再現できないと言うのだ。
確かにZoomやHangoutのようなサービスは複数人と同じ部屋に居る状況は再現できるし、一度にひとりしか話さない会議やプレゼンテーションであれば適切だろうが、「一つの部屋の中で同時に複数の会話が発生する状況」と言った複雑性は再現することはできないのだ。
それでもチームのモチベーションを保とうという工夫は様々に見られる。休憩時間に皆を誘ってskribble(絵を描いて描かれた絵を当てるオンラインサービス)やälypää(90年代から存在するフィンランドのFlashゲームサイトのようなもの)でチャットしながらクイズゲームをやったり、皆でウェブカメラをオンにしてオフィスヨガを行ったり。普段は会社で皆で朝食を食べていたというところでは、オンラインで各社員が互いが朝食を食べるところを見ながら時折話をするということをしたり(前述のコーヒーブレイクと同様の問題があるが)などと各社様々に試しているようだ。