『PSYCHO-PASS サイコパス 3』から考える「法とテクノロジーの関係」と「人間としての在り方」

『PSYCHO-PASS 3』にみる“法×テックの関係”

 SFアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の劇場版『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』が3月27日より劇場公開、同時にAmazon Primeにて独占配信中だ。

 まだ見ぬテクノロジーによって、人々の考え方や行動がどのように変わるのかを見せてくれるのがSFの醍醐味だと筆者は考えているが、本シリーズはまさにその醍醐味が凝縮されている。

 技術の進化で人の行動様式は変わる、現在の我々とは異なる価値基準で行動する人々のシミュレーションとしてSFは多くのインスピレーションを与えてくれる。果たして、本シリーズはどんな未来を描き、現代を生きる我々に何を教えてくれたのか、シリーズ全体に通底するテクノロジーと人間の関わりを考えてみたい。

近代刑法の原則をテクノロジーが変えた世界

 本シリーズのSF的な側面における最大の特徴は、シビュラシステムという生涯福祉支援システムの存在だ。このシステムは、あらゆる人間の精神状態を常時分析し数値化、就職先や結婚相手の選別など個人の適正に沿った未来設計を行い、全ての国民の最大幸福を効率よく追求するというものだ。シビュラシステムが作る数値を「PSYCHO-PASS(サイコパス)」と呼び、ストレスが溜まり一定の数値を超えてしまうと、将来犯罪を犯す「潜在犯」として認定され、逮捕の対象となる。潜在犯を裁くのは、サイコパスを計測し刑を即執行できる特殊な銃「ドミネーター」を携帯する刑事たち。人の幸福を設計し、同時に社会の治安も効率よく守ることを目的としたシステムが導入された究極の管理社会を描いた作品だ。

 ITにも詳しいアメリカの憲法学者、ローレンス・レッシグは、人の行動を制御するのは、「1.法、2.倫理、3.アーキテクチャ、4.損得」だと語るが(https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00058/061700005/)、本シリーズは、そのうちのアーキテクチャによる制御が技術の発展によって全面化した世界であると言えるだろう。テクノロジーが倫理を決め、損得を測り、「潜在犯」を特定することで法の執行も行っているのだ。

 本シリーズの世界において、犯罪の概念は現実社会と異なる。現実の我々の社会では、犯罪は法を逸脱した「行為」のことだ。しかし、本シリーズでは「精神のあり方」で犯罪者が決まる。

 明治学院大学法学部の公式ブログがこの点を鋭く指摘している。このブログによると、この作品世界は「近代刑法の原則である『行為主義』はその役割を終え、主観主義刑法学の犯罪概念『人の精神の有り様』が犯罪」となった世界を描いており、「『人の精神の有り様』をぶれなく、把握できるシステム」のお陰で、主観主義刑法学が矛盾を克服し、貫徹可能になっているというのだ。(参照:法学徒必見 PSYCHO-PASS 再掲 : 明治学院大学法学部 公式ブログ)。

 裁判官には人の精神を判定することはできないので、結局は行為によって犯罪を捉えているという矛盾を主観主義刑法学は克服できないでいる。しかし本シリーズでは、テクノロジーによって合理的に人の精神のあり方を測定できるようになったため、行為主義ではない刑法のあり方が確立した。これは、現代社会とは異なる刑法概念によって成り立つ世界のシミュレーションと言えるのではないだろうか。

犯罪をAIで予測するシステムはすでに導入されている

 法よりもテクノロジーが人の行動を規定する未来は、現代を生きる我々にとって想像が容易だ。テクノロジーによって行動規範を決められる場面はすでに社会のいたるところで見かける。

 例えば近年、就職面接にAIを導入する会社が登場している。株式会社タレントアンドアセスメントが提供するAI面接サービス「SHaiN(しゃいん)(https://shain-ai.jp/about/)」は、日本の大手企業含む140社以上に導入されている。このサービスでは、スマートフォンの動画を通じてAIと対話を行い、柔軟性やストレス耐性、計画力など11の項目で対象を評価し、客観的な指標にもとづいて人事評価を行えると謳っている。こうしたサービスが一般化すれば、面接に臨む人間はまず第一にAIに気に入られることを考えるようになるだろう。

 米国ではAIによって犯罪発生地域を予測する「プレッドポル」というシステムがすでに導入されている。過去の犯罪発生データをもとに、犯罪発生率の高い地域を測定し、パトロールの人員を決めるものだそうだが、46平方メートルごとに区切り、犯罪が高い確率で発生すると見られる地域は赤く表示されるらしい。本シリーズにも犯罪者が出そうな場所を、エリアストレス上昇地域として警告するシステムがあるが、かなり近い発想ではないだろうか(参照:AIが犯罪を予測、是か非か 揺れるアメリカ社会:朝日新聞GLOBE+ https://globe.asahi.com/article/12287549)。

 その他、個人の信用度を数値化し、それに応じて受けられるサービス「信用スコア」の導入もなども進んでおり、テクノロジーによって人を評価するシステムは確実に社会に浸透してきている。本シリーズのシビュラシステムはその究極の進化系と言えるだろう。本シリーズの世界観は現代社会の延長線上にあるのだ。

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