Spotify「RADAR」と「Altar」に見る、新進気鋭のローカルアーティストサポート戦略

Spotifyの巧みなローカルアーティスト支援

 また、ローカルのアーティストをプッシュしていくという点では英国で展開されている「Altar」というSpotiy公式プレイリストも興味深い。このプレイリストには人気ネットラジオ局「Rinse FM」出身のプレイリストエディター、Christie Driver-Snellが関わっており、同国が誇るダンスミュージックカルチャーとその潜在的なオーディエンスの関心を背景にその中の新興シーンとそこに関わるアーティストやテイストメーカーをサポートするという目的が与えられている。

 その特色として挙げられるのは、英国を拠点に活動するFour Tet、Bonobo、直近ではDiscosureのような著名DJ/プロデューサーをキュレーターに抜擢することで、実際にローカルのクラブやフェスの現場でプレイされる楽曲とその作り手である有望なアーティストにより多くの人に認知される機会が与えられるという点だ。

 「Altar」は「RADAR」と比較した場合、サポートの規模としては小さいものになっているが、こちらもまた気鋭のローカルアーティストをサポートしていくというSpotifyの気概を感じ取ることができる。特に「Altar」がキュレートするクラブミュージックはポップスと比べてどうしても特定のアンダーグラウンドかつローカルなコミュニティ内での認知に止まりがちだ。それをすでに世界的な評価を得ている著名DJ/プロデューサーをの影響力を背景に広げていくことは、戦略的にも今後のキュレーションされたアーティストのキャリアの発展に期待が持てる施策ではないだろうか? 

 音楽ストリーミングサービスは性質上、アーティストのカタログがあって成立するビジネスだ。また現在、Spotifyは音楽を配信するだけにとどまらず、例えば傘下の「SoundBetter」によって、”音楽制作”の現場からアーティストに関わっている。そういった構造と「RADAR」や「Altar」のような新進気鋭のアーティスト支援プログラムは地続きの施策といえるのではないか。

 なお、現在、新型コロナ禍により音楽業界は深刻な被害を受けており、Spotifyは大規模な寄付や関連サービスの収益還元などを打ち出すことで業界の支援を行なっている。これもまたSpotifyの性質上、必然的な支援といえるだろう。

■Jun Fukunaga
音楽、映画を中心にフードや生活雑貨まで幅広く執筆する雑食性フリーランスライター。DJと音楽制作も少々。
Twitter:@LadyCitizen69

参考:
https://newsroom.spotify.com/2020-03-09/36-new-artists-around-the-world-that-are-on-spotifys-radar/
https://musically.com/2020/03/09/radar-spotify-program-emerging-artists/
https://mixmag.net/feature/spotifys-christie-driver-snell

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