『PSYCHO-PASS サイコパス』のAR謎解きゲームはなぜ面白い? リアルとSFの境界を攻めた制作陣を直撃

『PSYCHO-PASS』AR謎解きゲーム制作陣に聞く

 渋谷を舞台に、人気SFサスペンスアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の世界を再現したAR謎解きゲーム『PSYCHO-PASS サイコパス 渋谷サイコハザード』が展開されている。AR技術を駆使し、スマートフォンを通じて、実際の街を歩きながら謎を解いていく新感覚のエンターテイメントで、原作ファンからも、また謎解きゲームや最新テクノロジーに関心のある層からも好評を博している。

 この企画はどのように立ち上がり、どんな苦労を経て形になったのか。制作上で特にこだわったこと、また普通に遊んでいると見逃してしまうかもしれない“お楽しみポイント”とは。プロデューサーのフジテレビ・北野雄一氏、制作を手掛けるプレティア・テクノロジーズのディレクター・水上渚氏に聞いた。

※インタビューは1月に実施。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための緊急事態宣言を受け、5月6日まで開催を中止。以降の状況は公式サイトを参照。

「新しいトリックを作るのが、シナリオ開発上の課題だった」(北野氏)

ーー原作ファンの間で早くから話題になっていた『渋谷サイコハザード』ですが、1月のスタートからここまでの反響はいかがでしょうか。

水上渚(以下、水上):もともとファンの多い作品で、SNSでの反響が大きいです。会場で写真撮影を楽しまれる方が想定よりも多くて、こちらでご用意している公安局のコスチュームやドミネーター(作中に登場する特殊拳銃)のレプリカをよく手にとっていただけていますね。コスプレイヤーさんのビシッと決まったお写真もSNSで広く共有されていて、制作サイドも楽しんでいます。このように積極的に楽しむ気持ちで参加していただいているのは、本当にありがたいです。

北野雄一(以下、北野):最初の週末でプレティアが手がけたイベントのなかでも過去最高の動員を達成しており、現場でも非常に手応えを感じています。6月末までと開催期間の長いイベントなので、より多くの方に楽しんでいただけるよう、気を引き締めているところです。

ーーSNS上でもネタバレがほとんど見当たらず、いいファンに恵まれている作品だと思いました。『PSYCHO-PASS サイコパス』は骨太な内容で、大人なファンも多いですね。

水上:そうですね。プレスリリースを発表したとき、友人や前職の同僚から「実は『PSYCHO-PASS サイコパス』の大ファンで、関われるのがうらやましい!」という声をかなりもらいました(笑)。本当にファンの多い作品ですね。

北野:ARテクノロジー界隈からの反響も大きくて、「作品についてはそれほど詳しくないけれど、今回使われているテクノロジーに関心があって参加した」という方もいらっしゃいますね。


ーーなるほど。原作自体、ARテクノロジーとの親和性が高いですし、最新技術がどのようにエンターテイメントに活かされているか、ということが業界内でも関心事になっていると。

北野:そうですね。日本におけるVRやARのBtoCの市場が今後どうなるのか、という議論があるなかで、こうやって興行として成立する企画を仕掛けて、テック界隈から評価してもらえるのはうれしいです。フジテレビとしても注目している分野ですし、その最初の取り組みを“AR技術のバイブル”ともいうべき『PSYCHO-PASS サイコパス』という作品で実現できたのは大きいですね。

ーー実際に形になってみれば、“AR謎解き”というジャンルを開拓する作品は『PSYCHO-PASS サイコパス』をおいて他にない、と思えるのですが、そもそもどんな経緯で企画が立ち上がったのでしょうか?

北野:もともと、プレティアが手がけている『サラ謎』(AR謎解きゲーム『サラと謎のハッカークラブ』)を体験する機会があって、「一緒にやりたい」と思っていたんです。水上さんとは、たまたま同じビジネススクールの出身なんですが、その矢先に同窓会があって、意気投合したところ、奇跡的にプレティアに転職するタイミングだったことがわかったので、すぐに代表取締役CEOの牛尾湧さんを紹介してもらいました。「相性の良いIPが出てきたら連絡します」と約束した後、昨年の10月期に『PSYCHO-PASS サイコパス』TVシリーズ第三期の編成が決まった時には、”キタコレ”と思って企画を提案しました。そこからは、作品とARを愛する者同士の会話でした。


ーーそこから制作が始まったと。最初の段階で苦労したことはありましたか?

北野:『PSYCHO-PASS サイコパス』の世界では、実際に犯行に及んでいなくても、犯罪係数が規定値を超える“潜在犯”は社会から隔離され、場合によっては排除されます。その世界観を前提として、「なぜその犯罪を実行できたのか」を説明できる新しいトリックを作るというのが、シナリオ開発上の課題でした。それもあって、アニメの製作委員会とは慎重にやりとりを重ねました。

ーーネタバレは避けますが、オリジナルエピソードにふさわしい重厚なストーリーになっています。これは単に“IPをゲームに利用する”ということではなく、フジテレビが本腰を入れて制作に携わったことも大きそうですね。

北野:そうですね。僕自身が作品のファンだったこともあって、中途半端なことはしたくないと。プレティアの皆さんも『PSYCHO-PASS サイコパス』という作品をとても重んじてくださったので、一丸となって制作を進めることができました。

水上:プレティアはスタートアップ企業で、オリジナルのコンテンツしか手がけてきませんでしたから、このタイミングで、これだけ大きいタイトルでAR謎解きゲームを制作できるというのは、絶対に逃してはいけないチャンスだと考えて、本気で臨みました。


ーー実際に体験して、謎解きのバランスがとてもいいと感じました。必ずしも謎解きに習熟していない原作ファンも多いなかで、難易度が高過ぎれば結末まで至れないプレイヤーも多いでしょうし、かといって簡単過ぎればストーリーを追うだけになってしまい、カタルシスがない。その点、今回の『渋谷サイコハザード』は固定観念に囚われているとなかなか抜け出せない難易度でありながら、初心者でも知恵を絞り、ヒントを駆使すればきちんと時間内にクリアできる内容になっています。バランス調整に苦労されたのでは?

水上:本当に最後の最後まで調整を重ねました。最初は謎解きファンが求める“手応え”を主眼に置きながら制作していたのですが、おっしゃるように、参加が想定される『PSYCHO-PASS サイコパス』ファンは、日頃から謎解きゲームを楽しんでいるような方ばかりではないだろうと。作品の世界観を十分に楽しんでいただく、ということを考えると、難易度は高すぎないほうがいい。そこで、徐々に核心に迫っていく「ヒント」を使い続ければ、高い確率でクリアできるようにしました。制限時間との兼ね合いもあるなかで、謎解きゲームのコアなファンの方は、あえてヒントを使わずに楽しんでいただければと。

ーーヒント機能が充実していることで、プレイヤー自身が難易度を調整することができますね。

北野:僕はもともと謎解きゲームが大好きで、週末は午前中から謎解き仲間とゲームに参加して、反省会と称して居酒屋で昼間からお酒を飲むのを楽しみにしています(笑)。そんなこともあって、仲間と過ごす一連の体験を思い浮かべながら、どうしたら満足してもらえるかを追求しました。

 また、『PSYCHO-PASS サイコパス』はオリジナルの作品であり、内容を詳しく知らない方にもその世界観に入り込んでもらうために、どうしても説明が必要で、一般的な謎解きイベントに比べて、テキストの量が多くなります。“2時間の公演”と捉えたときに、テキストを読んでもらう時間と、謎解きに向き合う時間のバランスも悩ましいところで、ノベルゲームと謎解きゲームの間を攻めた感じです。謎解きの難易度は、実際に街を歩く“体験イベント”としての満足感にも直結するので、達成感との両立には、試行錯誤しました。

ーートータルな体験としてのバランスですね。“街歩き”という意味では、渋谷の大通りから少し外れて、路地のような小道に入っていくとき、まさに足を使って捜査している感覚になりました。

北野:渋谷にオフィスを構え、街を知り尽くしているプレティアだからこそ、できた仕掛けだと思います。

水上:ルートの面白さと安全性、ARを展開できるスペースはあるかどうかなど、様々なことを考慮しながら検討しました。現状、想定外のトラブルなどはなく、ホッとしています。

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